第36話 悩める年頃ンゴ
どみん「ほらイグル、足がおろそかンゴ(足払い)」
イグル「くっそ!?」
ゴロン!
どみん「トントットくん、バランスが悪いンゴ(どんッ!と体当たり)」
トントット「うわぁ!?」
ゴロン!
どみん「お前達、歩くの(シフトウェイト)が下手すぎるンゴ!忍び足教えたンゴねぇ?先端先付けからかかとまで滑らかに地接。できないからそうやってちょっとの力でバランスが崩れるンゴよ?」
イグル「なーにが教えただ!つま先から足つけてかかとまで流れるように地面に接触なんてお前みたいに早く出来るか!なぁトント?」
トントット「イグルさん、でもンゴ兄貴はできてるんですよ!?素早い足運びなのに僕が気づく限り全てですよ…僕らまだまだなんです」
ンゴの兄貴…かぁ。
いつの間にか孤児院の皆から「ンゴ兄貴」と言われてる。
そしてイグルに付けていた修練を子供達が自分たちにも教えてくれと言うので、早朝から地味ぃで辛い鍛錬をさせてるのに教えてくれって言った子供達全員ついて来てるの何故だろう?
特にトントットくんという子供達のリーダー的なお兄ちゃんが人一倍頑張っている。
何かに取り憑かれた様にンゴの修行をするのでちょっと怖い。
そもそも古流の修行なんて地味で辛くて組手なんては野生動物とやるから命がけだし、派手さもないからつまらないと思うんだけど…なんで皆やりたがるんだろう?
ソニア「おいンゴ兄貴、俺にも剣術指南してくれよ!地味な訓練ばっかで退屈だぜ!」
子供達「「そーだそーだ!」」
どみん「ンゴ…(ビッ―――) 」
子供達「―――!?うわぁっ?」
ソニア「な、なんで自分で腕を切ったんだよ!?」
どみん「表面を撫でただけンゴ。刃物は生半可な状態で振り回すと自分を傷つけるンゴ。正しい歩き方、正しいしゃがみ方、正しい体の振り方。全てできて武器は扱えるものンゴ。半端な状態じゃ自分を傷つけるならともかく誰かを傷つけるかもしれないンゴよ?自分が傷つく覚悟もないのに武器を振るようなやつは俺自ら首を切る―――貴様ら覚悟はあるか?」
子供達+ソニア「……」
どみん「少なくとも、イグルとトントットくんは自分が傷つく覚悟はあるンゴ。まずは基礎トレーニング、それについてこれないようなら無理に修行に参加しなくていい、〈冠水流兵法〉は自身が生き延びるために毒なり不意打ちなりで人を殺傷することもある技術だ。直接の技術でなくとも小さい子に教えたくない…ンゴは無理強いしないン―――」
ソニア「悪かったってンゴ兄貴…無理強いじゃねぇよ…俺達は今まで奪われるばっかりで―――強くなりてぇんだよ!ンゴ兄貴みたいにさぁ!!なぁお前等!!」
子供達「「うん!強くなりたい!!」」
どみん「って、何度も言うけどンゴの故郷でンゴはそこそこぐらいの強さだったンゴ。じーちゃんや剣の先生、武術の先生はンゴより遥かに強いンゴ」
イグル「そのそこそこにまったく追いつけねぇがな…」
トントット「自信なくなります…」
どみん「みんなどうしてそんなにンゴの技術を学ぼうとするのか理解できないンゴ。この世界にも武術はあるンゴね?この前の褐色の人達のデカい方が使ってたみたいな。まぁあの後あの褐色で角の人達は天井の修理が終わったらいつの間にか居なくなってたけど…」
イグル「あのなぁ、この世界の武術なんて【スキル】に頼り切りで適当なもんだぜ。素振りって言っても縦振りだけ、後は【コマンド】のトレーニング…。どみんがよぉやってるのは剣の振りだけでも縦(真っ向)、横(水平切り)、斜め(袈裟)、逆に回転。更にガードの仕方、姿勢による居合、寝た状態から居合なんて初めて見たぜ。しかも立ってる時と同じ速度でやってやがる!?」
トントット「【スキル・コマンド】に頼らない技術体制、様々な状況下を想定された鍛錬。僕は寝ながら居合っていうのが寝込みを襲われた時の状況だと教えていただいた時、なんて実践的な技術だと震えました!」
どみん「それはこの世界の技術が低いだけンゴ。だいたい―――」
カンカンカンカン!
レーペル「はいはーい!パクチーが朝食作ってくれたよ〜。冷める前に手を洗ってご飯にするよ〜」
子供達「「は〜い」」
年長の女の子、レーペルがフライパンにお玉を当てながらこちらに朝食の連絡をしてくれる。
朝食はぽっちゃり料理大好き少年パクチーくんに食材とレシピを渡して任せていた。
ふわっと味噌の香りが漂う。
どみん「(うん。味噌汁は上手くいってるンゴね。助かるンゴ〜)」
皆で食堂に向かう途中、トントットくんの浮かない表情が目に入った。
――――――――――――
ビュン!ビュン!ビュン!
トントット「強く…もっと強くならなきゃ!」
どみん「でもちゃんとご飯は食べないと身体は出来ないンゴよ?」
トントット「わっ!?ンゴ兄貴…どうして?」
どみん「どうしてもなにも、早々にご飯を食べて裏庭で何をしてるかと思ったンゴ。オーバーワークは身体に毒ンゴよ?」
トントット「毒…なら大丈夫です。僕のスキル【毒師】は毒に耐性があります。お陰で父親が盛った毒も飲み干すことができました…ハハハ…」
どみん「なんか…ごめんなさいンゴ」
トントット「!ごめんなさい!こんなつもりじゃ…うん。なんでこんな事ンゴ兄貴に言っちゃたのかな?ハハ…ハハ……」
トントットくんが裏に庭で必死な形相で素振りをしていたので心配でつい声をかけてしまったンゴ。
どみん「…ちょっとそこの木陰に座って話さないかンゴ?」
トントット「…え?」
どみん「ふえっ!?い、嫌ならいいンゴ!お邪魔しま―――」
トントット「あ!すいません!ちょっと、なんというか驚いたので。ンゴ兄貴はそういう事を言うタイプじゃなさそうだったから…」
どみん「正解ンゴ。正直人と喋るのはまだ苦手ンゴ。でも、いまのトントットくんとは話したほうがいい気がしたンゴ。不思議ンゴね」
ちょっと気まずい沈黙の後で、お互いに相手の様子を見ながら木陰に座る2人。
ふと、ンゴの口から言葉が出たンゴ。
どみん「最初に言うとンゴの両親は幼い頃に亡くなったからトントットくんに家族の話とかおこがましいかもしれないンゴ」
トントット「え!ンゴ兄貴は孤児なのですが?」
どみん「ンゴにはじーちゃんがいてくれたンゴ。ンゴが見つかった時、やせ細って衰弱してたらしいンゴ。ンゴは当時のことは覚えてないけど両親が長生きしてたらンゴは今ここにいないかもしれないンゴね。実際にネグレクトしてたかどうか物心付く前だからよく理解らないンゴ」
トントット「……」
どみん「こんな話ししたのは、ほら!人のことを聞くなら自分から話さないと卑怯じゃないンゴか?だからといって無理に話してほしいわけじゃ無いンゴ。でも―――ンゴはここの院長ンゴ!悩みがあるなら聞いて楽になってほしいンゴ。抱え込むといい事無いンゴ?」
そう話したはいいが沈黙の間ンゴは「何いってんだお前ぇ〜」と恥ずかしさとかいろいろな感情を反芻して顔真っ赤。
そこにぽつりぽつりとトントットくんが話し始める。
トントット「…もうご存知かもしれませんが、僕の父はボンボッボ・アクシツコレステなんです」
どみん「…辛かったンゴぬぇ!?へぇあ!??」
ボンボッボ・アクシツコレステ!?
あのデブで態度の悪い王様の事ンゴ!?
似てねぇ〜。
トントットくんのお母さんの遺伝子優秀ンゴ。
って!トントットくん、王子様ンゴ!?
トントット「僕は望まぬ子供だったらしいです。父上は男子が生まれると生後間もなく始末していたそうです。しかし、母上やランラッラ姉上、今はダーディラードのピンピッピ姉上のお陰で命は繋ぐことができました。しかし、僕の存在を知った父上は同じ食事の同じテーブルにつかせました。僕はこの時あの男は周りが言うような悪い王様では無いのだと疑いませんでした。結果、一週間食事に混ざった毒のせいで死を彷徨いました。母はその時の食事で亡くなり、残った僕を姉二人が必死に介護してくれました」
どみん「……(めっちゃ話重いンゴ。ンゴが話フッたけど早く終わらないかな…)」
トントット「命からがら助かった僕をランラッラ姉上は死んだことにして陰ながら逃がしてくれました。しかしお付きの者が僕を奴隷商に売払い、流れ流れてこのギュウシー領…いまはベッコニング自由都市につきました。僕は運がよかった。他の奴隷みたいに気分で殺されることもなければ五体満足のまま今こうして生きてられる。ここで話せないこともいっぱいありましたけどこうしてンゴ兄貴に拾われて幸せです。でも許せないんです。父上…いえ、ボンボッボ国王を、僕だけならまだしも母を殺したあの卑怯者を…だからもっともっと強くなりたいんです!ンゴ兄貴!僕…強くなりです!!」
そ、そんな美少年に涙目で訴えられても正直困るんですよぉ…。
まぁンゴも国王様には処刑されそうになったし、うーん?
ここまで話してくれたトントットくんの期待に答えたい気持ちもある…。
どみん「…ンゴの〈冠水流兵法〉は〈毒術〉を得意とする流派ンゴ。聞くとトントットくんのスキルと相性がいいと思うンゴ。もしその気なら危険な技を教えてもいいかもとおもってるンゴ…ただし!もし私利私欲で使うなら容赦なく首を跳ねなければいけないンゴ。覚悟はあるンゴ?」
トントット「あります!」
即答ンゴ。
どみん「料理の仕込みが終わったら後の夜になら教えても構わないンゴ。ただし、一切の口答えも許さない。言われたとおりに動くことを死守してもらう…いいか(ギロッ)」
トントット「は、はい!」
イグル「解ったぜ!」
ンゴの殺気にもしっかり答えられて、中学生くらいなのにトントットくんは偉いね…ん?
どみん「なんで居るンゴ?」
イグル「面白そうなこと話してるからさ!俺も強くなるためなら何でもやるぜ!仲間はずれは無しだろ?」
どみん「まぁ…ついでンゴ」
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