第6話
時間は流れてオリエンテーション合宿がやってきた。
オリエンテーション合宿の時間が経つまでの間もなかなかしんどい時間があったんだけど、新色の連絡先を眺めるだけで俺のHPは回復した。新色は俺のポーションになってくれてた。
そして、何とですね…、ちょっとだけメッセージのラリーをする事が出来ました!
とは言っても俺の役目は新色と仲良くなる事じゃないから、早乙女の良い所を教えてちょっとでも良いから好感度を上げるような動きをした。
俺の好感度を上げてもしょうがないし、それに新色は早乙女一筋だから逆に早乙女の情報を与えた事で俺の好感度が上がったかもしれない。
何回も下書きを書いては消して、書いては消してを繰り返してたから「まだ?」とか「もう寝たの?」とか新色をいっぱい困らせてしまったのは申し訳無かった。
…あれ?ちょっと待て?原作で新色と水野は連絡先交換ってしてたか?そんな描写は無かったし、わざわざ出すような情報じゃない。もしかしてまた原作に無い事した?いや、水野は誰とでも連絡先を交換する奴だから持ってるはずだ。
そもそも多少原作に無い事をやっても早乙女への好感度を上げれば良いんだからそんな細かい事は気にしてもしょうがない。それにメッセージのやり取りでも早乙女の好感度が上がってるならメリットしか無い。
こうやって自分の中で言い訳をして、新色とのメッセージのやりとりを正当化する。
昨日もね明日のオリエンテーション合宿楽しみみたいなメッセージを俺にくれたんだぜ?教室じゃあんなに冷たいのにメッセージのやり取りだったらちゃん返信してくれるの優しすぎ!これがファンサってやつか!新色しか勝たん!
でも、今回のオリエンテーション合宿は久田ちゃんがメインだから。別に推し変とかじゃ無いから、俺って箱推しだから。
楽しみだなぁ、オリエンテーション合宿で久田ちゃんの可愛いところがいっぱい出てくるから。
もちろん俺には原作通り進めるという大きな目標を達成しないといけないから推しが2人いるからってデレデレばっかしてる場合じゃない。また何が起こるか分からないから気を引き締めてオリエンテーション合宿に挑もうと思う。
勝って兜の緒を締めよっておばあちゃんはよく言ってた。まさしくその通りだ、俺はまだ新色のプロローグ的なものしか終わってない。まだ久田ちゃんにフミちゃん先輩に夏休みに体育祭に文化祭に…、まだまだイベントはある。
おばあちゃんの言葉を胸に俺はオリエンテーション合宿に挑もうと思う。
「全員いるか?何か問題ある奴いるか?」
ここで俺は手を挙げた。
「はい。早乙女が日曜日に綺麗なお姉さんにナンパされてました」
土曜日はクラスの奴らと遊んで、日曜日は早乙女と遊んでた時に俺だけ無視して早乙女だけ声かけられたのが悔しかったし、何より恥ずかしかった。
ただでさえこれからヒロイン達とイチャイチャラブラブ出来るのに綺麗なお姉さんにもナンパされてるの見たらこっちだって思う事はある。
…羨ましい。
「おい!関係ねぇだろ!」
「それは大きな問題だな、後で先生の所に来るように」
やはりモテない先生は許してくれなかった。
「行かねぇよ!」
「後で俺たちの所にも来るように」
クラスの男連中が羨ましそうに早乙女を睨んでる。
「だから行かねぇよ!」
モテ男にはこれくらいしてもバチは当たらないだろ。本当はもっと当たって欲しいけど、今日は早乙女に頑張ってもらわないと。
「じゃあ各班で山頂まで来るように」
「「「はい」」」
「荷物重くない?」
「こっち見んな、潰すぞ」
「ハルカちゃんのバッグ可愛いなぁ、持ってみたいなぁ」
久田ちゃんのバッグは紫と緑のカラフルなバッグでギャップがエグい。
「触ったら殺すからな」
「あれだったらハルカちゃん事おぶろうか?」
「喋んな、死ね」
久田ちゃんの荷物が重そうに見えたから久田ちゃん事おぶろうと提案したら怒られてしまった。他人に荷物を預けたくないタイプなのかな?
「今日ハルカちゃんが来てくれて嬉しいよ、来ないかもって思ってたから」
「だから、喋んなって言ったよな?聞こえなかったか?」
あー怖い怖い、可愛い。
そんなに睨んでも可愛いだけだよ、逆効果だからやめた方が良いよ。
あ、これもファンサなのか。やっぱり久田ちゃんしか勝たんよ。
「いやーいい天気だね、絶好のオリエンテーション合宿日和だよ」
「……」
「あ、日焼け止めいる?俺の貸そうか?」
「……」
無視はキツイよ。どれだけ推しだろうと無視はキツイよ。もっとキツイ言葉でも良いから何か返して欲しい。
どうしてこれだけ無視されても話しかけるのにも理由がある。今はちょっと前で早乙女と新色が話しながら歩いてるんだけど、俺がうるさいって理由で新色と久田ちゃんがチェンジする。
この後ころびそうになった久田ちゃんを助けるイベントがくるから、何としてでも前に久田ちゃんと早乙女にしたい。だからこうやってしつこく話しかけてる。
「ねー」
「やっぱりそうだよな」
あっちは盛り上がってて良いなぁ。バスも隣だったんだぜ?信じられる?このギャルゲーの主人公がよ。俺は相変わらずキモイ奴の隣であっちは新色と隣ってこの差って何?ってキモイ奴に言ったら類は友を呼ぶんだよって言われたからガチで泣きそうになった。
俺はちょっとの間だけでも抵抗として久田ちゃんとお話しがしたいのだ。
「犬と猫だったらどっちが好き?俺は犬なんだよねぇ」
久田ちゃんはうさぎ派なのはとっくに知ってる。
「朝はご飯派?パン派?俺はねぇパン派なんだよねぇ」
久田ちゃんは朝はコーンフレークを食べるのは知ってる。
「やっぱりラーメン一杯に1000円高いと思うよね?」
久田ちゃんは美味しいものなら何円だろうと構わないのは知ってる。
…俺は何をしてるの?質問して無視されて、でも、俺は知ってるよ、を繰り返して。だから俺はキモイ奴を呼ぶんだな。
「チッ」
俺にハッキリと聞こえる舌打ちをして前の方へ移動していった。それはもう舌打ちっていうよりチッって言ってるからね、舌打ってないよ。
あーまだ行かないでと言いたいけど止めてしまうと原作が変わってしまうから口を裂けても言えない。
「ん」
「やっほーサラサちゃん」
久田ちゃんと入れ替わりで新色が後ろにいる俺の所へやってきた。トレードって考えたらどっちにもメリットがあるからこれは平等なトレードと言ってもいい。
「随分と楽しそうに話してたじゃん」
そう見えたなら悪いけど新色の目はよろしくないようだ。だってあれは俺が一方的に話してただけだったから。
「そう?女の子話す時いつもこんな感じだと思うけどな」
「へぇ」
ありゃ?機嫌が悪い?そんなにもまだ早乙女と話したかった感じ?まぁこれに関しては俺も悪いと思ってるよ、ここは原作通り行かせてもらう為には。
メッセージのやり取りはちゃんと返してくれるのに顔を見合わせれると別人くらい冷たい。やっぱり俺の顔を見るとムカつくのかな?キモイから。
「はい」
「はい?」
新色は自分のバッグを俺に渡してきた。どうしたの?急にパシられてるんですけど。
「な、何?」
一応違うことを願って聞き返す。
「持たせてあげる」
「持たせてあげる?」
俺の知らない日本語過ぎて聞き返してしまった。「持って♡」だったらこっちがお願いしてでも持ちたいのに。一応確認しておくけど俺は新色の後輩じゃないからな。
「久田ちゃんのカバンは持ちたそうにしてたから」
ん〜?
「はい、だから持たせてあげる」
いやいやいやいやいや、嫌われ過ぎてとうとうここまで来てしまったのか?自惚れじゃないけどちょっとは仲良くなった気がしてたんだけどなぁ。
「ワーアリガトウ」
小さい頃よく下校の時にみんなのバッグを持たされてたなぁ。新色にバッグを渡された時に俺の頭にフラッシュバックした。
…泣いてもいいですか?
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