第17話 休日
数ヶ月経ち、仕事にも慣れてきた。店には来る人もいるけど、いつも通りだ。久しぶりの休みをもらい、宿舎で過ごす。
外で音がする。
「やっちゃったー!」
部屋の外を見るとバケツをひっくり返している。掃除をしていたのかな。もらったコップを机に置き、部屋の外へ出る。
「雑巾、使ってもいいですか?」
「いいよ。」
こぼれた水を拭きとり、バケツへ戻す。
「いや~。助かります。上を掃除していて、こぼしてしまいました。」
「今日は休みなのでいいですよ。」
「・・・雰囲気変わったね。」
「そうですか?」
「前は『そんなの関係ない。』って感じだったけど、今は違うね。」
「ありがとうございます!」
「いい変化だよ!うちに来ない?」
「考えておきます。」
受け答えもそれなりにできるようになっているのかもしれない。変わったところは気づかなくも周りは気づいてくれる。こんな気持ちなんだ。バケツを置き、ふちに雑巾を掛けてその場を去った。
外に出ると農場の人達が作業をしている。
「あ、おーい!お花、咲いたよ!」
向こうも気づき声をかけてくれた。その場に近づき、花を見る。群青というのだろうか、それよりも薄い青だ。昼の空より色は濃い。明け方ぐらいが群青なら、ほんの一瞬の色だろう。
「もうすぐ収穫だよ!実りの秋だよ!」
「今年もがんばった!だから楽しみ!」
「そんな時期なんですね。ここに来たのはそんなに経っていないと思ったけど。」
「なんか、話し方かわった?」
2人同時に話しかけてくる2人が同じことを言った。思わず目を丸くした。
「どうしたの?照れた?」
「違うよ!見とれてるんだよ。お花に。」
「・・・驚いているんだよ。2人が同じことを言ったから。話し方は特に意識してないけど変?」
「いいと思うよ。」
「変!」
「どっちだよ!」
2人はニコニコして見ている。
「これもここでの生活のお陰だよ!いつも気にしてくれてありがとう!」
2人ともうなづく。照れくさくなってその場から逃げた。
逃げた先は作業棟の裏手だ。高い岩の壁と言ってもいい。ゴツゴツした石が積み重なった場所だ。その岩の隙間から植物が生えている。よく見るとさっき農場に咲いていた竜胆の花と同じ物に見えた。けど、色が違う。ここに咲いている花はピンク色だ。しばらく見ている。色の違いもあるんだ。こんな場所でも生きているのが植物なんだ。思うことは今はそれだけ。けど、自分でもただの草では無くなったことがわかった。
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