第44話 変わらぬ眼差し

 次に姿を見せたのは、幼馴染のレイナー・ブラント。彼は今、共和国の外務担当として周辺諸国との交渉に奔走している。

 ある夕方、彼は政庁の廊下でパルメリアを待っていた。窓から差し込むオレンジ色の陽光が、二人のシルエットを柔らかく照らし出す。そこに軽やかな足音が近づいてきた。


「外務の仕事はどう? やっぱり大変かしら?」


 パルメリアがそう問いかけると、レイナーは穏やかに笑いながらうなずく。


「もちろん楽じゃないよ。でも、君が成し遂げた改革と革命の意義を正しく周辺諸国に伝えるのが、僕の役目だと思ってる。君が長い時間をかけて築いてきたものを、世界に広めたいんだ」


 小さな領地の下級貴族にすぎなかったはずのレイナー。それが今や共和国の要職に就き、こうして堂々と話す姿を目の当たりにして、パルメリアは胸の奥に不思議な感慨と誇りが込み上げるのを感じた。


(ほんの数年前までは、小さな領地を行き来して、他愛ない話をしていただけだったのに。今、私たちは国を担っている……なんだか夢みたい)


 レイナーは柔和な笑みを深めながら言う。


「あの頃から僕はずっと、君が誰よりも強くて優しい人だってことを信じていたよ」


 その眼差しには、昔から変わらぬまっすぐな想いと、今はさらに深まった愛情が宿っていた。彼はしっかりとパルメリアを見つめ、彼女はその視線を受け止めながら静かに微笑む。


「信じてくれてありがとう、レイナー。あなたがいたから、私はここまで来られたと思う。でも、もう少しだけ時間が必要なの。国をまとめるため、やるべきことが山積みで……」


 レイナーは一瞬、言葉を探すように視線を落としたが、やがて穏やかにうなずき、「わかってる」と小さくつぶやく。その仕草に、パルメリアはレイナーなりの愛の形を改めて感じた。彼は決して自分の想いを押し付けることなく、彼女が理想を追い続けられるよう常に支えてきたのだ。その真摯さが、彼女の心にじんわりと染みわたる。

 彼女は目を伏せ、感謝の念を噛みしめながらレイナーに微笑んだ。二人の輪郭を、茜色の残光が優しく染め上げている。いつしか廊下の喧噪は遠のき、そこには静かな夕暮れの余韻だけが漂っていた。

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