第10話 嫉妬してしまいました

(はぁ……)


 翌朝。教室に着き、自分の席へ着くとそこには金髪のギャルがいた。


 この学校はまぁ学力が高い方で校則に関しては少し緩いところがある。そのため髪色に関してはあまり注意されないそうだ。


 話せないことはない。嫌いというわけではないが、春風彩音は苦手である。


 あちらは俺が来たことに気付くと手をヒラヒラさせ手を振った。


「亮平、おはよ~」

「……おはよ」

「元気ないなぁ~何かあった?」


 特に何もないが、彩音は俺の腕にぎゅっと抱きつき、むにゅとした柔らかいものが当たる。これ、わざと当ててるな……。


 やめてくれと彩音の手を腕から離そうとした瞬間、隣から視線を感じ、チラッと見ると渚咲と目が合った。


 彼女からはなぜか殺気を感じる。いつもの天使のような笑顔は一切ない。


「彩音、離れてくれ」

「ごめんごめん。藤原ちゃんもおっは~、こっち見てるけど、一緒に話す?」


 渚咲の視線に彩音も気付き、一緒に話したいのかと思い誘っていた。


 彩音と渚咲が話しているところを俺は見たことがない。実は仲が良かったりするのだろうか。


「いえ、大丈夫です。八神くんと春風さん、お二人がお話ししてるところを見たことがなかったので仲良かったんだと思いまして」

「仲良し……まぁ、中学からの仲だし、親友ってやつ?」


 彩音は俺のことを見て、服の袖口から手を出さない状態で口元へやり、小悪魔のようにニシシッと笑う。


「親友なのか? 思ったことないが?」

「ひっど~。亮平のこと大好きなのに」

「笑いながら言われても……」

「ほんとだよ。私に絡んでくる男子ってほとんど外見しか見てなくて一緒にいてつまらないし」


 そう言った彩音は、表情が暗かったが友達から名前を呼ばれるとパッと表情が明るくなり、はーいと言って呼ばれた方へ行ってしまう。


(マイペースだ……)


 教室に入ってからずっと立っていたが、自分の席へ座り、カバンから1限目で使う教科書を取り出す。それを持って海人の元へ行こうとすると後ろから服の裾をクイッと引っ張られた。


 後ろを振り返ると俺ではなく後ろにいた渚咲の方が驚いていた。


「あっ、えっと……今日もお昼一緒に食べてもいいですか?」

「お昼? うん、俺は構わないよ。後で海人と胡桃にも言っておくから」

「ありがとうございます」


 2人ともおそらく渚咲と一緒にお昼を食べることを嫌とは言わないだろう。胡桃は絶対に喜ぶ。


 握られていた服がパッと離され、海人のところへ行こうとしたが、渚咲はまだ何か言いたそうな表情をしていた。


「八神くんは、春風さんのこと好きなんですか?」


「えっ、俺が彩音を? いやいや、それはない。あっちも俺のこと好きとか言ってるけど本気で言ってるわけじゃないだろうし」


「…………そう、ですか。今から言うことは聞き流してもらっても構わないのですが……私、先ほど春風さんと亮平くんが話しているところを見て嫉妬してしまいました」


 顔と耳を真っ赤にして頑張って言った彼女はその直後、恥ずかしくなって両手で頬を触っていていた。


 聞き流してもいい、そう彼女は言ったが、聞き流せない内容だ。


「嫉妬って……羨ましいってこと?」


 何に対してなのか気になり尋ねると彼女はコクコクと頷いた。


「迷惑でなければ私も亮平くんともっと仲良くしたいです。家だけではなく学校でも」


「迷惑じゃないよ。俺も渚咲とはもっと仲良くしたい。だからこれから学校でもたくさん話そう」


「……はい。たくさんお話ししましょう」


 以前なら自分から話しかける自信がないから話さなかった。けれど、今は自信とかそんなの関係なしに俺は彼女と話したいから話す。例え周りにどう思われても。




***



 数日後。体育の授業が終わり、更衣室で着替えているとどちらかというと陽キャであって、友達の多いクラスメイトの長田が俺に話しかけてきた。


「なぁ、八神。最近、藤原さんと仲良くないか?」


 こういう質問は藤原と学校でも話すことを決めてから予想していたことだ。彼女はモテているため、誰かと仲良くしていたら付き合っているのではと気になるのだろう。


「仲はいいな……」

「! つ、付き合ってるのか?」

「付き合ってない」

「ほんとか?」

「ほんとだ。仲はいいが付き合ってない」


 いつか藤原に好意を寄せている人に聞かれたときはハッキリと答えるようと決めていたので否定すると相手は少し納得したような表情になる。


「だ、だよな、疑ってごめん。藤原は八神みたいなパットしない人を好きにはならないよな」


 相手は俺に笑って謝る。勝手に彼女の人の好みを決めつけている発言にイラッとしたが、納得してしまう。


 わかっている。俺には他の人よりいいと思うようなところはないし、彼女の隣に並んでいい男じゃないと。


 自分を卑下しないようにしたいが、俺は自分に自信を持てない。


 謝った相手は立ち去ろうとしたが、俺の隣にいた海人が肩に手を置いて引き止めていた。


「長田、謝るならちゃんと謝れ。藤原さんが誰を好きになるかなんて本人にしかわからないし、亮平のことを悪く言うな」

「! ご、ごめんって村野。そんな怖い顔すんなよ」


 ヘラヘラしながら長田は肩に置かれた海人の手を優しく振り払う。


 俺のために怒ってくれているのはわかるが長田には謝る気が全くないのは見てわかる。


「謝るのは俺じゃない。亮平に────」

「海人、次授業だから早く行くぞ」


 視線がこちらに集まっていて、大事にしたくないため俺は海人の手を引っ張って長田から離れる。


 制服へと着替えて、更衣室から出ると俺は海人に礼を言う。


「さっきはありがとな」

「礼なんていいよ。友人としてあの言葉にはイラッとした」


 海人は出会ってから全く変わっていない。こういう誰かのために怒れるところ。


 教室へ向かって歩いていると胡桃が手を振って駆け寄ってくる。その後ろには渚咲がいて、胡桃の後を追うため小走りにこちらに来ていた。


「あっ、海人! さっきのバスケの授業見たよ! ちょーカッコ良かった!」


 胡桃は海人の元へ来ると廊下だが、ぎゅーと抱きついた。


「ありがと、胡桃」


 いつも通り爽やかな笑みを浮かべて言うが、胡桃は海人の様子を見て何かに気付いた。


「……何か怒ってる?」

「ん~まぁ、さっきイラッとしたことがあってさ」


 海人がこちらを見て俺がコクりと頷くと何があったのか教室に向かって歩きながら胡桃と渚咲に話した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る