カミロ・レヴァンテが、カミロ・レヴァンテになる物語

女性の主人に仕える執事は元暗殺者。メイドは特殊な部隊に所属していた元隊員。
この設定だけでも震える。

だけれども。

本作は派手なアクションの作品ではない。

彼らは、それぞれに傷を抱えて生きている。
三人の視点を通して描かれる、静かで、誠実な心情の積み重ね。

とりわけ、カミロの心の葛藤が読者を揺さぶる。

執事のカミロは、自分がこの場所にいても良いのかと悩む。
おそらく、暗殺者だった時にはそんなことは思わなかったのだろうと思う。
悩んだのは居心地が良いから。ここが自分の居場所だと思えたから。
偽名で、過去もわからない自分が、傍に支えることが許されるのかと悩む。
カミロは、裏社会で生きてきたとは思えぬほど、生真面目で、優しくて、熱がある。
そのことが、とても胸を打つ。

彼は自分が何者だったのか、探すために屋敷を去る。私はこれが“家出”と感じた。
それはきっと彼は帰るのだろうと感じたから。予定調和でそう思ったのではない。予定調和ではなく、カミロという人間が丁寧に描かれていたから。帰る。そう信じられた。

彼の選択は、きっと、彼と皆を幸せにした。
そう、信じられた。