顔面偏差値99.9の妹とのラブコメ

御愛

第1話 彼女の説明・オブ・偏差値30


 箆木蜷局子へらぎとぐろこは、闇の魔法使いである。

 

 説明するまでもないが闇の魔法使いとは、ストーリーの構成都合上において物凄く便利な能力を発揮する魔法使いのことである。


 彼女がそんな闇の魔法使いになったきっかけは、とある闇バイトでの事件まで遡る。


「ちょりーっす。真面目に労働とかクソだるいんで、なんか楽して稼げる仕事ないっすか?」


 彼女はその日、黒マスクにグラサンをかけ、高級そうなスーツに身を包む男とカフェで対面していた。


 周囲には誰もおらず、この場所にはこの二人しか人間はいない。スタッフすらも顔を見せない。


「あー、あるある、めっちゃあるよ。このバイトとかどう?アメ横で一日立ってるだけで、なんと10万円」


「ずっと立ってるの怠いんでパスっす」


 蜷局子はすげなく断った。彼女は根気がなく、怠いのはダメであった。


「あー、じゃあこの素敵なホテルで一泊するだけで15万ってやつは」


「ウチ兄貴の腕枕じゃないと寝られないんすよね」


 またもや蜷局子は断った。兄の腕枕でないと眠れないことは、彼女の十五年間の人生の中でよく理解していた事だった。


「……それじゃあこの38人殺してる呪いの水晶玉を飲んで胃カメラを撮るってバイトはどう?あはは、流石にダメか!」


「簡単に出来そうなんでそれやるっす」


「……マジで?」


 蜷局子はすんなり了承した。38人を呪い殺しているだか何かしらないが、ピンとこなかったのでやってみることにしたのだ。何より水晶玉を飲むだけなら簡単である。


 こうしてドン引きする真っ黒い男の視線もなんのその、呪いの水晶玉を飲んだ蜷局子であった。



 そしてその時彼女の脳内に、突然声が響いた。


『我は38人を呪い殺した呪いの水晶玉である。女よ。汝は処女であるか?しかしこのような怪しげなバイトに応募している時点でお察しなわけであるが……一応聞いておこう』


 呪いの水晶玉の声であった。


 そして38人を呪い殺した水晶玉は処女厨だったのだ。


 しかし、運悪く闇バイトのマネージャーの手に渡ってしまい、不純な輩共の喉元を通って盥回しにされた挙句、未だに一人としてその中に処女が居なかったことで半ば絶望していた。


「あ、処女っす。めっちゃ処女」


『うおっしゃキタァァァァァ!!!!処女!処女!!うぉぉぉぉショジョーーー!!!』


「キモすぎるっす」


『すぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁ、ショジョー……ショジョー……』


 38人を呪い殺した水晶玉はキモかった。


 蜷局子は少し気分が悪くなってきたが、お金のためなので少し我慢することにした。


 とんとん拍子に話が進み、水晶玉を飲み込んだ彼女を見て、グラサンの男は話しかける。


「……君、大丈夫?一応その水晶玉、38人呪い殺してて、これまでの子は皆んな飲んだ瞬間、発狂したあと髪の毛全部抜けて死んだんだけど」


「あ、全然大丈夫みたいっす」


「マジで?……良かったぁ〜、それ早く処分しないと上から怒られちゃうところだったんだよね。飲んで死んじゃった子を放置して帰ってもいつのまにか戻って来ちゃうし……いや、俺も運がいい」


「これで幾ら貰えるっすか?」


「……う〜ん、本気で生きて達成出来ると思ってなかったから待ち合わせがなぁ……今サイフに入ってる5万でいい?」


「あ、それでいいっす。どうもあざっす」


 こうして会話を終えたグラサン男は、机の上にポンと諭吉を5枚投げ出した後、いそいそと帰りの支度を始めた。


「それじゃあね!!今後のことは、僕は一切感知しないからそのつもりで!あと、胃カメラを撮ったらこの電話番号のところに送ってね!絶対だよ!!」


 グラサン男はそう言った後、風のように去っていった。


「うほー、マジでお金もらえたっす。世の中楽勝っすね〜」


 蜷局子は机の上に並べられた紙幣を手に取り吸引する。金の匂いがするっす……と至福の声を漏らしながら、暫くそうしていた。


 すると、こちらも奇妙な呼吸をしていた38人を呪い殺した水晶玉が声を上げた。


『すー……はー……して、汝よ。何か望みはあるか?』


「望み?なんすか突然」


『我は宿り主の願いを叶える38人を呪い殺した水晶玉である。なんでも一つ、願い事を叶えてやろう』


 呪いの水晶玉は、宿り主の願いを叶える38人を呪い殺した処女厨の水晶玉であった。


 願いを叶えると聞いて、蜷局子の欲望が溢れ出す。


「なら、ウチの兄貴にウチ以外の女に欲情したらもげる呪いをかけて欲しいっす。それとウチのクラスのリア充を全員亡き者にして欲しいっす。あと最近ウチにちょっかいかけてくる男子全員の下着が永遠に臭くなる呪いをかけて欲しいっす。それから————」


『まぁ、待つが良い主人よ。何やら願いが多く決めきれない様子。であるなら、我が主には"闇の魔法使い"としての力を授けよう』


「おー、なんかカッコいい響きっすね」


『どうやら主人には鬱憤が溜まっている様子。闇の魔法使いとなれば、その不満も晴らすことが出来よう』


「じゃあ、さっそくその力を望むっす」


『拝命した。それでは主に力を授けよう。チュエェェェラァァァァっ!!!!!』




 ———こうして、蜷局子は闇の魔法使いとなったのである。


「やっぱりもげたらウチが困るんで、ウチの兄貴にはウチ以外の人類の顔がものっそブサイクに見える呪いをかけるっす。それとウチの顔がものっそ美人に見える呪いもかけるっす」


『それが良いだろう』


 ついでに、自分の兄に呪いをかけるのだった。


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