黄色いチューリップ
第1話
この夏、私は失恋した。
今回こそは、そう思ったのに。
突然に終わってしまった。
また、また……。
恋愛が上手くいかない。
誰でもそんな時はあるし、他にもそんな人はいる。
そうは思うけれど、私は最近知った。
私の運命は、呪われていると。
突然の恋の終わりに、涙が流れることはない。
もちろん、悲しい、辛い。
でも、慣れたのか、泣けない。
5年ぶりの恋だった。
5年間、好きな人は作らなかった。
でも、好きになってしまった。
その人との恋は特別だった。
初めて心の底から本気で好きになった。
初めて行動したいという気持ちになった。
初めて諦めきれない恋だった。
初めて深く嫉妬することがあった。
初めて仲良くなれた。
だけど、恋を終わらせないと行けなくなった。
付き合ってたわけじゃない。
ただ、距離がもっと遠くなったような気がした。
なぜそうなったのか、分からない。
どうしても、分からない。
この恋は実らない。
そんなことは、分かっているけど。
あの時こうしておけば、今こうはなっていないんじゃないか。
そんな気持ちがずっと心の中にある。
その時に出会った。
知らないおばあさん。
重そうな荷物を持っていたおばあさんを私が助けた時、おばあさんが言った。
「お嬢ちゃん。呪われてるよ」
突然のことに、驚く。
信じるわけがなかったけれど、少し怖かったから聞いた。
「やめてくださいよー、怖いじゃないですか。何で私が呪われてるんですか?」
「それは分からん。でも、お嬢ちゃん。恋愛が上手くいかないだろ。最近もあったんじゃないか?」
「…ええ?…おばあさん、占い師か何かですか?」
「やっぱり、あったんだね」
「え、いや、それは…」
「私はね、昔巫女をしとったんだよ。だからかね、分かるんだよねぇ」
朗らかな顔のおばあさん。
嘘を言うような人には見えない。
言葉は怪しいけれど、見た目は普通の人のように見える。
「…それじゃあ、呪いを解く方法は?」
「そこまでは分からんよ」
「ええー…、どうすればいいんですか?このままじゃ、私一生恋愛できないですよーっ」
「落ち着きなさい。方法がないとは言ってないだろ?」
「でも、分からないって」
「今はね」
「今は?」
「荷物、運んでくれるんだろう?」
「え、あ、はい」
「私の家は、神社だ。そこなら、もう少し分かるかもしれん」
「本当ですかっ」
「ああ。ついておいで」
少し不安な気持ちがありつつも、おばあさんについて行くことにした。
しばらくして、緑に囲まれた神社に到着した。
まだ気温は暑いはずなのに、木々の影でか、ここは涼しかった。
「お嬢ちゃんには、特別だよ」
「え?」
「普段、私が誰かの呪いを見ては解決してあげてるわけじゃない。ま、呪われてる人なんて、ほとんどいないがね。お嬢ちゃんは、特別だ」
「…それは、荷物を運ぶお手伝いをしたから?」
「それもあるね」
…も?
荷物を言われたところに置くと、おばあさんが神社の中へ入っていった。
その後を私も追う。
「さ、そこにお座り」
「はい」
「静かに風の音を聞くんだ」
私の住む町は、都会でも田舎でもない、住宅街だ。
だから、車の音、人の声がよく聞こえる。
だけど、この神社は木々が揺れる音と風の音、鳥の声しか聞こえない。
しばらく、その音に耳を傾ける。
そして、おばあさんが言った。
「んー…。不思議だねぇ。どうしても見えないところがある」
「見えない?未来がですか?」
「私は元々、未来という未来を見ることはできない。結果が見えるだけだ」
「結果?」
「そうだ。お嬢ちゃんがどうなるかの結果が見えない」
「そんなぁ」
「でも安心しなさい。今結果が見えないのは当然だからね」
「そうなんですか?」
「ああ。解く方法を知れば、結果が分かる」
「じゃあ、解く方法はっ?」
「それが、全く見えないんだよ」
「ええっ、重要なのに…」
「まあ、出会うべき人に出会ったら分かるかもしれないね。…でも、お嬢ちゃんは難しそうだね」
「そんなっ」
「まず、分かったことを言うよ」
「はい」
何だか緊張して、胸がドキドキと鳴る。
「呪いについて。お嬢ちゃんの呪いは、恋が実ることのない運命だということ」
「…はい…」
「そして、誰がその呪いをかけたのかについて。聞きたい?」
「え、はい。もちろん」
「…お嬢ちゃんだよ」
「…え?」
「呪いをかけたのは、お嬢ちゃん。自分自身だ」
「い、いつ。な、何でっ」
「さあね。理由は分からんけど、呪いをかけたのは今世ではないだろう」
「…つまり、前世?」
「そうだ」
「…じゃあ、私が呪いを解くカギでは?」
「その可能性はあるけど、お嬢ちゃんは特殊だからねぇ」
「特殊?」
「お嬢ちゃんの場合、今のままじゃあ自分では呪いを解けない。誰かに解いてもらわないと」
「誰にかは、分からないですよね?」
「そうだね。お嬢ちゃんの呪いは強いから、1人では解けないんだよ」
「強い?…ちなみに、私の前世って…?」
「それは分からんよ。この呪いは、周りにも影響を与えてる。それくらい強い」
「え、他の人にも影響及ぼしちゃってるんですか?めちゃくちゃ迷惑な人間じゃないですかっ」
「そういうことじゃない。周りっていうのは、環境や空気ってことだ」
「わー…」
「まあ、私たちが会ったのも何かの縁だ。実際、私はお嬢ちゃんに対して何か惹かれるものがあったからねぇ。だから、今こうしてるんだ」
「ありがとうございます。何だか気分が晴れました」
「呪いを解く方法が分かってないのに、変な子だねぇ」
おばあさんは、笑って言う。
「そうなんですけど、恋愛がずっと上手くいかなかった理由を知れてよかったんです」
「そうか。頑張ってね」
「はいっ」
「また、ここに来るといい。相談にも乗るから」
「ありがとうございます!あ、私、
「よろしくね。私は、
「麦さん。あなたに出会えてよかったです」
「私もだよ。あ、そうだ。言い忘れるところだったよ」
「どうしたんですか?」
「桜雨ちゃんの呪いを解ける人。この人が分かれば、解く方法が分かる。その人が1番のカギだからね」
「でも、どうやって探せば…」
「そうだねぇ。ここは、待つしかないのかもしれない」
「その人と出会ったら、すぐに直感で分かりますかね?」
「難しいだろうね。それが、桜雨ちゃんの運命だから。…でもね、分かるときは来る。だから、信じて待ちなさい」
「はい、そうしてみます」
「それじゃあ、今日は荷物運んでくれてありがとね」
「いえいえ。それじゃあ、また」
そう言って、神社から出ようと向きを変えた時、1人の男の子がやってきた。
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