変!

一草

ダウジング!

温泉地から少し外れた土地、男はあごに手を当てて首をひねりながら右往左往していた。

「なんとかして、すぐに温泉を掘り当てなければ・・・」

男は難しい状況に陥っていた。

「実家は旅館やってるなんて言うんじゃなかった・・・。闇雲に掘っても見つかるわけないよなぁ。どうする、どうする、どうする。温泉が出る場所を探知できる都合のいい道具でもあったらなぁ・・・」


「そこのお兄さん」

振り返った先には、巨大なリュックを背負った、茶色のスーツを着た恰幅のいい壮年男性が満面の笑みで立っていた。


「そこのお兄さん。温泉を探せる道具、あるんですよ」

「えっ本当にそんな都合のいいものが?渡りに船とはこのことか!」

スーツの男はさらに満面の笑みを浮かべた。

「10万円で売って差し上げます」

「ハァ?たっっか。足元見てんじゃ・・・いや、でも背に腹は代えられないか・・・」

男は承諾しそうになったが、ここである考えがよぎった。

『でもちょっと都合、良すぎない?』と。

『まさか、詐欺では・・・?』と。


スーツの男は見透かしたように話し始めた。

「心配いりません。温泉を掘り当てられなかったら、お代は頂戴いたしません」

「えっ、そんなんでいいんですか!?なら買います」

「では商品をお渡しします」


スーツの男はリュックから取り出した。

細い金属の棒。


「はぁ?なんですか、このゴミは?しまいにゃ殴るぞ」

「おお、とんでもない!これは正真正銘、とっておきの商品です」

スーツの男はつづけた。

「いいですか、これを使って『ダウジング』するのです!」

「ダウジング?」


少々説明させていただくとダウジングとは、棒などの探知用の道具を持って辺りを回り、道具の動きによって探し物の場所を探り当てる手法のことである。

主に水脈や鉱脈を見つけるために使われるが、失くしもの、宝くじの当選番号、恋人すら見つけられる。と言っている人もいる。

世に存在するダウジングに関する情報を全て信じるなら、要するに何でも見つけることができるのである。

ダウジング最高!

使う道具にはY字の棒、L字の棒、ペンデュラムなどがある。

スーツの男が取り出したのはL字の棒だった。


「なるほど、では早速やってみます。」

男は両手に棒を持ち、棒の先端を真っ直ぐ前に向けて西に歩き出した。

「う~ん」

次は北に歩き出した。

「う~ん」

東に歩き出した。

「う~、ん!?」

男は棒がわずかに開いたような気がした。

「お兄さん、もしや・・・?」

「か、感じました。反応アリです!こ、ここだ!うおおおおおお!」

男は持ってきたスコップで勢いよく穴を掘りだした。


数メートルは掘り進んだかという頃。

男はスコップの感触が明らかに変わったことに気づいた。

男の顔が紅潮する。

さらにもうひと堀、とスコップを突きさすと。

遂に温泉が噴き出し、男を穴の上まで押し上げた。

「やったー!」


「それでは10万円、頂戴します」

男はすぐさま銀行で10万円をおろし、スーツの男に支払った。

「本当にありがとうございました!これでどうにかなりそうです!なんとお礼を言ったらいいか・・・」

「いえいえ、商品をお渡しして対価を頂く、これは対等なビジネスです。礼儀を超えて頭を下げる必要はありません。ただお兄さんのお力になれて本当に良かった。」

男は心に温かいものが広がり、涙が滲んだ。

「それでは、私はこれにて失礼します。お兄さんの幸運を祈っていますよ・・・」

そう言ってスーツの男は立ち去った。

「渡る世間に鬼はないんだなぁ」

男は明るい夕日に向かって歩き出した。


ダウジングによる水脈探知の成功率は高いと言われていたが、ダウジングのある場合と無い場合で比較実験を行った結果、有意な差は得られず、そもそも水脈が多い地域で探したから水脈が見つかりやすかっただけでは?と結論付けられたいう話があるとか無いとか。

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