異世界エイリアン保護区

空堀 恒久

ユーリ、生卵を食べてお腹を壊す

 「なんで、そんなことを……? したんだよ。ユーリ……!」

「いや、その……いけるかなって」

「いけるわけないだろ。火を通せ、火を! この通り、腹壊してんじゃんかよ!?」

 トイレからもどってきてすぐさま蹲まって手製のソファにもたれて、メイドのお姉ちゃんのクーングンデさんが用意した毛布で暖かくしてくるまれる。何してんだこの人は、

「私の地元では生で食べられるんだよー!」

「んなわけないだろ!? 卵を生で食べるとか、そんないい加減なことを言うのはやめようね!」

「いや、マジマジ、生で卵を米に掛けて食べてたし」

 同じ世界からきたはずのシャノンに目を向けると顔がこころなしか何本も線を書き入れたように影が深くなっている。

「……」

「……」

「米ってなんです?」

「あぁ、珍しいよな。僕も珍しいものとして食べたこともないこともないけども、知っているのは遊牧民の大帝国でよく食べられる土地もあるって聞いたことがある程度だ」

 ふんふんと大げさに首を縦に振ってうなずく年上の彼女の態度に実家で勉強を教えていた子どもたちに感じるような幼さを見出して、彼女にこういう勉強をさせた僕の師匠ならもしかしたら、派遣メイドの仕事を覚えさせるついでで大人受けの良い仕草などを身体に覚えさせたのかもしれない。

「皆して、なんだその目は、え、シャノンまで!? そんな変なこと言ってないでしょ!」

「シャノン、本当なのか?」

「……いや」

 その反応にユーリは、毛布にくるまってバタバタしながら主張を述べる。

「いやいやいやいや、『いや』ってなんだよ! 食べるんだよ。私の故郷では、外国じゃそういうことはなかったけどさ!」

「ごめん、知らない」

 ――ムググ。と、口をつぐんでユーリは大人しく丸まって、脈絡のない言葉をみつける。

「そうかぁ、知らないかぁ、でもさぁ、毒とかなんとかちゃちゃっと無害化してるみたいなこと前に言っていたけど、サルモネラ菌もなんとかならないの……いたたたた痛い」

「毒を無害化するのはいいけど、菌が出す毒は無害化しても菌は死なないから一回体温上げるしか無いぞ。だから、無毒化しても増えた菌にやられて風邪は引くし、常に無毒化し続けたら副作用で身体がボロボロになる。具体的に言うとハゲる」

「そっかぁ、フリッツは将来ハゲなのかぁ。そういえば、風引いてたことあったもんね」

「バッ、ハゲは遺伝病だぞ!? 父はふさふさだったから僕はハゲない」

「え、こっちだとハゲってそういう扱いなの?」

「しらん! だが、そういう勉強はしたことがある!」

「医療の? そうだね。そういえば、私の地元でも毛髪専門の外来医とかもいたような……」

「え? なに、その無駄に先鋭化された専門性」

 手を上げて、疑わしげにシャノンは言葉を投げかける。

「でもそれだと確定じゃないよね」

「まぁ、確かに遺伝というものは確率の話だが……」

「…………――」(ハゲって私の記憶が確かなら、母系遺伝が強かったような気が……でも、このこと言うと異世界の知識がどうこうに引っかかってフリッツが始末書書かされるんだよね。公的な文書にハゲは母方の遺伝子で決定されるって話を書かされるって、『なので、私はハゲになる可能性を否定できません』ってこの世界の将来の研究に使われそうな書類に残すのってどんな罰なのよ。うん、言っちゃだめね。この話)

「シャノンまでなにか、言いたげだけど、そんなに僕は将来禿げそうか? いや、一応昔過剰にやった解毒の副作用で髪の色が薄くなってるといったことはあったことはあるとは言えるけど、別に毛量が減ったわけじゃないんだぞ」

「いいえ、そういうつもりじゃなくて……」

「脱色? ……ハゲをごまかすために色を脱色したとかじゃなくて?」

「ユーリっ、なんでそんな話を!?」

「いえ、私の地元の知り合いにハゲてきた人が自分の薄毛をごまかすために色を薄くして、ハゲじゃなくて薄毛が原因で髪の向こうの色が見えているとごまかす人がいたから」

「随分な策略家もいたものだね」

「そう?」

 身を起こしてクーングンデさんに肩をもってもらい、彼女はまたソファから起き上がる。

「うぉ、ちょっとトイレに」

「はい、どうぞ」

「あの子、本当になんで生卵を食べたのかしら」

「おいしいんだもん」

 僕にはどうしても信じられなかったが、一度、試してみたくなった。


 ◆


 味を確認するためには、生卵から菌を抜く方法が必要か……

「緑と闇の属性を組み合わせた魔術なら菌だけを殺すとかもできなくはないけど……」

「え、できるの?」

「理論上はね。実際はわからん、いまちょっと実験してみる。治癒能力に使う緑の魔術はともかく、エネルギーを停滞させる闇の魔力属性の因子を使える魔術師はかなり少ないから一般向けに調整しなくてもよさそうだけど……、だとしても卵の味を傷つけずに菌だけ殺すというのもむずかしいな」

 考えた魔術の構成式の通り生成した魔力因子を配置して、徐々に出力を上げ行使してみる。すると、ボンッ! と、苔の玉のような綿毛の塊が伸びてくる。

「ッち、失敗した。少し調整を間違えたら、ほら」

「これは?」

「いま実験してみたところ、逆に余計な菌の繁殖を補助して一瞬でふわふわもこもこに腐ってしまった」

「……そうか、魔法といっても万能じゃないものね」

「魔術ね、魔法じゃない、技術だ。とはいえ、次からは卵黄を取って卵白を小分けにして試してみるか」


 失敗した塊を掃除して、きれいに洗ったら取り皿を用意して実験に使わない卵の黄身を取り分けて実験に使う白身だけを入れるための小皿とスプーンを台所の外の共有スペースに並べる。

「この卵黄はどうするの?」

 台所に残した玉子の卵黄について聞かれたので、反射的になにも考えていない適当な返事をしてしまう。

「そう、だな……クーングンデお姉ちゃんさんを呼んできてくれる?」

「えぇ、わかったわ。ユーリも眠って落ち着いているそうだから、いまごろ地下の部屋の掃除でもしているはずね」

「そうなんだ」

 そういえば、まだユーリのトイレに付き合っているのかと思っていたけど、あれから随分時間もたったし、別の仕事もあるからそれも自然なことか、にしても、気配を探すことに長けている『のに』なのか、気配を探すことに長けている『から』なのかわからないが、命令してる側の僕でも、クーングンデお姉ちゃんさんの行動ルーチンとか記憶してないぞ。

「材料はどうせすぐに経費で補填するから自由に使っていいよ」

「わかりました! 腕によりをかけて、贅沢につくらせてもらいますね」

「あぁ、無駄にするよりずっといい」

 クーングンデさんに作ってもらったクッキーはどういうわけかサクサクで甘くて味もよかった。シシィ先生はこういうことも勉強させていたんだろうな。


 ◆


 「菌の毒性を取り除いても菌の増殖するのが問題なら、菌が増殖できなくすればいいんじゃないの?」

「だから、それをしようとして菌だけ殺そうと頑張ってるんじゃないか」

「うん、だから、殺さなくてもよくないって?」

「ユーリ? それってどういう」

「え、だから、殺菌と除菌は別っていうか……」

 顎に手を当てて、少し、椅子に深く座って、浅く座り直して、そうか、考えるとそうだな。

「…………不活化の概念か……、うーん、加熱せず成分も変化させなければ、卵の遺伝子を破壊しても問題ないよな。なら、遺伝子を、遺伝子を壊すなら」

「遺伝子って……また髪の話?」

「そうか、そうだな。ハゲ、遺伝子の欠損に対して……」

「こっちの世界って遺伝子に関する概念ってどの程度進んでいるの?」

「そうですね。皆様のきた世界からしてみたらまだ未熟だと思われますが、800年前から一部の魔道師の間である程度の分析が進んでいると」

「800年?」

「え、いえ、詳しい数値がわかりませんが、その次代の魔道師がそういう研究をしていたって与太話があるだけで……実際はどうなんでしょうね」

 一般教養範囲外の魔道師の研究史を異世界人の二人に話しているクーングンデってあんまり威力はないけど、炎属性だけじゃなくてその発展型の光属性の魔力因子を生成できたことを思い出す。

 光属性の魔術師が使う毒には放射線で遺伝子を傷つける技があったな。あれ自体に対した威力はないが、錬気の防御が術者の出した威力に負けるとハゲることがあったな。

「放射線で菌を殺菌、不活化させるというのはどうだろう。玉子はもう死んでいるのだから、食べても毒性はない。よし、式もできた! これなら、威力も対して出ないから焼くこともないし」

「いや、それは……それは、ダメよ。ダメだよ!!」

「シャノン!? しゃの、え、なんでそんな怒っているの!」

「放射線で汚染されたものを食べるとか、放射線が身体に溜まって苦しむことになるわよ!」

 なんで掴みかかってくるんだよ……。

「放射線は溜まるわけがないだろう?」

「え、でも放射性物質の汚染って」

「もしかして、放射能と放射線を間違えてるのか?」


「あぁ…………、あ、そう。そうだな。まったくの別物だったな。あぁ、そうか、こっちの世界ではしっかりと区別されているのか……そう……うん……ごめんなさい」

 掴みかかった手を話してシャノンは恥ずかしそうに頭を下げて、向き追ってお姉ちゃんさんにも頭を下げてまた僕に向かって頭を下げる。

「えぇ、私達の世界では区別されてないことが多かったから、すみません」

「いまの言葉で、僕の始末書が増えたよ」

「え」

「だから、マシン災害と同じで、異世界の人間が異世界の知識を下手にもってくると、対処する手段がないままとんでもない兵器を作って、今も西にある毒と鋼の大陸でわさわさと勝手に住み着いてしまっているんだよ。だから、『放射線と放射能の区別がつかないとこが多い』って情報一つでも上に上げる義務がここを管理する僕には発生するんだ」

「……すまない、気を抜いていた」

 ……なんか、妙に放射能を恐れるな。なにかトラウマがあるのか? 水銀やヒ素と違って大量に口に入れることも珍しいだろうから治療の難しい物質というわけでもなさそうだが、

「注意するように」


 ◆


 クーングンデお姉ちゃんさんが各寮に美味しいクッキーを配りに行ってから、僕の作業とメモを見てしっかりメモの意味を理解しているシャノンと違って、意味がわかってなさそうなユーリが頭を抱えだして絞り出すように文句を言う。

「……あれから何日もずいぶん研究しているけど、菌と毒の除去ってなにが違うのよ……?」

「そりゃ、違うでしょう? ほら、式どころかアプローチ方法も、全然違うでしょ。半分あなたのためにやってるようなものなのだからあんまり勝手なことを言わないほうがいいわ。失礼よ」

「ふぅむ、だが、そうだね。菌と毒の違いか……、説明が必要かもね。菌っていう生物が、目に見えないほど小さく単純な構造の下等生物と類される生命体が存在していて、それはどんな澄んだ水にも、静かな空気にも存在していて、いわゆるカビそのものだったり、食べ物などが腐る原因だったりするんだ。で、菌ってのは人間の細胞ひとつひとつを食べて増殖して、体内で増殖して菌を吐き出すんだ」

(そんなドヤ顔されてもなぁ……)「ごめん、それは知ってる」

「なに?」

 迷って、言葉を選んだように考えながらシャノンは答える。

「えっと、菌という概念に関する知識は既に知ってる。そういう知識はこっちでも向こうでもあるわ。珍しいものじゃない」

「そうか、それもそうだな」

「ごめんなさい」

「いや、いいよ」

 だが、ずいぶん迷って選んでくれたこの内容でも話してしまっているのだから僕は始末書なのだが、わざわざ努力してくれたんだから皮肉を言って冷水をかけると、こういう努力をしてもらえなくなるかもしれないから黙っておこう。

「楽しそうに話していたから」

「お恥ずかしい限りというものだな。だか、そうか、向こうにもこっちにも身近なものを研究する人はいるのか、なら……、あれ? 意外と、基礎研究は近い? いやだが、技術レベルの差が覆えらないのは、人口? いや、述べ人口か? だとしたら……、この内容も報告書に上げておくか……?」

「フリッツ?」

 急いで平手を向けて静止を促す。

「答えなくていい! まぁ、その説明はいいか、どの道始末書は書くよ。菌は生きているから人間の身体をボロボロにするって言っても、菌の身体そのものが毒なんだったらそういう魔術も使わないほうが……、魔術……遺伝子が……」

 始末書や今、実験しているものとは別に、微小な菌サイズの魔道生物の製造するためのッ製造装置のまたその製造装置を作る理論を考えて、同じ式のループになったあたりでなにか間違っているような気がしていると、玄関から戻ってきたクーングンデさんに声をかけられる。

「ただいまもどりました!」

「おかえりなさい、今、始末書とは別に、少しアイデアがね。これをメモして……足りなくなりそうだから、追加のメモ用紙をもってきてくれる? お姉ちゃんさん」

 小さい魔道生物を作るための装置を作るための装置では比重やサイズが全く別物だから、このメモに残した式では絶対に無理だ。机上の空論とはまさにこのこと、しかし、理論ではなく理屈としてその可能性の考察はいずれ、だが、仮にこれを作ったとして……。

「現行の技術ではどうあがいても不可能だが、もしもマイクロサイズの魔道生物を作れるなら作るだけなら、人為的に菌を作る魔術とかも作れそうだなって思ったが、維持と制御に問題が残る……、その問題を解決する手段に人間の身体から魔力を奪って弱らせて自己増殖する……少し、空想がすぎるが、いずれできるだろう。その時のためのアイデアでも……長寿の魔道師にでも託してみるのも面白いな……いや、なんでもない。気にしなくていい思いつきだよ」

「それって、ナノマシンじゃないの?」

 ユーリがこぼしたその言葉で思考は加速する。

「ナノ『マシン』? あ、そうか! マシンを金属の仕掛けではなく魔道生物のように魔術で再現した擬似的な生命体と同じようなものと定義した場合……そうだな、なら、鉄分を血中で関節を維持して機能の魔力を血の……なら、遺伝子情報の代替で魔術――」

「フリッツ?」

 あ、一瞬、危険すぎる思いつきが出てきそうになったので、その思考止める。

「ダメだな、これは禁忌だ。先人のバカがなぜ大陸一つ水銀に包む厄災を引き起こしたのか、今この瞬間考えたことで理解できてしまう」

「コロン様?」

 新品のメモ用紙の束を置いて僕の首の汗を拭かれて、今自分が玉のように多いきい脂汗をかいていたことに気づいて現実に引き戻される。

「そのあだ名で呼ばないでくれ……だが、この思考はとても重要なファクターになる。最重要かつ機密の内容として報告書にまとめるよ……。いや、……うん、なにが危険なのか少し、世界を狂わせたバカの気持ちがわかってしまう……ダメだ。これ」

 もつれそうになって、重くなったような脚と背中を起こして二回の鍵のかかる執務室に式まみれのメモを小脇にかかえて、ぐったりと疲れを感じるほどの恐怖を覚えながら向かう。

「ちょっと仕事ができたから部屋にこもるけど、今のナノマシンの説明を決して誰にもしないように、アイデアだけじゃない、その名前も、なにもかも……、言っておくが、決してだぞッ!! それと、クーングンデさん! それの後片付けを頼みます。卵白を捨てて洗ってくれればいいから」

 アイデアは肝心な部分を骨抜きにしても、簡単な説明だけで危険性は理解できるように……具体的に自分が触れそうになって恐怖を覚えた禁忌のないようを、式を添えて……。


 ◆ ◆



 食材なら遺伝子情報が破壊されてもいいんじゃないか? そういう発想で放射線を使う術は、別の研究棟の科学者に相談してみたら、光属性の魔術の専門家ならごく一般的な発想であるということが判明して、完成を目指した式も既出でもっと性能の都合をつけたものも実在すると聞いて、自分の浅学を恥じるばかりだ。

 除菌したあとに、水の魔術は僕がやればいいだろう。

「それで、学者先生から教わってきたけど。この式はなぁ、ダメだ……クーングンデさん、この紙に書いた魔術構成式の通りに魔術つかえる?」

「拝見させていただきます。ふんふん、今回もですね。光属性の術はやっぱり珍しいですね。できないことはないけど、これをどうするんです? これって放出するみたいですけど」

「これを卵に、反動で自分も傷つく可能性もあるから練気もわすれないで」

「はい」

「これは」

「毒性の強い光線で菌と卵の遺伝子を破壊して殺菌する魔術だ。少し、威力が高いね。構成式を簡単なものを選んでしまったせいかもしれない。威力を下げるために式を変えるべきか」

「え、……これって、大丈夫なの!?」

 ユーリがそれを見て困惑する。

「なにが」

「人体に悪影響とか」

「無いとは言わないけど、最低限の練気ができるなら大丈夫でしょう。それに太陽光よりは危険という程度でも、魔術なら威力を上げたらいくらでも暴発の可能性は出てくるものだよ」

「いや……その、本当に大丈夫なの? あんまり使わない方がいいんじゃないかしら? 放射能とか、そういうのって、どうなるかわかんないし」

「放射能? あぁ、またそれか、これは放射線しか出ていないぞ。それに人間に有効打を与えるならそういう戦闘向けの光の魔術があるから、そんなに気にしなくていいよ」

「そう、ならいいけど」

「戦闘向けってどんな魔術なんです?」

 クーングンデさんがちょっと興味を示してくれる。仕事場によっては治安の悪いこともあるからなのか、本人の趣味なのか、シシィ師匠の孤児院で教育を受けた彼女も魔術でそれなりに戦えるらしい。

「ほぼ防御できない貫通してくる攻撃、仮に防御しても光の毒性で傷を残すクソみたいな技だよ」

「コロン様はやはり、そんな恐ろしい技の持ち主とも対峙したことが……!」

「いや……、味方だよ。今も親友だとも思ってた」

 だが、

「向こうはどう思ってるか、全くわからないんだけどね」

「そうなんですか?」

「あぁ、とにかくあいつは気安い男だよ。いつか見ることもあるだろう」


 ◆


「一応説明はするぞ? あれから色々試してその2つを魔術に組み合わせて処理すれば、微生物の遺伝子情報を破壊して殺し、菌が循環する中で排出する毒素を減らし、毒素は死んだ菌では増えないし、仮に菌が増えても遺伝子が破壊された状態では増えることはできないということでいいんだ。ここまでは、義務として説明したに過ぎない。本題はここからだ。……つまり、これで食べられるんじゃないかな? と考えられる。人体実験したいならどうぞ食べてみてね」

「ありがとう! フリッツー! 大好き、いただきまーす」

 生の玉子が入った皿をフォークでかき混ぜるユーリを見て、つい、言ってしまう。

「……本当に食べるのか?」

「うん!」

 なぜかき混ぜる!

「うぇ……」

「本当に食べ、飲むのか、まさかそれを!?」

「いや、流石にそのまま飲むのはいやだけど、塩をかけて、パンに……」

「パンに」

 ぬるようにかけて、口に運んで

「本当にそのまま食べた!」

「うぅぇ」

 いや、なんで、同じ異世界出身のシャノンが一番気持ち悪がってるんだよ!


「だが、なんていうか、見栄えはともかく、手間がかかりすぎるな。まるで貴族の料理だ」

「うーん、そうね」

「また食べたいなら声をかけて、善処するから、だけど、もうみんなの前で絶対勝手には食べないでね?」

「えぇ、わかったわ」

「頼む」

 眉間にシワがよって信じられないというような顔になっているシャノンと意外にも顔色一つ変えなかったクーングンデお姉ちゃんさんに目をやって、自分の顔はどうなっているのか少し不安になる。

 流石に好きな女の子にしかめっ面は向けたくないからね。そういう顔に無意識でなっていないか不安でしょうがない。


 …………。僕もパンをひときれ掴んで玉子の一部をかける

「おえええぇ、うぅぅん、うん。ん!」

 だめだ。はきそう。でも、そしゃくして、飲み込む。

「ジークフリード様ッ!?」

「フリッツ!?」

「えぇ……なんで食べるの」

「ごめん、いや吐き出さない。飲みこんだけど……、いけるのかとおもったけど、無理だった。ちょっと吐き出すものはなにかあるかな」

「はい、こちらにあります」

「ごめんね、おねえちゃんさん、……! 用意してたの?」

「いえいえ、こんなもの大したことではありませんよ」

「そんなにダメなの……ね。うん、そこまでとは思わなかっから、これからはやめることにするわ」

「いや、そんなことは……いいんだよ?」

「でも……えぇ、そうね」

 ユーリはそれから二度と生卵を食べようとしなかった。


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