幸せな日に涙の味
天音 花香
幸せな日に涙の味
今日は世界が祝福するある方の誕生日の前日。
街は夜も明るくて賑やか。
行き交う恋人たち、親子、皆んな幸せそうだ。
「ほんっと、なんで今日なの?」
私は鼻をずぴっと鳴らす。
一時間以上寒空の下で待っていた私の鼻の頭は赤くなっていて、手袋をしていなかった手は冷たくなっていた。
右手にはショートケーキが二つ入った袋。中はもうグチャグチャかもしれない。
涙が出そうになるのを堪えて、黙々と楽しげな街を歩く。
「ごめん、今日、残業で遅くなりそうなんだ。明日、会おう?」
申し訳なさそうな電話の声に私は、
「分かった。あんまり頑張りすぎないでね?」
と答えた。
でも、こんな幸せな日に一人残業なんて可哀想だと思って、ケーキを買って彼の会社の下で待っていた。
驚かそうと思ったのだ。
彼のことを待っている時間は苦ではなかった。彼の喜ぶ顔を想像すると楽しくさえあった。
それなのに。
彼は予想以上に早く出てきた。
彼の隣には私と同じ歳ぐらいの女性。彼の腕に手を絡ませて、幸せそうに笑っていた。
今まで気付かなかった自分に腹が立つ。
「ふぇ」
思い出して涙がこぼれた。
神様、なぜよりによって今日なんですか?
家に着いて、しばらくは電気もつけずに泣いた。
スマホを見る。彼からは勿論なんの連絡もない。
時刻は24時を回ろうとしていた。
私はようやく電気をつけて、顔を洗う。
そうよ、これはある意味良かったんだわ。
今日分からなかったら、ずっと二股されてたんだ。これは神様からのプレゼントよ。
そうは思ってもやっぱり悲しいことは悲しい。でも。
日付が変わった。
「メリークリスマス!!」
私は一人、ケーキに蝋燭を灯して、崩れたケーキを口に押し込んだ。
今日はイエス・キリストが生まれた日。誰もが知ってるクリスマス。
「誕生日を祝うから、私にいい人下さいね!」
私はそう言ってもう一度ケーキを口にした。
幸せな日に涙の味 天音 花香 @hanaka-amane
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