1‐3

「これからひぃちゃんは、あたし達と魔法学院に通うんだ。シスイから聞いてると思うけど、時が来るまで魔術は使っちゃいけないよ」


「時?それっていつ?おやつの時間とか!」


「ふざけないでちゃんとお話聞いてね?時が来たらきっとひぃちゃんにはわかるよ。でもその時まではダメ。その代わり……ほら、目を閉じてみな?」

「え、なになに?」


ヒスイが両手で目を覆ったのを確認し、アカリがユキネの方を向くとユキネは髪に固定していた鳥面の覚醒具を取り外すと装着する。


すると優雅で純白な鳥の翼がユキネの背に生まれ、シスイの了承を得た後に、ヒスイの両脇を掬い取り大きく羽ばたくとヒスイを連れ、上空へと舞い上がった。


「ヒスイさま………いえ、ひーちゃん。目をお開けください」


「え……うわぁ!なにこれ!みんなちっさいよ!ちっさいよ!

あ、お花畑だ!ひぃたんお花畑だーいすき!」


「我ら獣一族は、獣の血を有しており……ううん、私はひーちゃんだけの鳥さんなんです。他にもさっきのお姉さんは虎さんでね。

ほら、あの建物見える?あそこが明日から一緒に通う王立魔法学院ですわ」


ユキネはヒスイと共に城下町の上空を舞うと、それに気づいた町民たちは手を振り歓迎の意を示す。そして、一周廻った後、先程ヒスイが反応していた花畑の中心に着地するのであった。


「わぁ、お花畑!」


「ここは私たちの古の花畑です。宝物なのですよ」

「あ、ピンク色のお花だ!」


着地しヒスイはユキネから離れひと走りすると近くの花を鼻歌混じりに摘み始める。


そんなほんわかな雰囲気とは一片、残された4人の間には不穏な空気が流れていた。いや、主にシスイが。その様子にオウガは不快そうに頭を掻く。


「お、出た出た。シスイのひぃたん病が。流石に過保護すぎじゃね?」


「うるさい!あいつが暴走したらどうなるか――お前だって見たろ、あの時の……。

俺が傍にいないと……それにあそこは古の場所だろ?俺だけじゃ至れない……」


 「大丈夫だって。僕ら守護獣は封印術も扱えるし、

  ほら、古の場所は覚醒具がないと入れないでしょ?シスイも一緒に行けばいいんだよ。」


「最初からそのつもりだしね?」


アカリが2人をチラリとみると、それぞれの覚醒具をシスイの前に差し出す。


「今日は“大賢者様”もひぃたんモードだけどさ」


「さ、誰と一緒に向かうべ?【双黒の大賢者】サマ?」


「馬鹿にしてるだろ……たく、飛べるのはオウガ先輩だけなんだから決まってるだろ。馬鹿言っていないで行くぞ」


「それは大賢者サマとしての命令?それとも友達としてのお願い?」


「勿論、後者で!」


オウガが覚醒具をつけると、ユキネの翼とはまた違う、深紅で神々しい炎龍の羽が生えシスイに右手を伸ばす。同時にアカネとライトが左手に捕まると一気に羽ばたき数十メートル上空へと急上昇していった。


「あ、しぃたんだ!ひぃたんね、本物のお花で初めて冠作ったんだよ」


「お、おう。綺麗だな。……先輩、飛ばしすぎだって。ちょっと酔った」


「オウガは同じ飛行できるけど攻撃タイプだからねぇ。その辺の性格でてるよね」


アカリとライトが笑い合っている中、ヒスイはそっとつま先立ちになって、少し頑張ってシスイの頭に届かせる。


「ひぃたんから、しぃたんへ初めてのプレゼント。ずっと傍にいてね。初めての約束だよ」

 

 「……ありが……」

ヒスイが首を傾げながらシスイをじっと見上げる。

シスイは言葉にならなくて、絶対守らなきゃって改めて誓う気持ちが胸にこみ上げそっと涙を拭いヒスイの頭を撫でることでその意を伝える。その様子を守護獣の4人は口出しすることなく見守り、日が暮れると共に、二人を学院寮へと連れていき、ヒスイに明日の入学式について特別なしおりを手渡した。


「シスイ君もようやく1年生ですね。ひーちゃん、めいっぱいおしゃれしてきてくださいね」

「あたしとユキネからは、貝殻のブローチをプレゼント。一日早いけどね」

「明日からめいっぱい楽しもうぜ!」

「ま、オウガにぃ達がいれば自然とそうなるって!んじゃね、ひぃたん」


4人が守護獣から友達へ、立ち位置が変わってきていることにヒスイは満足そうに微笑み、「わぁ、ありがとう!ひぃたん、おしゃれして行くね!」と嬉しそうに指定された部屋へと帰っていった。


ヒスイが笑ってる。目の前で無邪気に笑ってる。

今度こそ、この笑顔を絶対守る――そう、改めて誓った。

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