第16話
どうして久田ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!久田ちゃんが何をしたって言うんだよ!何もしてない久田ちゃんがこんな目に遭うとかあまりにも可哀想だろ。
あの後保健室に行くまでの間ずっと震えてたからな、よっぽど悔しかったんだろうな。
もう許さないと心に決めた俺は朝早くから学校に来ていた。昨日の黒板の件があるから今日もやる可能性が高い。だから今日は犯人よりも先に待ち構えてとっ捕まえてやる。そして、終わらせるんだ、このしょーもない嫌がらせをな。
「やっぱりアンタだったんだ」
教室から入ってきた柴村美咲は突然そう言った。こいつは一体何を言ってるんだ?
「何が?」
「何がって、…まぁいいよ。とりあえずその机に落書きするの辞めたら?」
そう、俺は今久田ちゃんの机に落書きをしていた。
柴村美咲に辞めたら?と言われたのでペンにキャップをして机に置く。
「で?」
「で?とは?」
「アンタが呼び出したんでしょ?」
そう、こいつを呼び出したのは俺だ。
「こんなのわざわざカバンに入れて」
柴村はカバンから紙を取り出して俺に見せつける。その紙は俺が昨日柴村の目を盗んで入れておいた。
「素直に来てくれて良かったよ」
まぁ来なかったら久田をいじめてた事をバラすって書いたから来るのは分かってた。
「俺って分かったんだな」
「だっておかしいでしょ。私たちは何もやってないのに」
「ほう」
とりあえず適当に相槌を打っておく。
「黒板のやつは私たちが来る前からあったし、文字が私たちの誰でもなかった」
「そうか?文字くらい誰でも寄せられるもんだろ?」
世の中には他人のサインを真似して金儲けする奴がいるくらいだから文字真似するまではいかないけど似せる事は出来るだろ。
「その今書いた落書きとこの紙に書かれた文字がそっくりだった」
「そうか?」
「まだあるから。あんたあの時ズボンの裾捲ってたのって久田に水を被せるた時にかかったんでしょ?」
「いや?あの日は暑かったからな、俺って暑がりだからさ」
あの日は30℃くらいだったから別に暑いからやった行動としてはおかしくない。
「それに、昨日は体育が無かったのになぜか久田がジャージを持って来てたのもおかしかった」
「…」
「こんな偶然が重なったら疑うのが当然だと思わない?思わない方がおかしいよ」
「…」
「何か言ったら」
「…さすがだな。全部正解だよ、お見事」
俺は拍手を柴村美咲に送る。なんか強者感が出てかっこいいな。
そう、黒板もびしょ濡れも俺たちがやった事だ。俺たちって事はもちろん久田ちゃんも協力してやった事だ。
黒板のやつは用務員さんに協力してもらって夜に2人で学校に忍び込んで書いたのだ。あんな無数の悪口を1人で書くのは疲れるからな。あの時の夜はドキドキしたなぁ、おかげで寝不足になったけど。
びしょ濡れのやつも俺が水を被せたし、裾を捲ってたのは濡れてるのをバレないようにするためだ。まさか裾を捲ってた理由までバレるとは。
やっぱりこいつは賢い。だからこそ原作では文化祭までいじめがバレなかったんだ。
廊下から2人の足音が聞こえてきた。もうそろそろだな。
「じゃあこれ、俺がやったって正解出来たプレゼント」
「は?…へ?」
そう言って俺はさっきキャップを閉めたペンを柴村に下投げで渡す。柴村は俺から投げられたペンを反射的にキャッチしてしまう。
あーあキャッチしちゃった。
「どうしたの、急に教室に来てほしいって」
「教室に着いたら話します」
教室に久田ちゃんと先生が入って来た。
俺らが話してる間に久田ちゃんが先生を教室に呼び出したのだ。まぁこれも俺と久田ちゃんの作戦なんだけどね。
「ん?柴村に水野じゃないか」
教室に入って来た先生は俺と柴村に気づいた。
「先生!見てくださいこれ!」
俺は落書きだらけの久田ちゃんの机を指さした。
「どうした?…何だこれは!」
「俺が教室に来た時に柴村が書いてるのを見ました!」
「これ、柴村がやったのか?」
「私じゃないです!私より先に水野が来て書いてたんです!」
「でもほら、見てください先生!柴村の手にマジックが!あれで書いてたんですよ!」
俺がさっき柴村にマジックをプレゼントしたのはこれが目的でやったのだ。柴村が咄嗟にキャッチしてしまったのがお前の敗因だな。
「やっぱりお前だったか。噂も流れて来てたからな柴村と柴村の周りがやったってな」
そう、最初の黒板のやつはいじめをみんなに認知してもらって、それを柴村たちがやったと噂を流す。俺が教卓に立って注目を集めて必要以上に事を大きくした。
びしょ濡れのやつで先生に認知してもらう。もちろん先生は誰がやったか調べる時に生徒の噂が耳に入る。
生徒の噂なんかすぐに回るからな、転生前は何回好きな人を全生徒に知られたことか分からない。
で、今回は言い逃れが出来ない直接見てしまった、と。…やったのは俺だけどね。
「待ってください!ほら、この紙に今日の朝来いって、水野が…あれ?」
俺が昨日渡した紙を先生に出そうとしたけど、紙はどれだけ探しても見つからなかった。
その紙は俺と柴村と先生が話してる隙に久田ちゃんがこっそり取っておいたんだ。久田ちゃんがチラッと俺にその紙を見せて来て、俺は久田ちゃんにだけ見えるように親指を立てて口パクで「ナイス」と言った。
さすが久田ちゃんだ!もしかして前世はクノイチだったのかな?
「待って!先生!私じゃない!水野、水野がやったの!水野が全部やったの!」
柴村は最後の悪あがきで俺がやったと言い訳をする。まぁ言い訳じゃなくて実際に俺がやったんだけどね。
「何言ってんだ水野がやる訳ないだろ」
そう、水野祥太は教師陣の好感度がめちゃくちゃ高い。ふざけてばっかだけどこんな事はしないと信用してるのだ。
それに比べて柴村や柴村たちの好感度は高くないからどっちを信じるかって言ったら俺を信じるに決まってる。
「とりあえず生徒指導室まで来い」
「でも」
「聞こえなかったのか?生徒指導室に来い」
「…はい」
柴村は言い訳を諦めて先生について行った。
…あ、作戦の最後の仕上げをしとかないとな。
「あー日頃の行いがよくて良かったなぁ。やっぱり日頃の行いって大切だなぁ」
これが伏線回収作戦だ。見事に決まったな。…決まったよな?
最後の仕上げをした時久田ちゃんは嫌そうな顔で俺を見た。やっぱり久田ちゃんはこの作戦名が好きじゃないようだ。
柴村はどれだけ離れてても俺から目を離さなかった。ここで俺も目を離したら負けな気がしたから柴村が視界から消えるまで目を離さなかった。
「いやー上手くいったね」
先生に聞かれたらマズイから視界から消えたのを確認して久田ちゃんに話しかける。
「…うん」
「実は柴村の奴、俺がやったって気づいてたんだよ」
「危な」
「でも、ハルカちゃんの演技のおかげで何とかなったよ。あの悲しそうな顔、あれはみんな騙されてたよ」
黒板のやつとびしょ濡れになったやつの久田ちゃんのあの悲しそうな演技があったから噂も広まったようなもんだ。
「それに柴村から紙を盗んだの、あれすっごい助かったよぉ。ありがとね。あ、もしかして前世クノイチ?お色気の術とか出来る?」
久田ちゃんに思いっきり睨まれた。
「ごめんごめん。冗談冗談」
久田ちゃんも水野祥太の冗談に慣れたらしく、俺が冗談って言った後ちょっとだけ微笑んだ気がした。
「一生ハルカちゃんに手が出ないようにもうちょっとだけ懲らしめる?」
「ううん。もう充分」
「そう?」
「うん。どうせ近いうちに緊急で全校集会が開かれて学校内にこの事が広まって居場所がなくなるから。そしたら貴重な高校生の時間をいじめた奴らって目で見られながら生活を送る事になる。大人の3年と高校生の3年じゃ価値が違う」
そんな先の事まで考えてたんだ。
「それに」
「それに?」
「また守ってくれるんでしょ?」
ズッキューーン!!今のはズルい。完全に俺のハートは射抜かれてしまった。
「うん。絶対に」
そんな事言われて断る奴なんていないでしょ。それに久田ちゃんが頼るって相当心を許してくれた証拠だから、その期待には応えたい。
「とりあえず今日は助けてくれてありがとう。ハルカちゃんのおかげで解決出来たよ」
作戦を考えたのは俺だけど実際に俺は結構足を引っ張ってたからな、柴村にほぼ気づかれてたし、挙げ句の果てには早乙女にもバレちゃってたからな。久田ちゃんがいてくれたから成立した作戦だ。
「………っちこそ………とう」
「ん?なんか言った?」
「何も言ってない」
「え〜もっかい言ってよ〜」
「…」
無視されちゃった。
でも、俺は難聴系主人公じゃないからちゃんと聞いてたよ。
こっちこそありがとう。
…遅くなってごめん。
机落書きだらけだけどどうしよう…。何も考えてなかった。
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