第5話
「私も一緒に行くから」
「なぜ?」
あれだけ会えた事に喜んだり、一緒に行けなくて残念がったりした奴が一緒に行くってなったらそれはそれで困ってしまう。
どうしたの?どうして新色は俺に付いてこようとしてるの?俺って付いてこないとお前の携帯叩き割るぞ、とか言った?じゃないと理解が出来ない。
「私何が必要か忘れたから」
「あ、じゃあ俺しおり持ってきたから貸すよ」
カバンの中に入れてあるしおりを取り出そうとガサゴソとカバンの中を漁る。
「要らない」
要らない?俺の手が止まる。
「良いよ良いよ、俺全然気にしないから」
「一緒に行けば良いじゃん」
こっちの気持ちも分かってくれよ!ダメだ、上げてる口角が下がりそうだ。
こうなったら強硬手段に出るしか無い。
「あ〜もしかして俺とデートしたいんだ?だからそんなに俺と一緒に居たいんだ?」
「そ、そんなんじゃないから!一緒に行った方が効率的だから言ったの!こっちは1秒も水野の顔なんか見たくないから!」
顔を真っ赤にして怒る新色も可愛い。良かった、ちゃんと嫌われてる。でも、心では泣いてる。
原作でも水野はヒロインに嫌われてるから良い事ではある。良い事ではあるけど嬉しくない。
「はい、返すタイミングはいつでも良いから」
しおりを新色に押し付ける。じゃあね、と手を振ろうとしたら新色が服の裾を引っ張った。
「返すタイミング伝えたいから携帯貸して」
「…はい」
上目で裾を引っ張る新色があまりに可愛すぎたため素直に携帯を渡してしまった。
「はい。私の連絡先登録したから」
「ありがとう?」
俺の携帯と自分の携帯を交互に触ってるなぁって思ってたら、いつの間にか連絡先を交換されてた。
いや、嬉しいんだけど…、嬉しいんだけど、めちゃくちゃ嬉しいんだけど、いや、とてつもなく嬉しいな。
推しと連絡先交換出来たー!これで携帯に入ってる新色の連絡先を観てニヤニヤするのが確定してしまった。今もニヤニヤしそうになるのを必死で我慢してる。
俺は推しとガチ恋が混じった超絶気持ち悪い奴だから推しとの連絡先交換はとてつもなく嬉しい。ゲームの画面に何度チューしてしまったことか。
…危な!何の警戒もせずに携帯渡したけど、俺の携帯にはあれもこれもそれもあるのに他人に渡すのは不用心だ。今になって冷や汗が出て、鼓動が速くなる。バレたらもう学校に行けなくなるところだった。
「汗すごいけど」
「え、え?な、何が?俺はこれがいつも通りなんだよ?」
「動揺し過ぎ」
動揺して語尾がおかしくなってしまった。これだと余計に怪しまれてしまうのに。それくらい動揺しちゃうくらいバレたら恥ずかしい物が入ってる。
「じゃあしおりはいつでも良いから」
俺は新色から逃げるようにこの場から去っていった。一旦トイレに行こう、個室に入って呼吸を整えよう。
ふぅ〜良かった〜。序盤で俺の転生人生が終わってしまうところだった。新色も気をつけてよ、男子高校生の携帯は何が入ってるか分からないんだから。
携帯の画面には平仮名でさらさと書いてる画面を眺める。まさか好きな人の連絡先を貰えるなんて夢にも思わなかった。この画面だけでずっと白飯三杯とトースト一斤食べれちゃうね。何か落ち込む事があってもこれだけで元気が出てきちゃう、これはもはやエナジードリンクと同じだね。
画面を眺めながらニヤニヤしてたらいつの間に結構時間が経ってしまってたから手を洗ってトイレから出る。
「あれ?水野じゃん!」
この声も普段から聞いた事があるから声のする方向を見るのが嫌だった。
「ゆきちゃんにかなちゃんに委員長じゃん。どうしたの?そんなおめかししちゃって、俺みたいな悪い男にナンパされちゃうよ?」
だからキモ過ぎなんだよなぁ、どうして俺の口からそんなキモい言葉がスラスラと出てくるんだ?俺の脳にそんな引き出しあったんだ。
「オリエンテーション合宿があるから必要な物を買いに来たの」
みんなここで買い物してるの?他のお店の存在を知らないのか?俺も他人の事は言えないけど。それと俺のナンパされちゃうよ?のやつスルーされた。
「じゃ、女の子だけの空間に俺はお邪魔虫だから」
「へいへい、待ちなプレイボーイ」
ノリが良い子なゆきちゃんは俺の行手を阻んだ。俺の事プレイボーイって言ってくれてちょっとだけ嬉しい気持ちになったのは秘密だ。
「女の子だけだったら重い荷物が持てないの。ここまで言ったんだからもう分かるよね」
「荷物持ち…、ですか?」
「正解!」
恐る恐る聞いたらまさかの正解を出してしまった。そんな勢いよく言われたら気持ちいいよ。
「俺はね、俺は良いだけど、他の2人の意見を聞く必要があるんじゃないかな?」
あくまでも俺はOKだよ、のスタンスをとる。
「香奈も舞もいいでしょ?」
舞が誰かと言うと委員長の事だ。委員長の名前は黒瀬舞、転生して1週間後に知った。
「私も良いよ」
かなちゃーん、勘弁してよ。断ってくれよ。
委員長〜委員長は断ってよ〜。
「私も、祥太だったら良いよ」
それは可愛いな。俺だったら良いんだ、じゃあやるしか無いよな。
「よっしゃ!荷物持ち上等!俺にかかれば荷物の一つや二つ、いや、十や二十も持ってみせてやるよ!」
袖を捲って気合いをアピールしてみせる。
「じゃあ、荷物を50や100は最低でも持ってもらおっか」
「え?」
「ありがとう。後は自分で持つから」
「ありがとね。水野」
「ありがとう。祥太」
「いえいえ、みんなの荷物が持てて光栄でしたよ」
そんな訳が無い嘘をついて持ってた荷物を渡していく。こいつら結局オリエンテーション合宿に必要な物以外も買いやがったから荷物が両手にパンパンだ。
昼ごはんも4人で食べて、今日で一気に仲良くなっちゃったよ。女の子3で男が俺1人だったからほのかにずぅ〜っと緊張してたんだよ。
「私たちは帰るけど水野はちゃんと舞を送り届けなさいよ」
「俺?」
もうクタクタだから帰りたいんだけどなぁ、それにまだ俺は中古ショップを諦めきれない。ここの世界のゲームも気になってるのに。
「えーいいよ」
「水野はこんなに可愛い子を1人で帰られせて何かあったらどうするの?」
「それもそうだな」
ゆきちゃんの友達想いに俺は感動した!だからその提案は俺が責任を持って遂行させてもらう。
「本当にいいよ、私1人で帰れるから」
「そんな〜俺は一緒に帰りたいのに〜」
ここでゆきちゃんが言ったから仕方なくみたいなスタンスを取らないのがポイントだ。俺が一緒に帰りたいスタンスを取る事で罪悪感を減らす事が出来る。
「祥太が良いならいいけど」
「やったね!」
ゆきちゃんの友達を想う気持ちは俺がちゃんと受け取った。
「行こっか」
「うん」
俺の中に水野がいるから何とか女の子と2人きりでも耐えれるけど、ちょっとでも気を抜いたら童貞の俺が顔を出してしまいそうになる。
最寄りの駅まで他愛もない話をする。委員長は聞き上手だから喋るのが楽しい。俺の話を嫌な顔をせずにニコニコ聞いてくれる。
「あー、えー」
「どしたん?」
さっきまでずっと聞き手だった委員長が急に話したそうにする。
「そう言えば連絡先知らないよね?」
「ん?そうだね」
「…欲しい」
「…じゃ、交換する?」
「うん」
ただ連絡先を交換するだけなのに委員長が照れたせいでこっちまで照れちゃったよ。
「もう駅そこだから、またね」
俺は手を振って別れを告げる。
委員長は駅に向かっていくのになぜか走っていく。そんな走っていくと転んじゃうよ。
小さくなっていく委員長を眺めてたらなぜか俺も走り出したくなってきた。委員長の気持ちが分かった気がする。
「おー!水野!」
「水野だ、水野!」
「祥太!」
「ミズショウじゃん!」
委員長を眺めてたらクラスの奴らがゾロゾロとやってきた。
「これからカラオケ行くけど来るよな?」
俺の最初のプラン覚えてる?映画観て、本屋で本買って、ゲーセン行って、中古ショップに行く予定だったんだぞ。
今からだったら中古ショップは行ける。中古ショップ行って晩ご飯の材料買って帰れば丁度良い時間になる。
「行くに決まってんだろ!歌いまくるぞー!」
「「「「イエーー!!」」」」
今は歌いまくりたい気分なんだ。
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