(2)

「子供がそんな重病だったら、普通、外になんか出られないわよねえ。だれが面倒見るのよ」


 女ってのは、ホント噂話が好きだよな。

 バカくさいと鼻先でわらって通りすぎようとしたそのとき、妙にひっかかる内容が耳に入ってきた。


「ほら、だってあそこの家、母子家庭って言いながら男の人が出入りしてるじゃない? 出入りっていうか、もう完全に一緒に住んじゃってる感じ?」

「だけど、血の繋がりもない他人の子供の面倒なんか見ないでしょ。よっぽど子供好きで家庭的な人ならともかく、街中でチラッと見かけたことあったけど、チンピラみたいな人だったわよ? 仕事だってまともにしてないっていうし」

「まあ、母親だってまともな感じじゃないけどねえ。だって、中学生とか高校生で複数の相手と関係持って妊娠しちゃったんでしょ? だれの子かもわかんない子供なんて、よく産む気になったわよね」


 思わず足を止めて振り返る。女たちはまるで気づかず、夢中になってしゃべりつづけた。


「だけどさあ、親はともかく、子供が可哀想じゃない? 子供は親を選べないんだから。あんな親なのに、すごく良い子だって言うし。ちゃんと育てる気がないなら産まなきゃいいのにねえ」

「なんか心配。一か月以上も学校休んだままなんて。虐待でもされてるんじゃなければいいけど」

「虐待どころか、最悪の事態になってなければいいって、みんな――」


 言いかけた途中で片方が俺に気づき、口をつぐんだ。それからもうひとりをつついて耳打ちする。パッと振り返ったもうひとりとも目が合うと、女たちは途端に遊具のほうを見やって子供たちのところまで飛んでいった。


「ほらっ、いつまでも遊んでないで、もう帰るわよ!」

「今日はもうダメ! 早く帰らないと怖い人に攫われちゃうんだから!」


 警戒心まる出しのセリフ。駄々をこねて抵抗しようとする子供たちの腕を掴み、女たちはそそくさと足早に立ち去っていった。その後ろ姿を、ぼんやりと見送る。


 まさか、な。


 呟いて、土手のほうを見やる。

 俺があのガキと会ったのは、つい十日ほどまえのことだ。女たちが話していた内容と、日付が合わない。類似した家の話ではあったが、おそらく別のガキのことだろう。

 思って、ふたたび歩き出した。

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