第3話 黄金の代償


真奈は気づいていた。自分の声が、少しずつ変わっていくことに。


「では、この企画でお願いします」


会議室で真奈が一度言葉を発すれば、誰も反論できない。まるで、意思が奪われたかのように、全員が頷く。それは、人智を超えた力だった。


だが、その度に、真奈の中の何かが失われていく。


トイレの鏡を見つめる。完璧な美貌は健在だ。しかし、その瞳の奥で、黄金の光が渦を巻いている。それは、もはや人間の目ではなかった。


「困ったことになったわね」


背後から声がした。振り向くと、そこには例の店員が立っていた。オフィスのトイレで、なぜ。


「パレットの力を使いすぎよ。このままじゃ、あなたの魂が食べられてしまう」


「食べられる?」


「ええ。女神の力には、相応の代償が必要なの」


店員の姿が、一瞬で消えた。残されたのは、不気味な余韻だけ。


その日の午後、真奈は気づいた。自分の記憶に、奇妙な空白があることに。会議で何を話したのか、部長に何を命じたのか。全てが霞んでいる。


そして、鏡を見るたびに、自分の表情が、少しずつ女神のそれに近づいていく。冷たく、威厳に満ちた表情。慈悲深く、そして残酷な微笑み。


「これが、私の望んだこと?」


問いかけても、答えは返ってこない。ただ、黄金の光を帯びた瞳が、不敵な笑みを浮かべるだけ。


真奈の影は、今や完全に歪んでいた。そこに映るのは、角と翼を持つ、異形の姿。まるで、古代の神々の化身のような。


復讐は、予想以上に順調に進んでいた。

だが、その代償は、真奈の想像をはるかに超えていた。

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