騎士崩れ〝ラントシュタイヒャ―〟流浪の旅

小清水 不知音

プロローグ

 ある冒険者は、冒険者や自らが所属するギルドを否定的に語った。「我ら冒険者や冒険者ギルドと言う物は、時代錯誤な英雄気取りの集いであり、まつろわぬ自由人の末路である」と。


 魔王が討伐されてはや数十年。蔓延る魔物は指揮系統を失った事で害獣程度の存在に成り下がり、太平の世となった今、冒険者というのは厄介者の一種と見なされかねない。彼らは街中で武器を公然と帯びて歩き回り、封印されているダンジョンに勝手に侵入したり、各地の貴族や豪族のような武装勢力とも揉め事を起こしたりする。


 彼らの多くは市民階級で、肉体で稼ぐことしか知らない無教養者ばかりだ。問題が起きるのは当然だ。それが、国王の認可を得た冒険者ギルドという後ろ盾と、武器という一目瞭然な力を手にしているのだから。


 冒険者が衛兵や軍人に騎士、傭兵と決定的に異なるのは、国家や王侯貴族、都市や部隊への帰属意識の欠如、戦による栄誉を求めていないこと、そしてなんの契約にも縛られないことにある。


 彼らの求める栄誉は、彼らを社会不適合者足らしめる理由そのものだ。彼らの多くは一昔前の竜退治のような、寝物語や英雄譚のような栄光を求めている。


 しかし、そうではない者もいる。やむを得ない事情で仕事や地位を失った者たちだ。そういう者たちは、金の為に働く。金の為に何でもする。冒険者はそういう人々の最後の受け皿なのだ。


 このギルドにもそういう奴はいる。本名は受付嬢やらギルドの代表以外知ったこともないし、聞いたこともないが、皆はそいつを〝殴殺〟だとか、この地方の言葉で浮浪者を意味する〝ラントシュタイヒャー〟と呼んでいた。どこぞの家中の紋章をつけたケープとぴかぴかに磨かれた甲冑を身に着け、ロングソードとウォーハンマーを腰に下げたその男は今日も市中を、山地を、川を、王国の四方を金を貰って人を殺しながら練り歩いている。

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