もう一度、初恋を始めてもいいですか?~元・陰キャの同級生が大変身してわたしを溺愛してきます⁉~

長月そら葉

第1章 限界社会人の憂鬱

再会は突然に

第1話 限界社会人

「――つっかれたぁぁぁ」


 ぼすんっとベッドに倒れ込む。先週末に干した布団はまだ柔らかくて、わたしは枕に顔を埋めた。本当は、このまま寝入ってしまいたかったけれど。


「……いけない。仕事持ち帰って来たんだ。少しでも進めて、明日のわたしに楽させないと」


 のそのそと起き出して、会社用の鞄からノートパソコンを引っ張り出す。手洗いうがいは済ませたけれど、スーツのまま。でも、お風呂に入ったりご飯を食べたりする時間すら、今のわたしには惜しい。

 あの書類完成させたら、ご飯……はさっき買って来たスーパーの総菜でいいや。シャワー浴びて、日付が変わる前に寝られたら良いな。

 極めて薄い希望を頭の隅に押しやって、わたしはノートパソコンを開いた。


 パソコンの画面に、わたしの名前が表示される。秋橋恋菓あきはしれんか。二十六歳の限界社会人には甘過ぎるくらい可愛い名前だ、と自分で思う。子どもの頃もそんなに可愛らしい雰囲気の子ではなかったけれど。


 わたしは、とある商社に勤める営業事務。

 営業事務とは、簡単に言えば営業職のアシスタントだ。見積書を作ったり、商品を発注したり、売り上げをパソコンに入力したりする。わたしは二人の営業職を担当していて、その人たちの雑務を一手に引き受けていた。


「これは確か、あの商社から見積もりを取ったから……」


 カチカチカチ。キーボードを操作するのは、入社二年経った今でもあまり得意ではない。人並だとは思うけれど、他の営業事務に比べれば雲泥の差。だからだろうか、効率的に仕事をすることが出来ず、毎日のように残業していた。最近は、仕事を持ち帰ることを覚えてしまって、こうやって深夜に仕事をしている。

 駄目なことだとわかってはいるけれど、こうでもしないと終わらない。……まあ、仕事に終わりなんてないんだけど。


 ――カチ、カチ。


「お、終わった……。いけない、早く食べて寝ないと」


 気付けば、時計の針は零時を過ぎている。不摂生だと思いつつ、慌ててシャワーを浴びた。こんな時、髪を短く切っておいてよかったと思う。乾かすのにあまり時間がかからない。

 そういえば、学生の時は髪を長く伸ばしていたんだよね。


「何でだったっけ?」


 首を捻って、深夜のテレビ番組をBGMにしながら筑前煮を口に運ぶ。確か、誰かに長い髪を褒められたことがきっかけだったと思うんだけれど。

 しばし考えたけれど、頭が回らないからやめた。さっさと片付けて、布団をかぶる。


 ――わたし、何のために生きてるんだっけ?


 何度反芻したかわからない問いを頭に思い浮かべた時には、もうわたしの意識はなかった。

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