第9話 神頼み
ヒマワリの種を食い終わったチュ太を肩に乗せ、再度箱庭の外に出た。さっきの奴等はもう行ったな……行ったよな?!
もう俺は、緊張とストレスのメーターが振り切れそうだなんだ!『我が家』を閉じて、さっさとここからずらかるぞ!!
恐る恐る階段の方を見ていると、壁に鍵束らしき物が掛かっているのに気付た。来た時はビビリ過ぎて振り返る余裕も無かったもんな。きっとあれが牢屋の鍵だろう。多分そう。でないと詰む。
それを手に“叔父上”さんのいる牢屋の前まで行くと、俺の足音を聞いた“叔父上”さんが、ひび割れた唇を震わせた。
「………お…お前は…誰……なんだ?……城の者では…ないのか?」
流石に俺と“甥っ子”とで続けざまに話をしたから、違和感を抱いたみたいだ。この人には聞きたい事がたくさんある。だからここは素直に正体を明かす事にした。
「………俺は、昨日召喚された者です。スキルで隠れる事が出来たんで、さっきの人達にはまだ見つかって無いと思います。それで、このまま居ては危険だと感じて、出る方法を探している途中でした。ここに来たのは偶然ですが、さっきの話を聞いて、出来れば貴方の協力を得たいと思っています」
「……ああっ!…彼奴等はまた!……すまない……本当にすまない……こんなことに……巻き込んでしまって!……もちろん…協力したいが………この状態だ。……私では…あまり役には…立てないだろう……」
知らない事を教えてくれるだけでもこっちとしては大助かりなんだけど。だから、協力してくれるなら是非連れて行きたい。ただ、それにはチュ太で試した方法を実際にこの人でやる事になる。
「俺のスキルで、ある部屋に貴方を隠す事が出来ます。ただ、人を隠した状態でスキルの使用を止めた場合、中に居た人がどうなるかが……正直分かりません。最悪、死ぬ可能性があります」
手術前の事前説明の様に、“叔父上”さんに話す。まだ、人が入った状態で箱庭を閉じても本当に大丈夫なのか俺は自信が無かった。
出来ればもっと検証してから使いたかったけど、酷い怪我をしているこの人を連れて逃げるのは、動ける子供達以上に難しい。
たが、“叔父上”さんは乾いた笑いを少し漏らしてこう言った。
「……構わない。……今の…私では…もう……死人と……そう変わらない……だろう?」
うっ……確かに……。素人目にも、速攻で病院に連れて行くか、医者に見せなきゃヤバいと思う。
実際問題、連れて行けたとして、その後の治療をどうすれば良いか……。
「……やってくれ。………結果が……どうであれ……死ぬ場所が……少し…変わるだけだ…」
「………………分かりました……」
会ってないけど、居るかもしれない異世界の神様!どうか、この人を連れて行かせてくれ!
俺は困った時の神頼みを念じて、手にした鍵束を鍵穴に刺した。
1本目……合わない。2本目…これも合わない!
焦る気持ちを抑えて、順々に鍵を差し込むうちに、俺の気分は、“ホラー映画で、車の鍵を刺せずに速攻くたばるモブ”と化した。
だが!こんな序盤で死んでたまるか!
“叔父上”さんにも俺の焦燥が伝わったのか『無理を……するな……』とか言わせちゃったしよぉ!
ガチャッ!
「(!!あ、開いたぁ!!やっと開いたよ!クソっ!8本中のラストでやっと開けられるとか、ザコ引きが過ぎるよ俺ぇ!)」
そんな嘆きを脳内で叫び、鉄格子を開けた。
素早く『我が家』の扉を牢屋内に展開し、室内に入って、ベッドからマットレスを引き抜くと、牢屋の中に敷いた。
“叔父上”さんを最小限で動かせる様に、真横に並べたマットレスへ、静かに上半身、続いて下半身を移動させる。そして、マットレスの端を引っ張り『我が家』の中へと引き摺った。
1度、扉を閉めてキッチンからストックしていた経口補水液とコップと薬箱を持って玄関へ戻り、“叔父上”さんを支え起こして飲ませる。
「……痛み止めしか持ってないんです。気休めかもしれませんが、飲んでください」
「………水……だけでも……助かるよ……」
喉が渇いていたからか、ゴクゴクとあっという間に薬と一緒に飲み干してしまう。
もう一杯コップに注ごうとしたら“叔父上”さんが手で制した。
「……ありがとう。さあ……やってくれ…」
「……………はい」
背中を支えて、マットレスへ再び寝かす。
俺は外に出て『我が家』の扉を閉めた。
「(……………頼むぞ!本当に頼む!!)」
そして、俺は『我が家』をしまい、元いた小部屋を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。