第13話 鍵束
通りは大賑わいだ。
細い木の棒と色とりどりの布を組み合わせて作られた屋台が軒を連ねている。貫頭衣姿の、浅黒い肌の人々が、道を行き交っている。女の荷物を持つ男、屋台の主人に値段交渉をする子ども、ベンチに座り休憩する老爺。
しかし、モナとルイは気づいていた。彼らは人形だ。
向かいから歩いていくる若い男と、赤い屋根の屋台の店員の男は、全く同じ顔、同じ背丈、同じ服。値段交渉の会話は、「もっと安くしてください」「これはこの商品の正しい値段です」の二つの台詞を繰り返しているだけ。こちらに背を向けて走り去る子どもの背中には、鍵穴がついている。彼らは、明らかな異邦人のモナとルイを見もしない。彼らは人形のようだ。
モナとルイは、混雑する通りの隙間を縫うように歩く。途中、食べ物の屋台を見つけ、心を惹かれた。しかし、置いてあった食べ物は、全て精巧に作られた偽物であった。道端の井戸を覗くと、少し深めの穴が掘られているだけで、水は無い。
コンパスの針に従い、通りを右に曲がる。
すると、開けた場所に出た。
設立途中の屋台が数軒あるだけで、他に建物は無い。人を模倣した人形が数体、直立不動の状態で立っている。赤茶色の大地と青い空が遠くで融合し、地平線を作っている。
人形の間を動く者がいる。ロボットだ。人の顔を模した鉄の顔に、部品を乱雑に組み合わせて作られた金属の胴体と手足。パーツとパーツの間から、細いコードが血管のようにうねっている様子が見える。
ロボットは人形の後ろから顔を出し、赤いレンズで二人を見た。
「もしや旅人の方ですか?」
ロボットは流暢に話す。
「次の門を探しています」
「門ですね。ちょうどこの真上にございます」
二人は空を見上げた。見渡す限りの青い空。門らしきものは見えない。
「上に連絡をしました。少々お待ちください」
ロボットは二人から顔を背けると、作業に戻った。腰にぶら下げた鍵束を手に取り、人形の背中に鍵をさす。背中を開き、中のカラクリを触っている。
モナはゆっくりとロボットに近づき、作業風景を間近で観察する。
「何をしてるの?」
「人形の整備です」
「なんでそんなことをしているの?」
「主人の命令だからです。ああ、門が来ますよ」
ロボットが上を指差した。その時、轟音が響き渡った。
青空が急に消えた。青い板を取っ払ったかのように、空が丸ごと、地平線の向こうへ消えた。
真っ暗な虚空から、巨大な手が降りてくる。手は二人の前に、石造のアーチ型の門を置くと、虚空へ帰っていった。再び轟音がして、青空が戻った。
門の向こうには砂浜と海が見える。
二人はロボットに礼を言い、門をくぐった。
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