第7話 納品

「おはようございます!」

朝のラジオ体操が終わり、その場にいるメンバーの出席確認が行われる。

「鹿島さん!」

「はい。」

「元気ないなぁ。はい、もう一度!悠君!」

「はい!」

思わず、反応してしまった。詠美を直視できなかった。予定が発表されて、それぞれの作業の準備を始める。まだモヤモヤしている。

「今日はこれとこれの納品だから、一緒に来て。」

「わかりました。」

商品を小型車へ積み込み始める。箱に入った商品を車に運び、詠美に手渡す。車内に積むのは任されていない。1人でもいいと思うけど。モクモクと商品を積み込む。最後の1つを積んだ後、車のドアは閉まらなかった。

「あれ?」

詠美が首を傾げる様子を見ていた。

「どうしよう。・・・積み直してもいい?」

無言で商品を車から降ろし始める。やり直しだけど。反発する気はないけど、仕方なく商品をまとめる。

「ここを変えれば・・・よし!これで積めます。持ってきてください。」

「はい。」

再び商品を積む。今度は無事に車に積めた。小型車の中は商品で一杯になった。

「運転しましょうか?」

自動車のライセンスがない訳ではなかった。病院に入る前も車には乗っていたから、少しはできるはず。

「いいえ、私に任せてください。」

「わかりました。」

そのまま、車に乗り出発する。運転席と助手席、その他は商品で一杯だ。

「さっきはありがとう。あんなミスもしちゃうぐらいだから、気を使わなくていいよ。」

「・・・そんなこと、ありませんよ。」

運転しながら詠美が話しかけてきた。横目で見ても普通の人だった。昨日の雰囲気を思い出す。慈愛・慰みという雰囲気より、フレンドリーな雰囲気。

「あのね。みんなには昨日の事は言わないで。」

「なんのことですか?」

「私が子供と外に出てたこと。みんな、家にいると思ってるから。子供だって外へ出たいから、いつかとは考えてるんだ。」

「なにをしたいのですか?」

「この仕事を辞めて外へ行きたいなと思ってます。」

思わず振り向いてしまった。寂しそうな表情で運転している。返す言葉は見つからない。けど、引き寄せられる気持ちだ。

「ありがとう。聞いてくれて。」

返ってきた言葉にうなずき、気になる隣を見ないように外を見る。

気がつけば街中にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る