第39話:光と闇の共鳴
「くっ……ハルはどこだ!」
俺、黒辻レイは夜の聖都の路地を全力で駆けながら、強い焦りを感じていた。
大司教の策略にはまり、ハルが捕らえられた恐れがある。
あの場で俺たちを逃がすためにハルが時間を稼いでくれたのは確か。
何としても助け出さなきゃいけない。
隣を走る暗黒少女イリスも険しい表情だ。
「考えてる時間はないわ。大司教の手先が動いてるはず。
早くハルを見つけて、まとめて蹴散らすしかない」
「ああ……迷っている暇はない。行こう!」
路地を曲がった先で、神殿騎士の集団と鉢合わせした。
こちらに気づいた彼らは一斉に武器を構える。
「レイ、あいつら……!」
「やるしかない!」
騎士の一人が「捕らえろ!」と叫び、十数名が突進してきた。
俺は右腕の光の紋様を呼び起こし、イリスは闇の魔力を高めて迎撃態勢を取る。
先頭の騎士が鋭い突きを放ってきたが、イリスの闇弾が横合いから槍を弾き飛ばす。
「うわっ!」
よろめく騎士の背後を、俺が光の刃で一気に刈り払う。
衝撃波で複数の騎士が吹き飛び、石畳に転がる。
「思ったよりも抵抗が弱い……。急いでるのかしら」
イリスが目を細める。
どうやら大司教はどこかでハルを連行し、別の企みを進めているのかもしれない。
「よし、突破するぞ!」
散り散りに逃げる騎士たちをよそに、俺とイリスは大聖堂方面へ一直線に駆け出した。
――そのとき、上空からピリピリと嫌な魔力が漂ってきた。
「……妙な力」
イリスが唇を噛む。
見上げると空が紫色に染まり、大きな魔法陣が展開されている。
「まさか、大司教の仕業か……?」
答えを探る間もなく、魔法陣の中心から巨大な光の柱が降り注いだ。
「危ない!」
イリスが俺を押しのけ、自ら闇の盾を展開。
激突する閃光に耐えてくれているものの、さすがに圧力が凄まじい。
「イリス……大丈夫か?」
「こんなの……ずっと受け止めてられないわよ!」
ならば、俺もやるしかない。
「頼む、右腕……力を貸してくれ!」
光の紋様が反応し、腕が灼熱感を帯びる。
まるで闇の力を吸収して対抗しているかのようだ。
――その瞬間、胸の奥で妙な鼓動を感じた。
イリスの闇魔力と俺の光が混ざり合い、ドクンと脈打つ。
(これが……光と闇の共鳴?)
薄紫の柱が闇の盾を突き破ろうとする刹那、俺は腕を差し出した。
光の紋様がまばゆく輝き、イリスの闇と重なり合うように反撃のビームを放つ。
「うおおおっ!」
光と闇が融合した一撃が紫の光柱を砕き、宙へ拡散させた。
空に描かれていた魔法陣も崩壊し、一瞬で消えていく。
「な、何だ今の力……!」
イリスが息を切らしながら驚きの声を漏らす。
「俺にもわからない。でも、二人の力が同調したおかげで、あれを打ち破れたみたいだ」
騎士たちも呆然としている。
俺たちはその隙を逃さず、大聖堂へ走る。
すると、入り口前で鎖につながれたハルが膝をついているのが見えた。
「じいちゃんっ!」
「レ、レイ……おまえら、無事じゃったか……」
疲労の色が濃いハルがかすかに微笑む。
その隣には、大司教が立ちふさがっていた。
「まったく厄介な連中だな。だが、ここで終わりだ。
その闇と光の混ざった力、今度こそ支配してくれるわ!」
大司教は杖を掲げ、禍々しいエネルギーを先端に集めている。
神殿騎士たちも警戒態勢に入り、こちらを取り囲む。
「イリス、俺が前に出る!」
右腕を構えて光の紋様を再び呼び起こす。
先ほどの共鳴の熱がまだ腕に残っている。
「じいちゃんをこんな扱いして……おまえら、教会の正義を履き違えてるぞ!」
怒りをぶつけるように斬り込みを仕掛けようとする俺。
「黙れっ! 貴様らこそ神への冒涜だ!」
大司教が渾身の魔力弾を放つ。
それをイリスが闇の盾で受け止め、俺は一瞬の隙間をついて大司教に接近する。
だが、強烈な光の衝撃波を放たれ、こちらが弾き飛ばされそうになる。
「うわっ……!」
地面に転がる直前で踏みとどまり、体勢を立て直す。
まわりでは神殿騎士が一斉に押し寄せるが、イリスが闇魔力をまき散らして牽制。
その隙に再び前へと踏み込む。
――大司教の力は予想以上。しかし、ここで倒れたらハルを救えない。
「イリス……もう一度、あの共鳴を!」
そう叫ぶと、イリスが俺の背中にそっと手を当て、闇の魔力を送り込んでくる。
再び胸の奥でドクンと弾む感覚が走る。
「ふん、今度は失敗しないでよ!」
「任せてくれ!」
光と闇が融合したエネルギーが、俺の腕を通じて剣の形をとる。
大司教は杖を振り上げ、光の盾を作り出すが――
「はあああっ!」
俺の一撃は複数の神殿騎士もまとめて吹き飛ばし、大司教の盾を粉砕。
彼は信じられないという顔で後退し、杖も砕け散って地面に落ちる。
「ば、ばかな……こんな力……!」
大司教がひざまずいた瞬間、イリスが追撃を放ち、ハルを拘束していた鎖が断ち切られた。
「ぐう……貴様ら、絶対に許さんぞ……!」
大司教はうめき声を上げながらも、もう戦意は残っていない。
周囲の騎士も大半が動けない様子だ。
「じいちゃん、今のうちに退却しよう。これ以上ここで暴れたら、ほかの人まで巻き込むことになる」
俺はハルの腕を支え、立ち上がらせる。
「そう……じゃな。教会を丸ごと敵に回すつもりはない。撤退じゃ……」
かすかにうなずくハル。
俺はイリスとともに頷き返し、大司教を尻目に聖堂の敷地から脱出した。
――と、敷地を出てすぐの路地で、慌てた足音が聞こえてくる。
「レイさーん、ハルさーん、イリスさーん! 大丈夫ですか!」
「モモ!?」
暗がりから姿を見せたのは、勇者家系の少女・岸辺モモ。
別行動をとっていたはずなのに、息を切らしながらこちらに駆け寄ってきた。
「皆さんが聖都の試練に行かれてから、あちこちで騒ぎが起きてるみたいで……もしかして皆さんが巻き込まれてるんじゃないかって……とにかく探していたんです!」
モモは安堵のあまりか、半泣きになっている。
「モモ……無事でよかった。ごめん、心配かけたな」
「いいえ、私こそ。少しはお役に立ちたいのに、会えなくて……。
でも今度は大丈夫です、どこへでもついていきます!」
純粋な瞳でそう言われると、体に力が戻ってくるようだ。
俺はハルとイリスを見回し、みんなで軽くうなずき合う。
夜明け間近の空の下、光と闇の共鳴でつかんだ勝利。
しかしまだ謎は残り、今後どう動くかも決まっていない。
(俺はまだ父と母の正体を知らないし、この「光と闇の力」の真意もわからない。だけど仲間がいるなら……必ず乗り越えられるはずだ。)
その想いを胸に、俺たちはモモを加えて再び走り出す。
大司教が完全に沈黙したわけじゃない。
これから聖都を抜けて、安全な場所で体勢を立て直さなきゃ――。
闇が明けようとする聖都の街を、仲間全員そろって駆け抜けていく。
何があっても、俺はもう逃げない。
光と闇、そして大切な仲間の力を信じて、前へ進むんだ。
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