第18話 私たちの関係は?
「――…はい、すみません。今日は迎えは大丈夫ですので」
迎えを断る連絡をする葵の声が聞こえる。
「私は迎えいらない、後で帰る。先に帰って」
もう少し落ち着いてから帰ろうと思った。だから黒板前にある段差に座って、そう言ったのに、
「それは、出来ない・・・」
隣にしゃがんできて、私の目線に合わせる葵はそう言って、帰ってはくれなかった。
それで、結局葵が迎えを断る連絡を入れている。
「こんな時にも、おじい様の言いつけなんて…」
こんな時くらい言いつけなんて無視してくれたらいいのに。我慢できずに眉を寄せて呟いた。
「違うよ…おじい様は関係ない」
困ったような表情をして葵は言う。
「私は、麗華と帰りたいよ。一人にしてって麗華は思うんだろうけど、私のわがままであって、おじい様は関係ないの…こんな時だから私は麗華と分かれて一人で帰りたくない……麗華がこれから私を避けるようになるのがわかるから」
「そんなの・・・なんで、葵の方が私と帰りたいなんて言うのかわからない。私はただ従姉妹ってだけならそこまでする必要ないし、気まずいし・・・」
それに、私が避けることを葵の方が気にするなんて・・・諦めきれないようなことを言うのはやめてほしい。
「麗華は大切な従姉妹で・・・頼りにしてて、一緒にいると落ち着くっていうか・・・私の側にいてくれる大事な存在で…」
「でも、それ以上の関係にはならない存在?」
「・・・・・・」
自虐のように葵を困らせる発言をして、無言の返答にため息をつく。
「帰ろう、葵」
負けを悟った。春美さんにじゃない、葵に根負けした。これから葵が一緒に帰りたいと言えば帰るし、慰めてと言えば慰める。好きになってしまった者の弱みだ。私は諦められるまで、葵の側にいればいい。
というか、初めはそうだったはずだ。ただ葵の側に居れればいいと思ってたのに、春美さんの話を聞いてしまったばっかりに、衝動で気持ちが揺れて行動してしまったんだ。
「麗華」
葵は私が葵を好きなことを知っていて私といる。思い余ってキスなんてしてしまった私から、葵の方が距離を取らなかったなんて、不思議な状況だ。
すぐ近くのバス停から少し待てばバスがあるよ。駅に向かうよりこっちの方がいいねと、葵は効率よく帰る方法を調べている。シビアな空気をしていたと思うのに、しばらくしたらいつものような雰囲気に戻っていた。
そんなことより、まだ聞けてないことがある。
正直聞かない方がいいことだけれど、私のしたキスに怒ったり嫌いになったりしなかった葵に、聞きたいことがある。
横を見れば、葵はスマホの画面を見たままでいる。
恐れることなんて今の私には残っていない。
「葵は、私にキスされてどう思ったの?……つまり、良いとかイヤとか、私のキスについてどう思ったのか…聞いてみたい……」
すごい質問をしている気はする。
「えっ…?いや、……ん?はい?……麗華ってそういうこと、ストレートに聞くんだ…逃げてたよね?さっきまで」
「……それはもう、いいんだよ。嫌いになったりしないって葵が言ってくれたし、逃げる必要がなくなったから」
今まで、話してても全然平静な様子だったのに、私がそんなことを聞いた途端、葵は少し狼狽え始める。なんで?
「こ、こういう状況で…、というか…そういうことは、面と向かって…話すことじゃなくないかな?」
「そう?」
「そう!」
葵は隣に座って先に帰らないって言ってたのに、立ち上がって行こうとする。
「えっ⁉︎待ってよ」
––––そんな状況に、私がわがままを言うようなるのはすぐのことだった。
だって、葵の方で私を避けないって言うんだから、それがどういうことなのか気になったのだ。
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