第6話:猛威を振るう炎と少女起床!


 すぐさま駆けつけた先には、もっと大きな炎のモンスターが立ちはだかっていた。


 さっきの小型とは比べものにならない巨体だ。


 町の建物を次々と焼き払おうとしている。


「こ、これヤバいな……」


 炎の壁みたいに熱気が広がり、普通の町人じゃ近づくことすらできない。

 逃げ遅れて怯えている人々が、どうにか俺の姿を見つけて叫ぶ。


「勇者様、助けてください!」

「まさか、こんな怪物が……私たちじゃどうしようもない!」


 やはりここでも“主人公”をやるのは俺しかいない。


 右手と左手、それぞれが異なる力を発動できる感覚は掴めてきた。

 でも、こんな巨大な相手を倒せる自信は正直ない。


「……できるさ。成功する前提で行くんだろ?」


 自分で自分を鼓舞するしかない。

 魔物を討たないと、町中が燃え尽きる。


 それだけは止めなきゃ。



◇◇◇



 まずは、周囲の人たちを避難させる必要がある。


「みんな、建物から離れて! 早く、安全な場所へ!」


 青年や他の町人が、俺の号令で一斉に動き出す。


 なんとか民衆を遠ざけられそうだ。


 その隙に、俺は魔物に接近しようとするが、凄い勢いで火炎放射が襲ってくる。


 まともにくらったらひとたまりもない。

 左手で“バリア”を意識し、相殺してみる。


「うおおお!」


 バチバチという音とともに、炎と青白い冷却光が激しくぶつかり合う。


 正直、熱い。

 すごく熱い。

 でも、一歩も引かない。


「これで……終わらせる!」


 一気に懐へ滑り込み、右手を最大出力で叩き込む。


 今までで一番強い衝撃が自分の腕にも伝わってきて

 瞬間的に耳がキーンとするほど大きな爆音が鳴り響いた。


 巨大モンスターの身体がビクンと震え、炎の色がどんどん薄くなっていく。


「頼む……消えてくれ……!」


 最後の砲撃のような火球がこちらに飛んできたが、もう威力が落ちている。


 左手をかざして吹き飛ばす。

 魔物は断末魔を上げながら燃えカスのようになり、ついには完全に消滅した。


「……勝った……俺、やったのか……!」



◇◇◇



 町人たちが一斉に駆け寄ってくる。


「すごい! 本当に倒したんだ!」

「勇者様、あなたに感謝します!」


 耳に痛いくらいの歓声と拍手。


 全身クタクタだけど、これだけ喜ばれれば倒れられない。


 そこへ治療所からあの少女が姿を見せた。


 まだ包帯が巻かれているが、必死に起き上がったようだ。


 医師に止められているはずなのに。


「ありがとう……あなたが私を守ってくれたんですね」


 彼女の瞳は震えているけど、心からホッとしている様子。


 そばの人たちが

 「あの娘さん、あなたにすごく感謝してましたよ」と言ってくれる。


 俺は妙に照れくさくなって、うまく言葉が出ない。


「い、いや……当然のことをしただけで……」


 そうは言いつつも、体のあちこちが痛む。

 長時間戦った疲労と炎の熱で、もうヘトヘトだ。


「お兄さん、大丈夫ですか?」


 青年が駆け寄って支えてくれる。周りの人たちが心配そうに集まってきた。


「少し休んでください! それにしてもあなたは本当に強い……」

「勇者様じゃなかったら、町はどうなっていたことか……!」


 賞賛と感謝の嵐。


 さすがにここまで褒められると、俺としては照れと恥ずかしさで爆発しそうだ。


 でも同時に、体の痛みが徐々に増してきてヤバい。


 青年たちが「すぐに手当てを!」と言ってくれるので

 俺は彼らに支えられながら治療所へ向かうことにした。



◇◇◇



「……本当にありがとう……あなたがいなければ私は……」


 少女の小さな声が聞こえた。


 目が合うと、顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。

 でも、その一瞬の表情から伝わってくるものがある。


 自分が地球に帰りたい気持ちは変わらないけど

 ここにいる人たちとも何か縁ができてしまったな……。


 そう感じながら、俺はぐったりと治療所のベッドに横になった。

 これで町の危機はひとまず落ち着いた。


 ……が、まだまだ俺の旅は終わりそうにない。


 むしろ始まったばかりだ。


 いずれ、この少女の秘密も明らかになるかもしれない。


 それを知ったとき、俺はどう行動すべきなのか……。


 新たな疑問と少しの期待を胸に、今はしばしの休息をとるしかない。

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