エピローグ(新色更紗)

 昨日あんな事を言っちゃったから早乙女と顔を合わせるのが恥ずかしい。言ってから家に帰って急に恥ずかしさが込み上げてきた。


 でも、言って後悔はしてない。思った事はちゃんと言葉にして伝えないとね。


 教室に着いたら中が騒がしい、また水野が騒いでるだけかも。お願いだから今日はあいつに絡まれないようにしないと。でも、なぜか早乙女と水野が仲が良い。それさえ無ければ良かったのに。


「あ、来た!」


 教室に入ると何人かの女の子が私に寄ってきた。どうしたんだろう?私何かしたかな?


「昨日早乙女と2人でデートしてたでしょ?」


 急に昨日の事を言われたからビックリしてしまった。ビックリしたと同時に誰がこんな事を言ったんだと怒りも込み上げる。


「別にデートじゃないけど、何で知ってるの?」


 誰がこんな事を広めたんだろう?と、思ったけど1人心当たりがあった。


「水野が昨日2人を見たって言ってたよ」


 またあの男…。


 1番最初、転校初日の登校の時に小さい女の子を助けてたのかな?チラッとだけチャラい男の人が見えた。私が女の子に声をかけた時には分かってたみたいな反応してたから何とか聞き出そうとしたら「カチューシャのお兄ちゃんに言われちゃダメって言われたの」って言ってたから優しい人なんだと思った。だから学校案内も水野に任せたのに。


 …なのに、どうして。


「で、どうなの?」


「何もないよ」


 ここで不愛想にしてたら避けられるようになっちゃうからニコニコ笑いながら返す。


「え〜本当?」


「本当だよ」


「流星くんってライバル多いから大変だからね」


「だから違うって」


 水野が来たら問い詰めよう。もう水野には嫌われても気にしない。


「でも意外」


「何が?」


 意外?早乙女はライバルが多いのに何が意外?いや、別に狙ってないけど。


「てっきり流星くんじゃなくて水野だと思ってたから」


 どうしてあの男の名前が出るの?あ、学校案内を水野に任せたからか。


「学校案内の時はちょっと間違えちゃって」


「あ〜違うよ、キーホルダーのやつ」


「キーホルダーのやつ?」


「知らないの?この前の土日必死に探してたよ」


「誰が?」


「水野」


「み、水野が?」


 水野が?あんなにすぐに諦めた上にグチグチ言ってた奴が?


「凄かったよ、土曜日はずぅ〜っと探してたよ。部活してる人より来るの早かったし、部活してる人よりも帰るの遅かったんだよ」


 1日中探してたの!?


「日曜日は雨の中探してたんだよ?凄くない?」


 あいつが?どうしてそこまで?


「見つけた〜!って見られてないと思って1人で大喜びしてたって委員長が言ってたよ」


 見つけた?早乙女が見つけてくれたんじゃないの?


「それって本当にキーホルダーを探してたの?」


 もしかして水野が別の落とし物で探してたかもしれない。


「水野が見つけて喜んでたキーホルダーが次の日には新色さんのカバンに付いてたらしいから、多分そう」


 早乙女からもらったからその場で付けたけど、水野は自分が見つけたような素振りは見せなかった。


「水野はどこ?」


 聞かないと、全部。女の子件。キーホルダーを探してた件。なのにすぐに諦めた上にグチグチ言ってた件。キーホルダーを自分で渡さなかった件。全て。


「水野は今日休み。昨日はしんどそうだったからね」


「そっか」

 

 一昨日、雨の日も探してくれてたからかな。


 

 私の中で水野は何者か分からなくなってしまった。









 …けど、優しい人…なの、かな?


 

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