第28話 いつの間にか


「で、誰がお兄ちゃんの彼女なの?」


「だーかーらー、彼女なんていないって言ってるだろ!五月蝿いんだよ。沙織は受験生なんだから勉強してろ。」


「はーい。大人しくベンキョーしてきますよーだ。」


皆んなを家にあげたはいいものの、妹の沙織がしつこく迫ってきて話すこともままならない。


まったく、人の人間関係に口出す前に、自分の勉強をして欲しいものだ。



「沙織ちゃん?だっけ。かわいい妹だね。仲はいいの?」


沙織が勉強をしに自分の部屋へ上がった後、優里さんが話かけてきた。


「まあ、仲は悪くは無いですかね。普段から今みたいな感じで会話してるんで。」


お茶を淹れて、お菓子を出して、話の場を整える。

優香さんがバリバリ音を立てて煎餅を食べるのを見ながら、話を切り出した。


「で、今日は何で集まったんですか?」


「んー?別にー、今日みたいに遊びたいなーって思ってたんだけど、稲荷、なんか目的あったの?」


「特にない。強いて言うなら裕司君と仲良くなりたかった。」


「そ、そうなんですね。」


意外と、フワッとした目的だったらしい。


「それなら、ゲームでもしません?ちょうど4人ですし、任空堂の最新ハードを運良く抽選に当たったので、タロウカートしましょうよ」


「裕司君、あのスケッチ2当たったの⁈羨ましいなー。よし!皆んなでやろう!」


「タロカなら、新作は触ってないけど得意」


「でも、コントローラー四つもあるの?」


「あ、」


由香さんの指摘で、コントローラーが三つしかなかったことを思い出した。元々のハードにはコントローラーが二つ付いており、有線コントローラーは一つしか買っていないので、誰か1人があぶれることになる。


家族全員でゲームをすることはなかなかないので、失念していた。


「三つしかないのなら、誰かあぶれるしかないねー。それなら、優里、あんた私に譲りなさい。」


「なんでよー。」


「さっきのこと、まだ恨んでるんだからね。ここで大人しく譲ってくれたら、忘れるかもなー。」


由香さんが優里さんを脅迫している。

流石にここに入る勇気はないので黙々と準備していると、ついに優里さんが折れた。


「分かったわ。譲るわよ。それなら、最下位の人は交代していくルールにしましょ。それなら公平よね。」


「私も、それなら大丈夫。負けないから。」


「強気ね、稲荷。でも、私が勝っちゃうんだから。」


「賛成よ。それにしましょう。裕司君も大丈夫よね?」


「はい。」


交代するためのルールが決まった。準備はとっくに完了していたので、早速始めよう。





◆◇◆◇◆◇


結果は、俺の圧勝だった。


無理はない。そもそも、俺は熱中するほどタロカが好きだったので得意だし、プレイ済みだったので知識のアドバンテージもあった。


稲荷さんもそれなりに強かったが、仕様が変わっていたり、慣れないコースだったため、難しそうだった。時間が経って慣れてくると、かなりの強敵だったが何とか勝つことができた。

残りの2人は、そもそもゲームをあまりしたことがないらしく、2人で仲良く最下位を争っていたので、あまり楽しそうではなかった。


「あら、もうこんな時間なのね。そろそろ帰ろうかしら。」


優里さんの声を聞いて時計を見ると、いつの間にか7時前になっていて、日が暮れかけていた。


「そうね。ちょっと遊び足りなかったけど、そろそろ帰るべきかしら。」


しかしこの7時前という中途半端な時間、どうしたものか、と考えていると、沙織が勉強を中断したのかリビングに出てきた。


「あれ、お客さん達、帰るんですか?私たち、今からご飯にするので、ご一緒しませんか?」


「いいの?それなら喜んで。」


「すまないが、私はもう帰らなくては。失礼するが、ご遠慮させてもらう。」


「私は、優里が変なことしないか、不安だから一緒にいただくわね?」


三者三様の答えが返ってきた。帰らないといけないのは寂しいが、仕方ないのだろう。稲荷さんを見送って、俺は夕飯を準備し始めた。






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