第二話 コラボ?

「は?」


 dmを何度も見返して、思考がまたもや停止する。

『コラボ』それは配信者同士で一緒に配信をしてゲームをしたり、雑談をしたりするというもの。ただでさえVtuberという括りの中で男女の壁というものは大きいもので、いわゆる『ガチ恋リスナー』が異性の配信者とのコラボを拒むような界隈なのに、なぜわざわざ自分を?底辺なのに?

 思考がゴチャゴチャと絡まった導線のように混濁するが、明太はなんとか指を動かしてスマホのキーボードをスワイプして文字を打つ。


『コラボですか、でも何故わざわざ自分を?自分で言うのもなんですが、俺は白星さんと比べてそんなにフォロワーが多いわけでもないですし』


 変に詮索しても仕方がないので率直かつ端的に、気になることを聞いてみた。いつの間にか謎の高揚感は消えて、どこか冷静な自分が帰ってきた。

 また大きく深呼吸して、返信を待つ。

 このやりとりの間にすでに数十分が経過していたが、先ほどまで明太を襲っていた眠気はとうに吹っ飛んでおり配信の疲れなど気にもとめていなかった。


 ピロン


 通知音が鳴り、暗くなっていたスマホの画面が明るく光る。

 すぐさまパスコードを入力してロックを解除すると、ぱっと見でもかなりの長文が来ていた。明太ベッドから起き上がると、再度配信するときに座っていたゲーミングチェアに腰掛けるとゆっくりと白星から送られてきた文章に目を通し始めた。


『色々と説明させていただきたいことはあるのですが、一つ一つ説明していると文字数がとんでもないことになりそうなので、ひとまとめにさせていただきますね。ではまず初めに、何故私がメメさんをコラボに誘ったかと言いますと、ずっと前から配信を拝見させていただいて、そのトーク力や例え少なくともコメントを大事に一つ一つ拾って真摯に向き合う姿が素敵だと思ったことと、私情ではあるのですがシンプルに私が一緒に喋ってみたいと思ったからです!そこにフォロワーの数とかは関係ないと思いますし、私もそんなの気にしてません!もし良いお返事をいただけるのであればとても嬉しいですが、現状は私が一方的にコラボを迫っているような状況ですのでメメさんの意見を尊重するつもりです!その点については連絡させていただく立場だと言うのに配慮が足りていなかったと反省しております。すいません』


「なんかすんごいちゃんとしてるな」


 長文に大方目を通した明太が最初に見せたリアクションは驚きと感心からくる感嘆だった。以前明太が彼女の配信を見にいかせてもらった時の彼女の印象は、『誰にでもタメ語で話しかけられるような天真爛漫な少女』と言う印象だった。

 しかし文面を見てみるとちゃんと敬語を使い分けて、相手がどれだけ下の人間であろうが尊敬や敬意を損なわず、よもやその上下関係すら当人は気にしないときた。

 そんな彼女の意外な一面を見た明太は、一切の迷いなくスマホに指を伸ばしテンポよく文字を打っていく。


「よし」


 そうして文を書き終えると、そう一言こぼしてまた布団に明太は潜り今度こそスマホの電源を落として眠りに落ちて行った。


 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


 翌日


「あぁぁぁぁぁ…やっぱ眠い..学校休みテェ…」


 やはりと言うべきか、二時前後に寝て六時に起床となると睡眠時間はわずか四時間程度。そんなわずかとも言える時間で部活、配信、学校生活の疲れが取れるわけもなく、変に前日の疲れと不眠の眠気が襲ってくる最悪の寝起きである。

 しかし


「んぁ…返信来てんじゃん…えーと…ははっ」


 まだ眠たい瞼を擦り、スマホの電源をつけると一件の通知が来ていた。時間は午前二時ちょうど。明太が寝るためにスマホの電源を落とした直後に来ていたメッセージ。

 相手は、大物Vtuber白星零天。明太が寝る直前に、彼女の提案の返事として送った文章にリプライで返信していた。


「んん〜!…んじゃ


 彼女から送られてきた返信の内容を見るや否や、ほんのりと笑みを浮かべて眠気のまだ抜けない身体を起こした明太はそう一人呟くと、軽い足取りで自室を去っていった。

 電源がつけられたままベッドに放置されたスマホには、昨晩、そして今朝のメメと白星のdmの内容がそのまま表示されていた。


『丁寧な長文に加えてお気遣いありがとうございます。ご期待に添えるかどうかはわかりませんが白星さんがよろしいのであれば是非、よろしくお願いしたいです。日時等は白星さんにお任せします。今日は少し疲れてしまったのでこの辺でお暇させていただきます。おやすみなさい🌙』


『本当ですか!ありがとうございます!日時は事務所の方と相談してまた後日送らせていただきます!配信後にこんな長文でdm失礼しました!おやすみなさい』


 あそこまで言われて、明太の中で『コラボを断る』なんて選択肢は微塵も湧かなかった。むしろ、どんな予定があろうと無理やり時間を作ってでもコラボ臨んでやるのいう大きな意志を抱いていた。

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