第6話

コイツの悔しがる顔なんて初めて見た。いつも無表情か何かを企むような顔しかしないくせに。


私はどうやったらその人に勝てるだろう。いつもコイツに負けっぱなしの私が。コイツの上を上回るって相当大変だ。




「……好きなの?」


「あ?」


「その人のこと今でも好き?」


「……」




コイツが口にした女の人はただその一人だけ。きっと一番思い出深くて一番好きになった人なんだろうな。それを聞く私はもう馬鹿でしかないけど。


でも、だってそうでもしなきゃコイツの気を引くことが出来ないし。私なんかに興味の無いコイツが私の話題に食いついてくるわけない。


どうしてもそれを選ぶしか、ない……。




「水野」


「んー?」


「それを聞いてどうすんだ」


「何と無く聞いただけじゃん!」


「あっそ」




答えはくれない…か。よく言うよね、無言は肯定って。無言では無かったけど誤魔化すってことはやっぱりそうなんでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る