第36話 心が晴れれば世界も輝く?
4月、私は1年遅れて復学、改めて高校1年生をやり直していた。一緒に入学した同級生は上級生となってしまったわけだ。
けど、元は友人関係すらまともに築けていなかったというか、ほぼ空気みたいに過ごしてたので、元・同級生からどう見られようが気にならなかった。
そもそも、「見られている」と思うのが自意識過剰で、私のことを気にかけている生徒なんてきっといないんだ。それはずっと以前に入っていたクラスのグループチャットが物語っていた。
ただ、今はそれをネガティブな感情じゃなくて、「気にしなくていい」と不思議と前向きに受け止められるようになっていた。
「人は変われる」と言いたいところだけど、本質的に変わっていない後ろ向きで陰鬱な私は今も健在だ。
それでも、学校へ行けるようになったのはきっと手に届く目標ができたから。それと――、ホントは周囲に甘えていただけで、その気になれば学校へ行けたんだ。ただ、そこへ踏み込む動機を見失っていただけ。
今はその「導」ができたんだ。
◇◇◇
「イラジャイマセ、コンバンワー」
普通の学校生活を取り戻した私は、深夜に出歩かなくなった。時々、文房具が切れたりするといつものコンビニへ行くのだけど、かなり高確率でムハンマドくんと遭遇する。
私の中で彼はもはや、街のエンカウントモンスターと化していた。
「Oh、オ姉サン。最近メッキリオ夕方ノ人ニナッチャッタネ? 日光浴ビルト、幸福物質ドバドバ! 美容ニモイイッテ店長言ウテタヨ」
「前から思ってたけど――、『店長言ウテタヨ』ってホントに店長さん言ってたこと? まぁ、なんでもいいんだけど……」
深夜以外の時間帯だと、例のちょっとアレな店長さんとも時々遭遇した。他にも何人かの店員さんと会ったけど、店長さんとムハンマドくんの個性はぶっちぎりだ。
「オ姉サン! 今度、『ミラクル探偵プリティー☆ミステリー』ノ一番クジ発売スルヨ! 全部買ッテク? ラスト1賞モラエルヨ?」
「そんなお金ないし……。はい、さっさとレジ通して! ルーズリーフ買いに来ただけなんだから」
ムハンマドくんとの会話を適当に切り上げて私はコンビニを後にした。ここから家への帰り道、真っ暗で街の眠っている時間のこの道が今では少し懐かしく感じる。
今日は日曜日、明るい時間の四車線道路は車がひっきりなしに行き交っていた。色のない空気でもなぜか淀んいるように感じ、無意識に歩道側に顔を向けて息をしていた。あの深夜と変わっていないのは働き者の信号機だけだ。
いやいや、違う違う。決定的に変わっているものがある。
同じものを見つめている――、私自身が一番変わったんだ。
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