第6話 生還と名付け
「おじちゃん……ここで……待つの?」
「…………おにちゃ……ぼくこわいよ……」
翌朝、朝ごはんを食べた後で2人に話をして箱庭の外へと出て貰った。
夏の明るい『ばあちゃんち』から、広間の薄暗い床に降り立つと、途端に不安げに2人が俺を見上げてくる。
「ごめんな。ほんの少しの間だけ、ここの先にある部屋まで歩いて移動して欲しいんだ」
「「…………」」
2人と手をしっかり繋いで、先ずは一切生き物がいない状態で箱庭を閉じた。
………『閉じろ』と思うだけで『ばあちゃんち』の玄関ドアはフッと俺の目の前で消えた。
再び『開け』と思えば、目の前に出現する玄関引き戸。
その中に中身が見えない様に覆ったネズミの籠を置き、再び箱庭を閉じた。………よし!生き物が中にいる状態でも閉じられたぞ!
そのまま広間から廊下に出て、昨夜の小部屋へと歩いていく。
しーっと、静かにする様に合図をしてゆっくり進んだ。頼むから泣かないでくれよ。
せっかく落ち着いたのに可哀想だが、せめてここから離れて安全な場所まで移動をしたい。幼い兄弟は、また知らない場所を歩かされて、自然と俺の手を握る力がギュッと強まる。
広間から出た廊下には人影は無く、たまに外から、訓練でもしている様な掛け声が聞こえて来た。
「………(ここに入るよ)」
「「……(こくっ)」」
頷き返してくれた表情は固いが、なんとかネズミを見つけた小部屋まで到着した。
直ぐ様『ばあちゃんち』を開き、2人を中に入れ、続いて俺も入っていく。
「ふぅ…ありがとうな、大樹くん、幸樹くん。また『ばぁちゃんち』でゆっくりしてて良いからね?」
「「うん!」」
そして俺は、2人の目に入らない様に、ネズミを入れた虫かごの前に立って、家の方へと2人を連れて行った。
茹でておいたトウモロコシを折って、半分ずつ2人の手に置き、縁側に腰掛けさせると、安心したのか笑みを浮かべてくれた。
「大樹くん、幸樹くん。俺達が最初にいた場所があまり安全じゃないみたいなんだ。だから出来るだけ安心出来る場所にこれから移動しようと思う。途中でまた少し歩いてもらうかもしれないけど、それまでばぁちゃんちで待っててくれるか?」
「………うん、わかった。こうきと一緒にまってる」
「ぼくもまってる!」
今後のことをざっくり説明し、俺は箱庭の出入り口に置いた虫かごを拾い上げた。
覆い布をめくり中を覗いてみると、チョコチョコと茶色いネズミが動き回っている。
「………良かった。まだ安心出来ないけど、ネズミでの実験は成功だ。お前もお疲れさん。お前の世話は2人に頼むから仲良くしてくれよ?」
カゴの隙間から小松菜とヒマワリの種を入れて、縁側にいる兄弟の元へと向かう。
2人の目には、俺の手にした虫かごが既に見えているっぽい。カゴの中身が気になって立ち上がり、駆け寄ってきた。
「おじちゃん!何が入ってるの?!」
「カブトムシ!!カブトムシだよね!!」
幸樹くんは虫をお望みだったか。だが残念。
「2人にはもう1つお願いがあるんだよ。このネズミの世話を頼めるか?」
「……わぁ……ちっちゃい!かわいいね〜こうき!」
「うん!ネズミ!ねぇ、名前!なんて名前なの?」
「名前は……そうだな。まだ決まってないから、大樹くんが決めてくれるか?」
カゴからネズミを出して大樹くんの掌に乗せてやると、キョロキョロと忙しなく頭を動かしていたが、ネズミに逃げる素振りは無かった。
「名前……名前はね………チュ太!キミはチュ太だよ!」
大樹くんがネズミに名前を付けて呼ぶと、ネズミが一瞬ピカッと光り輝いた。
「チュチューー!!」
「チュた!!おにいちゃん!ぼくもさわりたい!!」
いや、ちょっと待って!今、何が起こったの?!さっきのエフェクトは絶対ネズミに何かあったからだよね?!
2人はそんな事を気にする事もなく、キャッキャとネズミと戯れている。
『チュ太』と名付けられた茶色のネズミは、大樹くんの掌から、腕を伝って肩に陣取っていた。
「あ、あのね、大樹くんちょっと良いかな?」
「うん!おじちゃん、チュ太をつれてきてくれてありがとう!とってもかわいいよ!ぼく、ちゃんとおせわする!」
「はは〜…そう…だね?そのままで良いから、またステータスを開いて見せてくれるかな?」
「わかった!ステータス!」
名前 曽我 大樹(そが だいき)
年齢 5歳
ジョブ 育成士 Lv2
スキル 植物育成 魔物意思疎通
魔法 未習得
【魔物名付け】チュ太(ハイドラット)
ぎゃーー!!!いつの間にかスキルが生えてるじゃないか!しかも、魔物と意思疎通が出来るの?!しかも【魔物名付け】って、俺の箱庭保存みたいなもんか?
え?これってどの魔物も行けるのか?
いや……待て待て。そんなにペットを増やしても面倒見切れないし……嗚呼……でもジョブのレベル上げもした方が良いし、魔物を使役して動かせれば、2人の安全を確保しつつ、今後の活動の助けになるんじゃないか?!
大樹くんのステータスを見て、活動方針を改めて考える。
すると、ちょいちょいと大樹くんが俺の手を取って見上げていた。
「あのね、チュ太がね、お腹が空いてるときにおじちゃんからもらったヒマワリの種がとっても美味しかったんだって!ありがとうって言ってるよ!」
「…………そうか。大樹くん、チュ太の気持ちを教えてくれてありがとうな。これからは大樹くんがヒマワリの種をチュ太にやってくれるか?」
「うん!わかった!」
………チュ太に色々手伝って貰うのは兎も角、2人の癒しになりそうな存在が出来て良かったよ。
「あ、大樹くん。太ったら大変だから、チュ太にあげるヒマワリの種は決まった数にしような?」
「わかった〜!」
「ヂュゥ!!!」
なんとも情けない鳴き声がチュ太から漏れたが、きっと気のせいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。