第20話:俺の異世界転移再び


 夜、街は静まり返っている。


 俺は疲れ果てて家に戻り

 こっそり母さんに「ちょっと散歩してきた」と誤魔化して部屋へ直行。


 ベッドに転がり「はあ……」とため息をつくと

 スマホの通知が光っているのが見えた。


「……あれ、モモからか。なんだ?」


 そこには「大変です! 何やら奇妙な怪物がまた出たらしいです! 」

 という緊迫したメッセージが。


 俺はすぐ跳ね起きた。



◇◇◇



 数分後、こっそりモモと家を抜け出して現場へ向かう。


 どうやら大きな化物が急に出現して暴れ回っているとか。


 もしかして、またあの闇の少女が絡んでるのか……?


 路地を曲がると、視界に入ってきたのは巨大な蟲のようなモンスター。


 鋭い爪と節くれだった体躯を持つその生物は

 ひときわ禍々しいオーラを放っていた。


「な、なんだこれ……今まででかいのが出たこともあったけどこれはヤバい……」


 モモが怯えた声を出す。

 通行人が何人か巻き込まれてしまいそうだ。


「よし、やるしかない。モモは安全な場所へ避難誘導! 俺がこいつを止める」

「はい、気をつけて……!」



◇◇◇



 俺が一歩踏み出したその瞬間

 上空から漆黒の雷がモンスターを打ち据えた。


 あれは……前に戦った少女が使う攻撃魔法か?


 姿を探すと、やっぱりいた。


 闇の少女が電柱の上に立ち、冷めた瞳でモンスターを見下ろしている。


「なに勝手に暴れてんのよ……邪魔なのは嫌いだって言ってるでしょ」


 その言葉にモンスターがギャアと吠える。


 少女は杖をもう一度振り上げるが、今度は巨大な尾が電柱をへし折りかける勢いで振り回され、彼女もバランスを崩す。


「くっ……ちょっと手強いわね……!」


 やはり一人で倒すには厳しいか。

 ならば俺も加勢するしかない。


「ほら、あんた一人じゃ無理だろ。手伝うぞ!」

「勝手にしなさい……ただし、足だけは引っ張らないでよ!」



◇◇◇



 俺と少女は、まるで暗黙の合意で再び共闘する形に。

 まずは少女の雷撃で硬い甲殻を少しでも削り、俺の光の拳で一部を砕く。


 だけど相手は巨体ゆえ、攻撃範囲が広く

 地面に亀裂を走らせるほどの衝撃を生み出してくる。


「くっ……やっぱり強い。けど、逃げてられない!」


 俺は右手に最大限の力を込め、かつて異世界で使った“謎の力”を思い出す。

 頭の中で“剣”のイメージを描き、白く輝く刃を具現化する。


「そりゃあああっ!」


 閃光がモンスターの頭部を真っ二つにする。


 一瞬の静寂の後、黒い体液のような霧が噴き出し

 モンスターは断末魔の叫びとともに地面へ崩れ落ちた。



◇◇◇



「……やった……倒せたか」


 俺が肩で息をしていると、少女が足を組みながらこっちを見下ろしている。


「フン、ちょっとはやるじゃない」


「お前のおかげだろ。雷で隙を作ってくれたし……って、いいのか 

 感謝しなくても」


 彼女は不機嫌そうにそっぽを向く。


「別に。私が倒したかっただけだし。

 ……でも、これ以上は面倒だし、いったん退くわ」


 俺は思わず

「ちょっと待て、前々から“魔王の血”って言ってるけど、何者なんだ? お前は」


 と問いかける。


 すると少女は辛うじて杖を下ろし、言葉を選ぶようにして言った。


「私? そうね……別の世界から来た、“ある組織”の人間よ。

 詳しくは教えられないけど」


 そう呟いた直後、少女の杖が突然不穏な光を放ち始めた。


「な……なによ、これ……? 転移魔法陣が暴走してる……?」


 彼女が焦ったように呟き、手にした杖から黒い渦が巻き起こる。



◇◇◇



 俺も嫌な予感がして後ずさるが、闇の力の渦に足を取られ

 体が引き寄せられてしまう。


「うわっ、何だこれ! 俺まで巻き込むなよ!」

「知らないわよ! とにかく離れて……っ!」


 闇の渦が激しく回転し、視界がぐにゃりと歪む。


 俺と少女は同時に光の糸みたいなものに絡め取られ

 空間が裂けるような感覚に襲われる。


 頭がグワングワンし、呼吸さえままならない。


 そのまま――


 俺はまるで奈落へ落ちるように意識が遠のく。



◇◇◇



 気がつくと、そこは荒れた大地。見覚えのない灰色の空。


 「えっ……嘘だろ、また異世界?」


 少女は脇で倒れ込んでいた。


 周囲には赤黒い岩と地割れがいくつも走り、怪しい瘴気が漂っている。


 どうやら先ほどの魔力暴走で、俺ごと別世界へ転移しちまったらしい。


「……おい、大丈夫か?」


 少女に声をかけると、うっすら意識を取り戻しながら


「くっ……面倒なことになったわね……」と苦い顔。


 周りを見渡す限り、どう考えても地球じゃない。


 「はあ……これ、家に帰れるのか?」と俺は頭を抱えるが

 一方で少女は杖を握りしめ、何か思案している。


 結局、俺は再び異世界に飛ばされる羽目になった。


 家族に何も告げず、またあっちの世界……あるいは別の世界へ。


 果たして俺は無事戻れるのか。


 そう思いながら、得体の知れない荒野の風を肌で感じていた。

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