第21話

 あれから日は跨ぎ、久田ちゃんと一緒に女子バスケ部の練習試合を観に行く日になった。


 いや、違うな。久田ちゃんと半デートする日、だよな。2人きりって事はもうこっちがデートって思えばそれはもうデートだからな。


「ど〜れ〜に〜し〜よ〜う〜か〜な?」


 バリエーションの少ない服を床に並べて今日着ていく服を選ぶ。それは昨日するやつなのかもしれないけど、俺は今日する事にした。


 どうしてかって?気分だよ気分。俺は今日選びたい気分だったんだよ。


 分からないんだけど2人きりのお出かけって早乙女よりも早くないか?もしかしてまた俺、何かやっちゃいました?


 まぁそんな事無いんだけどね。絶対に俺の知らないところでデートしてるよ、あの2人。あいつら俺にデートするよっていうお知らせもデートしたよっていう報告もしないんだよ。


 じゃあ俺は一体どこであの2人を茶化せば良いんだよ。「ヒューヒューこの夏の日よりもお熱いね〜」っていつ言えば良いんだよ!言わせてくれよ…、俺の仕事が無くなっちゃうじゃん…。俺も仲間に入れてくれよ…。露骨な仲間外れはやめてよ…。


 まぁここから本格的に仲間外れになってくるから慣れておかないとな。みんな早乙女に矢印が向くから俺なんて空気みたいな扱いになるからな。


 じゃあ今のうちに慣れておくのも良いのかもしれないな。


「おい」


 女子バスケ部の練習試合を観に行く準備が出来たから家を出ようとしたけど、そういう訳にはいかなかった。


 俺はどこから持ってきたか分からない布団を敷いて寝ていた女神に声をかける。


「…ん〜?」


 返事はするけど付けているアイマスクは外さない。って事はまだ寝るつもりなんだろう。


「俺、出かけるからな。ご飯は冷蔵庫に入ってるから勝手に食っとけよ」


「は〜い…」


 どうして俺は朝早く起きてコイツの飯を作らなきゃいけないんだよ!もうコイツ転生前の俺じゃん!まんま俺じゃん!


 ずっと寝て、作ってくれたご飯を食べて、ゲームして、寝て。…いや、俺じゃん!


 女神がヨダレを垂らしながら寝てる姿を見て、俺ってこんなんだったんだ…と、情けなくなってきた。


 今にも手が出そうになるけど、おばあちゃんはこれを毎日やってたんだ…、と思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「よしっ!」


 会おう。会ってちゃんと謝ろう。だから俺は頑張ってるんだろ?


 そう、決意を胸に俺は玄関に向かった。


 外を出たら暑いんだろうなぁ、外を出るのに勇気がいるって何だよ!もうちょっとだけ地球のエアコンの温度下げてくれよ!俺道で干からびてるミミズみたいになりたくねぇから!


 ガチャ


「うわっ」


 ドアを開けた瞬間別世界に来たのか?ってくらい暑い。


 あまりにも暑いからイライラしてしまう。久田ちゃんに会う前には自分の機嫌を取っとかないとな。


 待ち合わせの場所に着いたけど久田ちゃんはまだいなかった。


 当然だ、俺は遅刻したくないから結構早めに来てしまったからだ。こんなに早めに着いても暑いだけなのにどうして俺は…。こういうのが考えられないから俺はいつまで経っても生きるのが下手なんだ…。


 水野だから遅刻ギリギリに来ても水野だから仕方ないってなるんだからもうちょっとゆっくりでもよかったのに…。どうしても守口宏人が出てきてしまう…。


「あっちぃ」


 近くの建物の陰に隠れて太陽の日から逃げる。


 こんな暑いのに部活してるのヤバくない?本当に尊敬するよ。それに比べてうちの女神は…。


「…ん」


 うちの女神を小馬鹿にしていたらいつの間にか久田ちゃんが目の前に現れていた。


「おはよう。元気してた?」


 久田ちゃんとは合宿以来会ってないから懐かしく感じなくもない。


「…まぁまぁ」


「それは良かった」


 元気だったようで嬉しいよ。久田ちゃんは生きてるだけで偉い!生まれてきてくれてありがとう!生きてる世界遺産!


「ほいじゃあ、行きましょうか」


「…ん」


 相変わらず口数が少ない。でも、そこが良い。


 俺と久田ちゃんはこんな暑い中練習試合が行われる総合体育館へと向かった。


「合宿の後どこか行った?」


 早乙女と出かけたのかな?と思い、思い切って聞いてみた。


「…どこも」


「ずっと家にいたの?」


「…友達と買い物に行った」


「え!?ハルカちゃんって友達いたんだ!」


 あまりの衝撃に体が仰け反ってしまう。


「……」


 キッ!と睨まれる。だって原作の方じゃクラスに馴染んでなかったから俺からしたら友達がいるって衝撃の事実だったんだよ…。


 でも、友達がいる事に驚くって失礼だよな。蹴られなかっただけラッキーだったな。


「…何?友達がいたら悪いの?」


「そういう訳じゃないんだけど…、いつの間にそんな仲良くなったの?」


「…まぁちょっと、色々聞かれる事が多かったから…。相談とか…愚痴とか…聞いてもらってたら仲良くなった」


 はは〜ん。さては早乙女の事だな?早乙女との関係を聞かれて、相談して、その流れであの難聴系鈍感主人公の愚痴を聞いてもらってるんだろ?


 あれれ〜?顔が赤いのは夏の暑さでしょうか?それとも…、ムフフフ。これはこれは、良きですなぁ。


 ダメだダメだダメだ。ニヤニヤするな。ニヤニヤしてたら蹴りが飛んでくるぞ。


 かわちぃねぇ〜。もう恋する乙女じゃん。


 俺の知らないところでもう結構進んでたんだな、一安心したよ。あまり積極的じゃない久田ちゃんがこれならもう勝ち確かもしれない。ここからはハーレーでウイニングランを爆走するだけかもしれない。


「……」


 ゲシッ!っといつも通り脛を蹴られる。


「…ニマニマするな」


「あははは。ごめんごめん。ハルカちゃんに友達がいて俺は嬉しいよ」


「…謎の親目線、ムカつく」


 そりゃ親目線にもなっちゃいますよ。だってあんな人を寄せ付けなかった久田ちゃんに友達がいるってなったら俺の中にある母性が爆発しますよ。


 久田ちゃんがクラスに馴染めたのはそれもこれも早乙女のおかげって訳だな。そら、好きになっちゃうよね。分かる。


「あのハルカちゃんがって思うとね、嬉しくて。シクシク」


「…嘘泣きやめろ」


「ごめんごめん」


 でも、嬉しいのは本当だよ?だって原作だと友達といる描写が無かったから。これは良い意味で原作通りにいってないな。これからもこういうのを増やしてよ、嫌なことばっかり原作からズレるのはもうやめて。


「…暑い」


 久田ちゃんは持っていたカバンから折り畳みの日傘を取り出した。


「え?」


「…何?」


「紫外線好きじゃなかったの!?じゃあUVカットを恨んでないの!?UVカットをカットしてくださいって言わないの!?」


 昨日は好きって言ってたのに!そんな奴世界でたった1人だと思ってたのに!


「…そんな訳ないじゃん。バカなの?」


「くっ…。騙された」


「…これは騙される方が悪い」


「くっ…、い〜や騙す奴が悪いに決まってるね」


「…おい、入ってくんな。暑い!」


「入れて入れて〜。日傘で相合傘しよや」


「…普通日傘で相合傘はしない」


 こんな感じで俺と久田ちゃんは女子バスケ部の練習試合が行われる総合体育館へ向かっていった。

 

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