嫌っているリア充系クラス委員長が陰キャラぼっちの俺に罰ゲームとして毎日キスを興じていたら、とうとう距離感バグり彼女ヅラしてきたから超可愛い

神達万丞(かんだちばんしょう)

第1話 「それはまるで陰キャラ系ラノベラブコメ主人公VS陽キャラ系少女漫画主人公の如く」

高校生活二年目の春。


 俺の名は井伊直助。元陸上部、今はただ学業を淡々と事務処理しているオタ系陰キャラだ。

 

 半年前、一年生ながらレギュラーで活躍していたあの頃に比べたら俺は無気力化する。そう、アウトドア派からインドア派にクラスチェンジ。


 理由は選手生命を終わらせるに十分な致命的な怪我。何よりも周囲の期待にキレて心が折れていた。監督にマネージャーで残らないかと声をかけられたが惨めなので断る。


 それからの俺は練習に明け暮れたあの頃とかけ離れた日常生活を過ごしていた。グレないよりはいいだろ? 誰にも迷惑かけてないしさ。

 ただ張り合いのない毎日、無駄に過ぎていく月日が辛かった。

 若干スレていたので、気が合わないクラスメイト間で揉め事を起こすこともあった。


 ——そして進級したニ年目の春、その何もかも合わない女とまた同じクラスになる。


 四月一五日


 新しいクラスに漸く慣れた頃——


「ちょっと待ってよ伊井、今日は日直でしょう!? なんで日誌何も書いてないのよ!」

「……委員長か。素で忘れていた。すまん。今やるよ」


 それは帰り支度を適当に済ます俺の前へ仏頂面で立ち塞がる。

 島津成明(シマヅナリアキラ)。カースト最上位陽キャラグループの一人兼クラス委員長。そして天敵。限りなくルーズな俺に対し全て卒なくこなす真面目の権化だ。

 中等部から合わせて四回連続同じクラス。腐れ縁だ。でも向こうはどうか知らないが、今まで俺は陸上以外興味なかったから口うるさいクラス委員長の認識以外はない。

 

「はぁ……全くしっかりしてよね」

「申し訳ない」


 適当に返す。この手の輩は言い返したら十倍返しがデフォーなので逆らわないのが攻略法。ポジティブ元気キャラで人徳半端ないから下手すると女子による援軍まで呼ばれて死んでしまう。

 小学生の頃にやらかした轍は二度と踏むまい。


 五月十四日


 昼休み、誰もいない屋上で昨日購入した半額パンをかじる寂しいぼっち飯。独り暮らしなので母親や、ましてや彼女いない歴イコール年齢の俺にお弁当を作ってくれることはない。

 そんな時、なんの前触れもなく扉が大きな音を立てて開くと、「こんなところにいた。探したわよ井伊!」つんつん委員長が腕を目立たない胸の前に組み仁王立ち。


「どうしたんだよ委員長?」

「井伊あんたいい加減にしてよね!」


 指を突き立て決めポーズする委員長。学年で一、ニを争う人気の美少女なので様になっている。文武両道で成績は常に十位以内、スポーツも万能。ファッションセンスもあり、それで誰にでも優しくお高く止まってないのが校内のカリスマと呼ばれる理由。

 何だけど………、どういうわけか俺だけは目の敵にする。


「なにが?」

「昨日掃除当番またサボったでしょう⁉ 女子達からクレームがきているのよ」

「すまん、忘れていた」

「部活辞めてから気が緩み過ぎだよ。学校は集団生活なんだからね。一人で競技に挑むアスリートとは違うのよ」

「……気をつける」


 うるさいな。だが我慢だ。

 島津はクラスのリーダーだから言うまでもなく干渉してくる。そんなに学校で良い子ちゃんになりたいのかね?

 俺が直せば済むことなんだが、かったるさが先行してこうして毎回衝突するのがお約束。


「待ちなさいよ。まだ話は終わってない」

「なんだよ」

「もう何回も何回も風紀と規則を破って、流石に堪忍袋の緒が切れたわ。井伊直助! 私と勝負しましょう」

「勝負?」


 爽やかな風で委員長の綺麗な長い髪が踊っていた。


「今度の中間テスト、成績順位が下がったら今後私の指示に絶対服従」 

「もし上ったら?」 

「これまでの行いじゃあ100%ありえないけど、食事ぐらいは奢るわよ」

「それは幾ら何でも横暴だぞ。大体お前にそこまで指図される覚えはない」

「うるさい。部活で貴重な青春を無駄使いして学業をおろそかにした報いよ」

「あ〝? 全く割に合わないぜ。そうだ、キスをしてくれるのならやってもいいぞ」


 陸上の事で馬鹿にされたせいなのか、ちょっとムッとした俺は、やりたくないから委員長へ無理難題を吹っ掛ける。


「キキキキ、キス⁉」

「そうだ。それ以外受け付けない。だからこの話はな——」

「いいい、良いわよ。受けてたとうじゃないの!」

「いいのかよ?」

「はん、元脳筋に這い上がる力なんてあるわけないじゃない。どうせ泣き付くのが関の山」

「どうなってもしらねえぞ」


 俺と委員長の意地がぶつかり、賭けが成立してしまった。勝負である以上全力で叩き潰すぞ。


 五月十九日


 久しぶりに大好物のハンバーグ半額弁当を買えてルンルンしていると、職員室前の中間テスト順位表を前に硬直している委員長。


「お、大分躍進したなぁ。我ながら頑張った」

「ええ? 嘘でしょ……」

「委員長悪いね」


 勝ち誇る俺。

 成績順位が結構上がった。自慢じゃないが、俺は勉強をやらないだけで嫌いじゃない。

 委員長とサシで成績勝負したら逆立ちしても勝てないが、そこら辺の底辺相手なら本気を出せばそれなりの成果は出るのさ。


「くっ! どんなトリック使ったのよ⁉」

「委員長、キスは無しにしてやる。その代わり、これで懲りたら俺に話しかけるな」

「ふざけないでよね。約束は守るわ」

「え?」

「私は一度交わした取り決めを反故にしない。ただし次の期末試験までよ。そこで成績順位が落ちたら今度こそ私に服従してもらう」

「まじか……」

「明日から始める」

「いいや……今日、この場で初めてを貰おうか」


 これでどうだ。やめるのなら今のうちだぞ。


「このケダモノ! こんなとこで接吻させる気⁉」 

「なんとでもいえ。契約は成立しているんだ。なら早いほうがいいだろ? それとも学級委員長様はいたいけな少年がキスしてもらうことを拠り所として戦い抜いたのにお預け食らわすのか?」

「わかったわよ! キスするわよ……ゴニョゴニョ」

「ちなみに体ならどこでもいいぞ。ファーストキスこんなところで散らしたくないからな」

「なーー! 大馬鹿! それを先に言いなさいよ!」


 こんなくだらない余興は即座に撤回するよう心を折りにいくも、プライドが高い委員長は震えながら俺の小指へそそくさとしてダッシュで立ち去った。

 初めて味わう柔らかい唇の感触。このバカっタレ。というか廊下なので見つからないか背徳感まである。


 かくして意地の張り合いから生まれた罰ゲームが始まった。

 それはまるで陰キャラ系ラノベラブコメ主人公VS陽キャラ系少女漫画主人公の如く相容れない話。

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