第2話 林の上昇気流
「三分前になりました。第一走者は所定の位置に集まってください」
風子先輩含む各学校の第一走者が集まる。ライバル帝王寺四天王の方はパワー系の多々良亜門先輩。帝王寺は二軍三軍……正式な言い方をするとBチームCチームまであるのだが、そちらは名前を知らない人たちが並ぶ。
砂利道の上、袋に入った地図が裏返しで人数分置かれ、やがて周囲は静寂に包まれる。
「よぅい、スタートッ!」
第一走者がいっせいに走り出し、手近な地図を拾ってすばやく目を通す。コンパスで方位を合わせて最初のチェックポイントがある方向を見定める。スタートと言われてからもなかなかスタートできないあたりが、すごく地味な競技である。最初のポイントを把握した者から順に地図から顔を上げ、木立の中へ消えていった。
風子先輩らの姿が見えなくなって三分後。
「え、これって、前の人が帰ってくるまで何してたらいいんですか?」
突如手持無沙汰となったあたしは、卓美先輩に問う。
「何って、ボーっと待ってたらええんちゃう? お昼寝でもしとけば?」
「んなテキトーな……」
しかし実際のところ、特にやることは無いようだった。運動会のリレーなら、走者がいちいち見えるから応援のしようもあるだろうけれど、オリエンでは、走者が森の中だ。ルートも自分の番が来るまでは秘密にされているわけだから、ドローンを飛ばして実況中継を見るというわけにもいかない。第二走者である燐先輩は軽く準備運動などしているが、卓美先輩は本当に木陰でお昼寝を始めたし、よく見ると他校も同様の動きである。
「お昼寝というのもあながち冗談ではなく、体力温存のための作戦ですよ。天さんもよければ」
燐先輩があたしにお昼寝を勧めるが、緊張で寝られそうもない。
「第一ポイント、帝王寺中通過!」
いつのまにか拡声器を装備した本田先生が広場で待つ選手たちに言う。手元のタブレットにポイント通過情報が入ってくるらしい。
「帝王寺は最初から飛ばしますね」
燐先輩がアキレスけんを伸ばしながら言う。あたしは楠木中の名前が出てくるのを今か今かと待って耳を澄ませる。走ってもいないあたしが焦る。みんな、あたしに一番でバトンをつないでくれるはずでは?このコメントはあまりに他力本願が過ぎるので口には出さないが。
「楠木中、第一ポイント通過」
結局、第一ポイントは六位通過ということだった。
「大丈夫ですよ。風子を信じて」
燐先輩が隣で力強く断言する。
「は、はい……」
とは言いつつも、第二ポイントでも順位は変わらず。
「ほう、やはり上りで仕掛けるおつもりですか」
突如、畷くんが何やら解説を始める。あたしも暇なので彼の解説を聞くことにする。
「やはりって、畷くんは風子先輩のこと、知ってるの?」
「そら知っとるよ。有名やで」
「そうなんだ」
「林原先輩は、一見地味やけど、坂道でその実力を発揮するクライマーや。こういう山岳エリアで差をつけることができる! ……その、勢いの落ちない登りの姿から、ついたあだ名が『
「――『
何だそのあだ名⁉ 誰が考えたんだよ……。
「第三ポイント、楠木中通過!」
「え?」
あたし、聞き逃してたのか?
「間違いではないですよ」
にやり、と燐先輩。
「僕もちゃんと聞いてたで。第三ポイントは一位通過や」
畷くんの証言で、事実だということが確認される。第二ポイントでは六位だったのに、一気に五人抜いて一位に躍り出たのだ。いったい何が起こったのか……。ハラハラしながら途中経過情報と畷くんの新聞部情報を聞いていると、あっという間に三〇分ほど経過する。
「第二走者、そろそろ準備を!」
本田先生が声をかけ、燐先輩と帝王寺の副部長・朱色の増井長谷子先輩が配置に着く。来るときに見た神社の向こうから、風子先輩が走ってくる。
「燐ちゃん!」
「よく頑張りましたね。あとは任せて!」
燐先輩は地図とカードを受け取り、すばやく位置確認をしてスタートする。あたしは急いで風子先輩に水とタオルを手渡す。風子先輩は頬を上気させつつ、律儀に礼を言う。ラストスパート、全速力で走ってきたのだ。
そのすぐ後に、帝王寺の多々良先輩が帰ってきて、増井先輩がスタートする。
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