第11話 翡翠の如く輝いて
「はい、これ! どっち飲むと?」
深夜2時過ぎ、コンビニから2、3分ほど歩いたところに小さな公園がある。私はそこのベンチに腰かけていた。少し遅れて「かわせさん」が飲み物を2つ買って来てこちらに差し出してきた。ホットのミルクコーヒーとココアだ。
私はまるでババ抜きでもするように缶の手前で手を止めて、彼女の顔を見た。そこには初めて見る、マスクを外した「かわせさん」の顔があった。
コンビニの制服以外の姿も初めて見る。ベージ色の薄手でタイトなコートを着ていた。いつも後ろで結っている髪も今は降ろしていた。
彼女はニッと口角を上げて笑うとココアをこちらの手の上に乗せた。ひょっとしたらチョコレートのお菓子をよく買っているのを覚えていたのかもしれない。
「かわせさん」はプルトップの缶を勢いよく開けると、まるでおじさんが缶ビールを飲むみたいに勢いよく口にした。そして――、「あちあち」といって咽はじめた。
私は自分にしか聞こえないくらいの声量で「いただきます」と言って、ココアを飲んだ。夜風で冷えた身体に内側から暖かさが染み渡っていく。
「この前はありがとうね! 見かけたらお礼ば言わんといかんって思っとったっちゃん」
彼女の話し方はビックリするくらいに訛っていた。たしかにこれまではコンビニ店員の定型文みたいなのしか聞いたことなかったけど……。
「ごめんね? うちは福岡の田舎の方の生まれやけん、この話し方が気楽っちゃ」
私の顔に疑問が浮かんでいたのか、彼女の方から説明をしてくれた。そして――。
「改めまして――、うちは『
「あっ――、はい……。その、『姫森 煌』……、です」
「そう――、『コウちゃん』ね。よろしく、コウちゃん?」
「あっ――はい……、『かわせさん』」
「『ミズキ』でええよ? いんや、ミズキの方がええかな?」
「あっ、えと――、『ミズキ』さん」
私の返事を聞いて、ミズキさんはニッと笑って大きく頷いていた。
一方で私は、家族以外から名前を呼ばれるなんていつ以来だろう? とぼんやり考えていた。それも憧れの人から呼ばれるなんて……。
身体が内側から暖かく――、熱くなってくるのはどうやら飲み物のおかげだけじゃないらしい。
「コウちゃん、学生やろ? そげなら、 あんまり引き止めたらいかんね……」
彼女はそう言うと、缶のコーヒーをぐいっと一気に飲んで「えいっ!」と声を上げ、ゴミ入れに投げ入れようとした。
だけど、それは見事にあらぬ方向へと飛んでいき、彼女は頬を膨らませながら小走りで缶を拾っている。
お店で見ていた時の印象は、あんまり愛想は良くなくってクールなイメージだったけど――、今見ていると、なんだかとても可愛らしい人に思えてきた。
缶をきちんと捨てて、こちらに駆け寄って来たミズキさんは、スマホの画面をこちらへ向けてきた。そこにはQRコードが表示されている。
「――『SHINE』! 交換しようや?」
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