第28話 魔人の弱点

「……魔王様を倒したら人族だらけの世界にして自分達ばかり有利な社会にするんだろ」


 ザウエルは嫌な思い出があるのか、蹲るようにして身を固める。


「もう、そんな暗い話はしな~い」


 私はザウエルの尻尾を優しく持ち、先端をカリカリと引っかく。つるつるの黒い尻尾をスーッと摩り、擽った。


「んぁっ、ちょ。こ、こんな時にふざけるな。んぃっ……」


 ザウエルの頬が赤らみ、口角が上がって引きつる。心と体の感覚の不一致に未だに慣れないようだ。そんな中、私はザウエルの尻尾の先端を咥えた。


「お、お前、頭、おかしいだろ。し、しっぽ、食うなよぉ。く、口の中が熱くてとろとろで、あ、頭、おかしくなる……」


 ザウエルは弱い電撃を当てられているのかと思うほど、腰がピクピクと跳ねてしまっていた。険しかった表情が少しずつ緩んでいく。


「私にも家族はいない。だから、ザウエルちゃんと一緒だよ」

「べ、別に気にするなって言っただろ……」

「ザウエルちゃんは魔王様が大好きなんでしょ。私も怖くて厳しくてずぼらな師匠が大好きだもん。だから、私はザウエルちゃんの大好きな相手を殺したりしないよ」

「はっ、人間は口だけだからな。信じられない」

「別に信じてくれなくてもいいよ。結果はいずれわかる。にしても、尻尾の先、なんか甘くておいしいね。汗が甘いのかな?」


 私はザウエルの尻尾を優しく嚙んでみる。甘い味がする干し肉を食べている気分になってくる。


「あ、甘噛みするなぁ……、あぅっ」

「ザウエルちゃんって、尻尾が本当に弱いんだね。魔族はみんなそうなの?」

「し、知るか。そもそも、尻尾を弄る奴なんて魔族にいない」

「へぇー、じゃあ、気づけて良かったね。ザウエルちゃんの性感帯……。尻尾なら健全にいじいじできるし、悶えているザウエルちゃんを見るの楽しいし。最高の癒しだよ」

「お、お前、大分変態だな……」


 ザウエルは先ほどの暗い表情ではなく、頬を赤らめた明るい表情を私に見せてきた。

 彼女が元気になってくれると、似た境遇の私も気分が上がる。


「変態で結構。私は悲しい顏のザウエルちゃんより、快楽に歪んだ愛らしい顔のザウエルちゃんの方が好みなんだよ~」


 私が口を少し大きめに開けると、ザウエルは目を大きく見開き「や、やめ……」と掠れた声を出しながら小さな手を私の方に向けてきた。

 だが、私は尻尾を指先でクニクニと摘まみ、とんがった先端部分をじっくり味わう。


「んんぁあああああああああああああああああっ~!」


 ザウエルは尻尾の先から頭に電撃が走ったようで、背中を大きくのけぞらせた。尻尾と真反対にある舌先まで痺れているようで、口から出ている。風呂桶の縁をしっかりと握り、縮こまるようにして顔を隠している。

 私はザウエルの額に手を当て、頭を持ち上げさせる。すると彼女は風邪をひき、熱に侵されている子供のような瞳なのに口角が自然に上がっている非常にだらしない顔になっていた。


「いいね、その顔。心に沁みるね。その厭らしい顏、もっともっと見せて。魔人の弱点の研究に付き合ってもらうよ~」

「う、うちは、とんでもない奴に捕まってしまったのかもしれにゃぃ」


 その後、私はザウエルの体を弄り回し、弱点を把握した。魔人の弱点は人族と大して変わらない。心臓と首を損傷させれば倒せる。人と体の作りはほとんど同じだが、翼と尻尾、角が生えており、どれも性感帯になりうるようで人間よりも弱点は多いかな。


「も、もうやめてぇ。これ以上されたら溶けてなくなっちゃう~」


 ザウエルは身をくねらせ、浴槽の中でのたうち回っていた。捕まったウナギのようだ。


「うん、もうしないよ」


 私は浴槽から出て、体を洗う。


 ザウエルはもっとしてほしかったのか、ざばっと立ち上がり、両手を広げながら「やれよっ!」と叫んだ。


「ザウエルちゃんが嫌がることはしない。だから安心して」


 私はザウエルに微笑みかける。先ほどまで弱点を調べつくされたのだ。さぞかし辛い仕打ちだったはず。私も少なからず罪悪感を持っている人間なのでザウエルちゃんが辛い思いをしないっように配慮する。


「……嫌がってねえよ! むしろ欲してるよ!」


「ふーん、そうなんだ~。言質いただきました。『拘束』」


 私はザウエルの言葉を聞き、笑った。そのまま魔法を使い、ザウエルの手頸と足首を魔法の鎖で縛り、壁に貼り付ける。


「は、図ったな! この、卑怯者っ!」


 ザウエルは逃げられないと知っているくせに小さく抵抗し、尻尾をくねらせていた。


「じゃあ、しっかりと洗ってあげるね」


 私は石鹸を手の平に付け、泡を作った。もこもこの泡が手の平の上で山盛りになる。


「や、やめろぉ~」


 ザウエルは翼をパタパタと動かし、お尻を左右に振りながら頬を赤く染めていた。

 私はザウエルの脇や内もも、足裏、胸のてっぺんや、股の間も念入りに洗ってあげる。


「えへへ、えへへへ~。ザウエルちゃんの体はつるつるすべすべだねぇ~。洗っているこっちも気持ちいいよ~」

「にゃ、にゃぁあ~っ! にゅるにゅるがぁ。にゅるにゅるがぁ~! うちの体に纏わりついてくりゅぅっ~!」


 私とザウエルは殺し合っていたと思えないほど仲良くお風呂を満喫し、一緒に出た。


「き、気持ちよかったぁ……。お風呂が」


 ザウエルは身を微かに震わし、微笑みながら体を布で拭く。スベスベの肌が暖色の照明を反射させており、若々しさがにじみ出ている。


「いやぁ~、やっぱり一人で入るより二人の方が有意義だね」


 私も体を布で拭き、下着と寝間着を着る。ザウエルに私の品を貸した。


「体型が似ているから私の下着が入ってよかった」

「はぁ、翼があると服が着にくいんだよなぁ……」


 ザウエルはショーツだけ履き、キャミソールは身に付けなかった。代わりに包帯を胸に巻く。魔力しか食べていないので歯を磨かずにベッドに倒れ込んだ。


「まったく、なんでうちが人間みたいな生活しないといけないんだ」

「仕方ないでしょ。そうしないとザウエルちゃんが生き残れないんだから」


 私は歯ブラシで歯を磨き、椅子に座って勉強した後に『禁断の書』を書いていく。書いた分はザウエルに呼んでもらい、感想を貰った。それだけでありがたい。


「うーん、昨日よりはいいかな。でも、師匠の品と比べたらまだまだ」

「そうだよね。なにが駄目なんだろう……」

「本番行為のところ、なんかもやもやってしているんだよな。キアスは見たことない状況を文字に起こそうとしているわけだし、書けなくて仕方ないけど、そこをしっかりと出来ればもっと良くなるんじゃないか?」

「見られるのなら見たいよ。でも、男同士が本番している場面は普通見られない。師匠の文を真似して書くしかないんだよ」

「まあ、それもそうか。でも、師匠の方はなんであんなに上手く書けているんだ。見た覚えがあるんだろうか?」

「さ、さあ……。わからない」

「見た状況しかうまく書けないのなら、魔物に辱めを受けている男なら掛けるんじゃないか?」


 ザウエルは私の長所をとらえながら助言してくれた。


「わかった。書いてみる」


 私はスライムに捕まり、這いずり回られている者を書いた。先ほどと同じくザウエルに読んでもらった。


「うん。いいんじゃないか。こっちの方が現実っぽい」

「ほ、ほんと。良しっ!」


 私はちょっとした成長を感じ、やる気が上がった。『禁断の書』を閉じ、ザウエルが横たわっているベッドに飛び込む。


「えへへー、ザウエルちゃんの匂いがするー」


 私はザウエルに抱き着き、頬をゆるませた。母親以外の同姓の相手と一つのベッドで眠った覚えはない。師匠は常に私一人で眠るように言ってきた。一人で眠ると涙が零れそうな夜もあったのに。この歳になって、一人が寂しいと思う時はあまりないが、懐かしい気持ちは甦る。


「な、なんだよ。面倒臭い奴だな……」


 ザウエルは私の抱き着き攻撃を押し返し、一人で横向きになり、無視してくる。尻尾がウネウネと動き、何か捕まる場所を探している蔓のようだ。私が手を伸ばすと、腕にクルクルと巻き着いてきた。


「なになに、ザウエルちゃん。素直じゃないな~。じゃあ、お休み」


 私はザウエルの尻尾の先端にチュっとキスする。


 ザウエルの体がピクリと動き、内股を擦らせていた。反応が返ってくると悪戯のしがいがあるってものだ。


 私とザウエルはそのままぐっすりと眠りについた。

 毎日学園に通い、夜は一緒にお風呂に入って『禁断の書』を書いて読む。

 そんな日を続け、待ちに待った明日はコルトとデートする休日。べつに、楽しみにしていたわけじゃないし、久しぶりに女の子っぽい服装ができてうれしいとか思っていないし、ただ単にコルトが女の子への恐怖が消えてくれればいいなと思っているだけ。

 でも、いつもぐっすり眠れるはずなのに、今日に限って心臓が妙に跳ねて中々寝付けない。

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