風呂上がりの妄想

 お風呂を上がって部屋に戻ったのだけど、お風呂でのカグヤとの会話を思い出してた。コータローはカグヤが趣味でないとして、恋人関係ではなかったとはしてた。そんなもの信じるわけがないだろうが。


 カグヤは悔しいぐらいの美人だ。男ならゲイ以外は飛びつくに決まってる。そうなるとコータローにゲイ疑惑が出て来る。ここもだけど最近はこの辺も複雑どころか怪奇なものになってるんだよね。


 いわゆるLGBTQ問題になって来るのだけど、Qなんてどうやって理解すれば良いかわかんないぐらい。だってだよ、生物学的に男で、性自認が女で、性嗜好は女だって言うんだもの。


 それでだぞ、性行為は性自認が女だからレズって言うけど、生物学的には男だから、実際の行為は女と男の行為と同じだ、そうなれば妊娠して子どもだって産まれる。いくら性自認が女でもそうなるよ。


 QとゲイはLGBTQって一括りにされることがあるけど、ゲイからすれば同じにするなと憤慨するのもいるそうだ。その辺の感覚も当事者じゃないから良くわからないけど、一括りにして扱わない方が無難そうだぐらいにしてる。


 Qはどうでも良いけどゲイと言っても幅はありそうなんだ。カミングアウトして男とカップルになり、公式に夫婦としての籍を要求する者もいるけど、ゲイであることを隠そうとする者もいるぐらいは知っている。


 隠そうとする時の古典的常套手段が女と結婚する事だ。ここも女と結婚するのがゲイでない証明なのはわからないでもないけど、そのために利用される女はどうしてくれるんだになる。と言っても離婚するぐらいしかないか。


 その偽装夫婦だけど、なんとなんと子どもまで出来ることがあるらしい。子どもを作るには生殖行為が必要だけど、ゲイでも女に性欲が湧くのかな? この辺は女にも男にも性欲が湧くバイもいるから、ゲイの中にもバイ的要素を持つ者がいるのだろうな。


 そうであっても性嗜好の根本が男なのがゲイだ。偽装結婚をしても本命の彼氏がいるはずだ。性行為の割合だって、


 彼氏 〉〉 妻


 こうなるしかないはずだろ。これがどうだかは千草の体が知っている。コータローと結ばれた時は十三年振り二回目のまだまだ初心なネンネだったんだ。そこから千草の体は変えられてしまった。


 どれだけ変えられたかは恥ずかしくて言えないぐらいで、あれってこんなに良いもので、女ってあんなに感じられて、女の喜びってこれなんだとわかったし、女と男があれだけ求め合うのも全部わかったぐらいなんだ。


 もちろんすぐにじゃない。個人差はあるだろうけど、段々にだよ。千草の場合は喜びへの階段を一歩一歩登らされてる感じかな。この階段はね、一度登ると下りられないし、一段登ると信じれない世界が常に待ち受けている感じとすれば良いかな。


 わかるだろ。階段を登るたびに千草は変えられるし、変わってしまった体は戻らないんだよ。コータローのせいで初心なネンネの体は取り返しの付かない状態にされてしまってるってこと。


 階段を登るためにはコータローが必要なんだ。コータローに登らせてもらうには千草に欲情してくれないといけないもの。身も蓋もない話だけど、女は気が乗らなくても無理やりでもやれるけど、男は性欲が起こって欲情して硬くならないと入るはずがない。


 恋人とか夫婦の平均は知らないけど絶対に多いと思う。それぐらいコータローは千草に欲情してくれてるってこと。一回だってどれぐらい情熱的なことか。あれぐらい情熱的だから千草も階段を登らせられてしまうのよ。


 コータローは千草に煮え滾る性欲をどれだけ千草に炸裂させたかなんて、とっくの昔に数え切れなくなってるし、喜びの階段だって金毘羅さんの奥の院ぐらいは突き抜けてる。そのペースは衰えることを知らないとしても良い、それぐらいは千草でもわかるもの。


 もしだよ、コータローがゲイで、それを隠すための偽装結婚をしているのなら、千草以上の回数を彼氏に炸裂させていることになってしまう。そこまでになればもうゲイではなくて正真正銘のバイだ。


 けどさぁ、そこまで出来たらコータローは性欲のバケモノ。あれって体力も精力も使いまくるじゃない。そんなもの体が耐えられるものか。やり過ぎで萎え果ててインポになるか、痩せさらばえて下手すりゃ死ぬよ。今だって心配してるぐらいなんだから。



 よってコータローはゲイじゃないのは立証できたはずだ。それならカグヤとはやっている。コータローがそれぐらいの性欲があるのは千草も体で知ってるし、さらに言えば今よりも若い。あのカグヤ相手だぞ、お日様が黄色く見えた相手はカグヤであっても不思議でない。だって千草でも黄色く見えた日があったもの。


 でもどこかおかしい。コータローとカグヤがそういう関係であったとしても、それならそれで、その次を考えないカップルなんかいないはず。女と男のゴールが結婚しかないと言う気はないけど、それなりの年齢で意識もしないのはレアだろうが。


 結婚まで意識した深い関係になってから別れてることになるけど、さらっとサヨナラになるはずもない。どうしたって修羅場が展開するし、別れた後だってシコリはこれでもかと残るのが女と男だ。そんな経験がないのは・・・ほっといてくれ。


 なのにあのわだかまりの無さはなんなんだ。まるで学生時代の旧友と久しぶりに出会ったような距離感の無いタメ口、屈託の『く』の字もない態度をどう理解したら良いって言うのよ。


 千草も略奪女の可能性も考えてはみたけど、それだったらカブの駅で声もかけないだろ。略奪って裏から手を回すのが常套手段のはず。千草に隠れて会い、寝取ってから千草に勝利宣言をするものだ。真正面から寝取りに来る女なんて・・・世の中、広いからな。


 コータローもコータローなんだ。コータローはね、千草がブサイクのコンプレックスを持ってるのをあれで良く知ってる。だから千草の容姿を貶すのはまさに逆鱗に触れることになる。それこそ情け無用の制裁を躊躇いもなく断行してくれる。


 それなのにカグヤはホイホイと受け入れてるじゃないか。千草がいるにも関わらずだ。あまつさえ同じ旅館の同じ部屋に泊ってる。なにが狙いなんだ、なにをしたいんだ。言っとくがいくら同じ部屋でもやらせるもんか。もっとも見せつけるために千草も出来ないけどね。



 これから何が起ころうとしてるって言うんだ。こんなシチュエーションからの寝取られ女の悲劇のヒロインをやらされようって言うのかよ。こんなものラブロマンスだってあり得ないぞ。


 ラブロマンスの配役なら千草はヒロインだがブサイクで、カグヤは敵役だけど美人になる。そんな二人がラブバトルをやらかすのが恋愛小説だけど、これでブサイクヒロインの千草が負けるわけがないだろうが。


 ここで美人の敵役が勝ってハッピーエンドの小説なんか、誰が読むものか。コンテストの一次予選だって通るはずもない。千草にルッキズムなんてカケラもないけど、そういう設定ならブサイクヒロインが勝つのがお約束なんだよ。


 どうしてそうなるかって。そんなものブサイク読者がこの世に大いに決まってるだろ。ブサイクと言うより、どこかにブサイクのコンプレックスがあると言うか、容姿に自信を持ちきれない女だ。


 ヒロインがブサイクであれば、そのブサイクヒロインが勝つ話しか期待してない。ここまで書けばわかるだろ、ブサイクヒロインは自分の投影なんだよ。自分だってああなれるかも知れない夢と希望を物語に託してるんだよ。


 それとだ。後日談的な後始末を考えてもその方が都合も良いはずだ。負けた敵役は、美人だからどうとでも料理出来るのがどう考えても美味しい。物語的には転落して落ちぶれるになりやすいと思うけど、これが美人なのは引き立つし、ブサイク読者のルサンチマンのカタルシスにだってなる。


 けどねぇ、ブサイクヒロインが負けたら始末に困るのよ。言ったら悪いがまさに粗大ゴミそのもの。そりゃ、負けてから新たな白馬の王子様に救われる設定も出来ない事もないけど、そこまでケアするなら、最初から勝たせとけだ。だって小説だもの。



 とにもかくにも腹減った。今日は良く走ったものね。夕食の時にはお酒も入るから、コータローとカグヤの関係に何があったかは聞けるだろ。どうせ勝つのはブサイクヒロインの千草だから、たぶん大丈夫のはず。


 七釜温泉にした理由はいくつかあるんだ。但馬で温泉と言えば城崎か湯村になるけど、さすがにどちらも泊まったことがあるのよね。旅館を変えてもあるけど、せっかくだから違った温泉にしたいのはまずあった。


 とは言うものの、但馬でも他の温泉となると少ないんだよ。数え上げたら二十か所ぐらいあるみたいだけど、いわゆる温泉宿になるとホントに少ないんだ。この辺は町起こしとかなんたらで温泉を掘り当てて入浴施設までは作っても、宿泊施設までになるとハードルが上がる感じかな。


 七釜温泉の規模は大きくないけどちゃんとした温泉宿がある温泉街なんだよね。それと有馬の月光園がゴージャスだったから、今度はこじんまりしてるところが良いのかなってのもあった。


「建前はエエから本音を言え」


 そんなものカニだ。但馬と言えば誰が何と言おうがカニだ。ここでカグヤが、


「まだカニには早いのでは」


 ああその通りだ。王者松葉ガニ漁の解禁は十一月からだからな。けどな、これはモンキーでは食べに来れない。なぜかって、そんなもの凍死するからだ。カニは冷凍できてもバイク乗りの冷凍はシャレにならない。


「Ninjaでもそうなります」


 いくらデカくなっても寒いのは公平だろうな。大型になればエンジンの熱は凄いらしいけど、


「冬の寒さには勝てません」


 けどね、紅ズワイは九月からなんだ。紅ズワイの味はコータローと行った久美浜の小天橋で覚えた。あの時にはコータローの男も体に覚えさせられたけどね。


「妙な言い方をするな。愛し合って結ばれただけやろが。それに責任ぐらいやったら死ぬまで取ったるわ」


 必ず責任は取ってもらう。逃げようとしたって許すものか。家に鎖で縛り付けてでも取らせてやる。女の純情を弄んだのだから当然の報いだ。もしあれが純潔もだったら孫子の代まで責任が及んでたぞ。


 責任問題はこれぐらいにして、小天橋で食べた紅ズワイは美味しかったのよ。カニ好きの千草でも松葉との違いなんてわかんないぐらい。それをここでなら食べれるのが最大の理由だよ。


「頼み込んだやろうが」


 当然だ。浜坂でカニを食わずして他になんの用があるって言うんだよ。

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