第15話

「あの〜」


「…なに」


 なにって…この状況でよく言えるね。


「俺、別にどこにも行かないよ」


 …あれ?デジャブ?これさっきと同じ会話したよね?おかしいなぁ、俺の記憶が飛んだだけなのかな?


 久田ちゃんは俺が逃げないように袖をギュッと握る。


 俺の記憶が正しければこれで2回目のはずだ。


「…どっかに行っただろ」


「あれはハンカチを落とした子がいたから届けただけで、どっかに行ってないよ」


 目の前でハンカチを落としたのを見たからにはちゃんと届けないとね。


「…2回も」


「2回目は重そうな荷物を持ってたから助けに行っただけだよ」


 フラフラして危なっかしい子がいて、見たからには助けに行かないとね。


「…本当は逃げようとしてる」


「してないしてない」


 この袖ギュッってやつ嬉しいけど恥ずかしいんだよなぁ。これを天秤にかけたらギリギリ恥ずかしいが勝っちゃうからできればやめてほしい。


 やめたらやめたらで寂しいんだけどね。


 …面倒くさい男で悪かったな!


「…とりあえず着くまではやるから」


「はい」

 

 ここは大人しく従っておいた方が良いな。





 ガラガラッ


「あれ?誰もいない。俺らが1番乗りだ」


 部室の中には誰もいなかった。でも、部室が空いてるって事は先に誰かが来ていたはずだ。


「…ほんとだ」


「誰か来るまで待ってよっか」


 久田ちゃんは俺の言葉にコクリと頷く。


 久田ちゃんは握ってた袖をパッと離して部室に置かれている椅子に向かった。


 俺は窓側の席に座って久田ちゃんは反対方向のドア側に座った。


 袖をギュッとされたから距離が近づいたと思ったけどそうではない。自然と俺とは距離をとっちゃうからまだ俺には心をそこまで開いてくれてない。


「ボードゲームでもやる?」


「…みんなが来るまで待つ」


「そっか」


 ボードゲームの提案をしたけど却下されてしまった。みんなとやった方が楽しいから待つ、という可愛い理由で。


「…」


「…」


 いつもなら軽い冗談を言って呆れられるのをするんだけど、今日はちょっとだけ気まずい。


 多分だけどさっきの袖ギュッが効いてるな。顔を見るだけでも照れ臭い。


 あっちは気にしてないみたいだな、俺の事なんか気にせずに貰った夏休みの宿題をもう始めてる。


 すごいよね、俺は典型的なギリギリになって焦るタイプだから計画的にやる人に憧れちゃうな。


 転生前の俺は友達もいないし、ずっと家にいたのに宿題はなかなか手をつけなかったなぁ。始めると何時間もいけるけど、なんせ手をつけようとも思わないからね。


 そら、宿題がギリギリになる訳だ。


「…!」


 宿題から顔をあげた久田ちゃんと目が合った。


「…こっち見んな」


「すんません」

 

 久田ちゃんを見ていた事がバレてしまった。


 これは恥ずかしい、素直に謝ってるのも恥ずかしいポイントが高い。いつもなら冗談を言ってるくせに、「つい、見惚れちゃって」とか言っとけよ。


「……」


「……」





 おーい!誰か来てくれー!まだ久田ちゃんと2人きりは無理だって!どうして久田ちゃんはそんな平気なんだ。


 こんな事なら無理やりにでもボードゲームしとけば良かった!


 


 ガラガラッ


「ん?2人だけ?」


 おおおー!!新色が来てくれた!お前は俺の救世主だよ!


「うん。2人だけだよ」


 本当はめちゃくちゃ嬉しいけどその感じを出さない。ここで俺のイキリ陰キャの部分が出てしまった。余裕がある俺カッケーがまだ俺の中にあるとはな。


「あれ、久田ちゃん汗すごいよ?」


「…別に、大丈夫」


 確かに暑いけどそんな汗をかくほどではないし、何より久田ちゃんは冷え性だから。


「…何か久田ちゃんにやった?」


 新色は俺を蔑むような目で俺を見てくる。


「どうして俺が何かやった前提なの!?」


 おかしいよ、俺は何もやってないのに最初から俺を疑うなんて。まぁ同じ立場なら俺でも俺を疑うけどな。


 だってそんな事するバカなんか俺しかいないもん。じゃあ俺が犯人ですよ、と言ってるようなもんだ。


「そんな事するの水野しかいないから」


「酷い!こんな心優しいのに!」


 良かった〜一気に明るい雰囲気になった。これだよこれ、これが俺の好きな雰囲気なんだよ。本当に来てくれてありがとう。


「部長はまだ来てないの?」


 新色がキョロキョロと周りを見渡す。


「そうなんだよ、まだ来てないんだよ」 


「へぇ〜」


 どうしたんだろ?先生に呼び出されたのかな?早く来てほしいなぁ、ときドキのヒロインが3人いるだけで俺は幸せなんだ。


「そう言えば昨日何言われたの?」


「何が?」


「文月先輩のおばあさんから何か言われてたでしょ?」


 そら、気になるよな。俺だけ残されて何か言われたんだから。


「あ〜先輩を泣かしたから殺すって」


 とりあえず適当な嘘をついておく。


「へぇ、じゃあ水野の命もあと少しだね」


「笑顔で怖いこと言わないで!」


 めちゃくちゃ良い笑顔で言われてしまった。言ってる事が怖くなかったら惚れちゃってたよ。


「水野ってすぐ女の子泣かすもんね」


「泣かした覚えがないんですけど…」


 俺ってそんな罪な男だったか?いや、俺は無罪な男だ。今までの人生罪を犯したことがない。


 今思ったけど俺、水野だからもうちょっとモテても良いよな?そら、俺だったらモテないけど水野祥太だよ?もうちょっとモテても良いと思うんだけどなぁ。


「この部活って夏休みも活動するのかな?」


「どうなんだろう?」


 合宿をするのは知ってるけど、そうじゃない日の夏休みはどんな活動するんだろう?ここに集まってゲームだけするのかな?


「お盆もあるのかな?」


「ないないない!強豪校の部活じゃないんだから」


 ここオカルト研究部だよ?オカルト研究部なのに集まってゲームするだけだよ?そんな部活がお盆も部活をするはずがない。


「…水野って夏休み暇な日あったりする?」


 そんな普通のことをモジモジしながら聞かなくても良いのに。


「バカどもと遊ぶ以外暇だから、結構暇だね」


 女の子と遊ばずに男と夏を過ごすって夢がないよな。


「へぇ〜暇なんだ。へぇ〜」


「…あ!もしかして俺とデートしたいのかな?」


「違っ!」


「デートしたいならデートしたいって言えば良いのに」


「だから違うって!」


 怒ってる新色が可愛いから思わずニヤニヤしてしまう。そんな可愛いから俺も冗談言っちゃうんだよ。


 …冗談なんだからそんな本気で怒らなくても良いのに。



 ガラガラッ


「おーす!元気してる?」


 早乙女が陽気に部室に入ってきた。やっぱりこいつ性格おかしくなってない?原作の早乙女は元気してる?とか言わないもん。


 でも、正直今の早乙女はイキイキしてて好きだから何とも言えない。最高の友達って感じで俺は原作よりも何倍も好きだ。


「おー!相棒!」


「おー!親友!」


 お互いさっきまで教室で一緒だとは思えないほど会えたことに喜んでる。


 相変わらず俺たちの友情をバカね、みたいな顔でヒロインたちは見ている。…見せもんじゃねぇぞ!


「部長はまだ?」


「部長はまだ来てない」


「部長来るまで待機してる感じ?」


「そう」


 まぁ部長が来たところで活動することなんかほとんどないんだけどね。


 

 ピロリン♪


「ん?」


 新色の携帯が鳴った。友達かな?新色もすっかりクラスに馴染んで友達もできて俺は嬉しいよ。


「文月先輩から急いで生徒会室に来て、て」

 

 もうフミちゃん先輩の連絡先知ってんの?…羨ましい。何かの間違いで俺にも教えてくれないかな?


「生徒会室?」


「急いでって書いてあるし、とりあえず生徒会室に行こ」


 生徒会室?どうしてだ?


 

 …いや、1つだけ心当たりがある。それだと非常にまずいことが起きてる。考えるだけでも恐ろしい。




 …え?何が非常にまずいかって?












 

 また原作が変わったかもしれないんだよ!!

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