第15話 たまには

仕事場に着くと大熊は外の切り株に腰掛ける。

「まあ、座れ。」

「どうしました?」

「今日は投げた。悠、話そう。」

「ダメですよ!仕事ですよ。」

「仕事は大事だ。けど、浮ついてはできないだろ?」

「なにを言っているのかわかりませんが、そんなことありませんよ。」

一瞬の沈黙だった。

「じゃあ、なんで昨日は宿舎を抜け出した?」

眉間にしわが寄っている。大熊も言いたくはなさそうだ。

「気持ちを切り替えたい時もありませんか?昨日は外の風にあたりたかったんです。病院ではできなかったから。」

「・・・すまん。そこまで聞くつもりはなかった。けど、悩みは話してほしい。」

「なにか起こればすぐ話します。今日は何をしますか?」

「昨日と同じだが、今日はもう少し話そう。宿舎は話しずらいか?作業棟の話がしたければ、話せるやつもいるぞ。」

「・・・あまり気にしないでください。」

話したくない話題だ。ここから出て生活したいなんて。

「そうじゃないだろ!ここでの生活にはみんなが必要なんだ。お前も入らないか?」

「わかりませんよ!そんなこと!」

「楽しいことばかりじゃないから、楽しくしたいんだ!」

「・・・返す言葉がありません。」

思わず言葉が出てしまった。

「少し、熱くなりすぎたが、それぐらい悠のことはかっているよ。」

「ありがとうございます。」

「ここへ来て、初めてだな。」

「え?」

「ここでこんな話をしたことだよ。」

笑いながら何かをごまかしていた。

「さて、そろそろ始めますか。よろしくお願いします。」

大熊は話を切り替え店の中へ入って行く。後を追うように店に入る。まずは掃除からだな。大熊は奥の部屋に入ってもう姿はない。

「今日はどうしよう。」

ぽつりとつぶやき、掃除を始める。棚には様々な生活雑貨。一つずつどかしながら棚を拭く。全部拭き終わると声をかけられた。

「そろそろ休もう。」

大熊が部屋から出て、立っていた。

「わかりました。」

「気がまぎれるか?」

「昨日は立っていただけでしたから。」

「もう少し続けてみよう。」

「今日はお客さん来ますかね?」

「暇なのは、みんな満足に生活できているってことさ。」

「なるほど。」

「このコップ持っていくか?」

「いいんですか!?」

「次来る客の相手ができたらな。」

「がんばります!」

たわいもない会話だったがモヤモヤはしなかった。思い出すとやっぱり会いたいな。

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