第5話 検証と協力者(?)

さて、大樹くんのジョブを確認してみるか。



「大樹くん、家か幼稚園で何か飼ってなかったかな?動物とか昆虫とか魚とか。それか、何か育ててる物はなかった?花とか木とか〜なんでもいい、思い付くもの無いかな?」



「うん!ようちえんでウサギかってるよ!しろくてフワフワでかわいいんだ!ぼく、ごはんをあげるのやってた!」



ウサギかぁ。と、なると『育成士』は動物系の育成に向いたジョブってことか?

こればかりは対象がいないと判断出来ないし、幸樹くんのジョブみたいに簡単には使えないかもしれない。


でも試しに1つやってもらうか。



「そうか、じゃあもしこの世界でもウサギがいたら飼えるか試してみようか?」


「うん!ぼくちゃんとごはんあげる!うんちのかたづけもするよ!」


「ぼくも!ぼくもやる!!」



ウサギに限らず可愛い系の動物なら2人の癒しにもなりそうだ。動物か……探せば何処かにいるんだろうか?ペットショップなんかないだろうから、野性の動物になるのか?

だとすれば捕獲の難易度は高いなぁ……。


ひとまず癒やし動物の件は置いておき、大樹くんには畑でジョブが使えないか試してもらおう。



「大樹くん、1つ試して貰いたい事があるんだ。さっき食べたトマトの隣に小さな苗木があるだろ?それに『大きくなれー』って思ってみてくれるか?」


「わかったー!」



そして大樹くんが『おおきくな〜れ〜!』と手を伸ばして、ムムムっ!と力むと、20cmほどだった苗木がニョキニョキと目に見えて伸びてきた。



「あ!のびた!」


「のびたー!!おにーちゃすごい!」


「おお〜!いっきに5cmは伸びたかな?凄いな異世界!」



その後も何回かジョブを使ってもらうと、苗木はプラス40cmまで成長し、枝に蕾をいくつかつけるまでになった。


植物の育成が出来るなら『ばぁちゃんち』の食料補充の手伝いをしてもらおう。

在庫を確認したけど、1人暮らしの女性の備蓄じゃ心許ないんだよな。


ついでに畑を少し広げて、ジャガイモとカボチャと玉ねぎが植えられる様にしておくか。


先にジョブの簡単な使い方を2人に教えて、『少しでも疲れたら止める』、『俺が一緒にいる時に使う』と約束をしてもらって確認を終えた。



次は『箱庭』を出てここから逃げる方法を探さなきゃならない。いつまでもここに引き籠もっていたって現実は変わらないからな。


見せしめで軽々しく人を殺す様な奴らのいる所なんて、やはり留まって良いことは無いだろう。いつ、その矛先が自分達に向くかもしれないんだから。

幸い、最初に居た広間の様な場所は常に人がいる感じでは無いが、何かしらの移動方法を探さないと幼い2人を連れて抜け出すのは無理な話だった。





◇◇◇





その夜、2人を寝かし付けたあとで、俺は1人箱庭の外へと出て行った。広間の様な場所を抜け、慎重に進む。


なんとか、情報を仕入れられないか……。


広間から続く長い廊下の途中にあった扉を人の気配が無いか確認しつつ中を調べた。今のところヒントになる様な物は無く、空振りばかり。


それにウロウロと家探ししていると、泥棒にでもなった気分になる。まあ、今は背に腹は代えられない。有効な物は頂く位の気持ちで図太く考えよう。



「(!!何だ?!何かが動いた音?!)」



書棚を見ていたら微かに音がした。


その場でジッと息を殺し、音の原因を探る。

暫くすると、また『カサカサっ』と聞こえてきた。


目だけを動かし室内を見ると、茶色い小さなネズミが一匹、床の隅で鼻をヒクヒク動かしているのが視界に入った。



「(………なんだよ…ネズミか………)」



今の俺もこそ泥の真似したネズミみたいなもんだけどな。自虐的に笑いを浮かべ茶色のネズミを見て1つ思い付く。


思い付いたのは、ここから抜け出す為には必須の実験だ。万が一を考えて、2人には伝えずに試す必要がある。それなら今の内に協力者ネズミを捕まえるか。


俺はそっと広間に戻ると、箱庭に入って虫取り網と籠を手にネズミのいた部屋に戻って来た。


床に柿ピーのピーナッツを一粒置き、ネズミに向けて軽く指で弾く。




「(……さあ、来てくれよ?)」




そのまま静かにネズミが動くのを待った。


食い物を嗅ぎ付けたのか、頻りに髭をヒクヒクとさせている。辺りの様子を伺いながらも、食い物を求めて動き出した。


ソロソロと、しかし確実にピーナッツへと近づくネズミ。


そしてやっとピーナッツをその手に持って、カリカリと噛り始めた。



「(………悪いな)」



小さな両手に持って夢中でピーナッツを齧るネズミに向け、虫採り網をサッと振り下ろした。



「ヂュッッ!!」


「(よしっ!)」



網で捕まえたネズミを素早く寄せて籠に入れると、探索を取りやめて『箱庭』へ戻った。



「……ふぅ〜〜〜〜。これで『箱庭』の検証が出来るな。お前には悪いけど付き合ってもらうよ」



虫籠の中で右往左往しているネズミを見てそう声を掛けた。忘れずに、落とした食べかけのピーナッツと一緒に何粒か差し込んでおく。ついでに、畑にあった萎れたヒマワリから種を取って追加のご馳走を振る舞ってやろう。


2人が起きたら一度『箱庭』を出てもらい、ネズミが中に居るまま『箱庭』を閉じる事が出来るか。閉じた『箱庭』を再度、他の場所で展開した時、中のネズミに問題が出ないか。それを確かめたい。


現状、俺は『箱庭』の入口を追加で出せなかった。


探索中の移動先で『箱庭』の扉を思い描いていても、そこに扉は現れなかったんだ。だから、仕方なく広間に戻ってから『箱庭』に入った。


ネズミが尊い犠牲になってしまうかもしれないけど、子供2人を連れてここを出るには、これを確かめないとならない。


成功を願って、虫籠を片手に広間へと戻って行った。




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