第35話 同じ公園と異なる時間で
「深夜に出歩くのはようないけん、ちょっと話したら帰ろ?」
ミズキさんはそう言って、いつかと同じように自動販売機でミルクコーヒーとココアを買って来てくれた。
私は前回と同じでココアをもらって両手に包み、少しの間缶の温かさを感じていた。
「うちね、コウちゃんがお店に来るの楽しみにしとっとよ。遅い時間やけん、心配もしとっちゃけんの」
私はミズキさんの言葉に対してしどろもどろになりながら、実は自分もミズキさん目当てでコンビニへ通っていたことを白状した。それを聞いた彼女はいつものようにニッと口角を上げて笑っていた。
そして、「そんならいいな――って思ってた」と呟いた。
「推し」が手の届くところにいて、こちらに興味を持ってくれているんだ。これはもう好きになるしかないじゃないのか?
それから、夜中だからちょっとだけ――、のつもりが私はミズキさんと話し込んでしまった。先日のファミレスでダメな私を洗いざらい話してしまったんだ。それでいて受け止めてくれているミズキさんが相手なら、もう怖いものなしだ。
「コウちゃんって、『沢尻 決男』好いうとうと?」
「いいえ、あの日はたまたま頭に過っただけで、実は名前すら知りませんでした」
いつも言葉の最初に詰まる私がだが、なぜか「サワジリケツオ」ファンの否定だけはすらすらと口に出た。すまない、サワジリケツオ。応援はするけど、ファンにはなれそうにない。
「そいか。どうでもいいかもやけど、彼、うちの同級生やけ。本名は『
どうでもいい――、どうでもいいのか? 「どうでもいい」というミズキさんの元・同級生に対するドライさがなんとなく笑えた。――と、同時になんか唐突にあの尻振り芸人が近い人物に思えてきた。 「サワジリ スグル」、ものすごく普通の名前をしてるじゃないか。
「実はね……。夜中によう来るけん、コウちゃんがなんか訳ありなのは思っとちゃん。けど、事情を知らんうちがあれこれ言うのはコウちゃんも好かんやろ?」
少し話し込んだ後、ミズキさんは妙に改まってそう言った。明らかにさっきまで話していた雰囲気と違っている。
ミズキさんは私が長らく休学していることについて触れるつもりはないのかと思った。けど――、予想に反してそうではなかった。
「けど、ごめん。ちょっとだけお節介言うね? 言わんばならんこつあるんよ? こないだのファミレスで話聞いて――、うちがちょっとでもコウちゃんの心の支えばなっちょう思うと話さんばいけんと思てね」
ちょっとどころかもはや大黒柱のレベルになっている。ミズキさんの柱を抜き取ったら私のメンタルは屋根から崩れ落ちること間違いなしだ。
ただ、だからこそミズキさんのこの前置きは怖かった。またも内なる私が警鐘を鳴らし始める。
「コウちゃん、うちね――」
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