あのアニメのタイトルが出てこない2 - 妹好きラノベ作家が主人公のアニメ
多田島もとは
妹好きのラノベ作家が主人公のアニメ
俺は放課後の教室で、あの問題に直面していた。
まただ。どうも最近こんなことが続いている。
――あのアニメのタイトルが出てこない!
内容は良く覚えている。それは本当だ。なのにタイトルがどうしても出てこない!
顔面を覆う指に力がこもる。
「誰かと思えば鈴木氏ではありませんか。また例の悩みでござるか?」
「その声は有辺堂か! ああ、喉元まで出掛かっているんだがな……」
声のする方に振り返り、指の隙間から見えたのは、オタクを絵に描いたような男、
「リアタイ勢と違い、配信で見た昔のアニメの記憶が薄いのは仕方がないでござるよ。拙者でよければ、またお手伝いいたしますぞ?」
「クッ……ここまでか。すまないが有辺堂、お前の力を借りるときが来たようだ」
お手上げのポーズでオタク友……共通の趣味を持つ友人に助力を仰ぐ。
今はアニメファンの矜持より事態の収拾を図るのが先決、というわけだ。
「お安い御用でござるよwww で、どんな内容でござるか?」
まあ有辺堂ならこう答えるだろう。何といってもコイツもコイツなりに楽しんでいるのだから。
「確か主人公はラノベ作家だ。夢を叶えるため自著のアニメ化を目標にしている。その主人公なんだが、異常が付くほどの妹好きでな……」
「ほほう、禁断の愛というやつですな!」
「いや、親の再婚でできた義妹なんでそこは大丈夫なんだが……」
続けて義妹が主人公の前では性別を男と偽っている……と説明しようとしたところで、有辺堂のメガネが光る。
「大体見当が付いたでござるよ。主人公のラノベ担当のイラストレーターは妹と関係があるのではありませんかな?」
待て待て、いくらなんでも早すぎるぞ!
だが確かに尻フェチのイラストレーターが主人公の妹のパンツを脱がそうとしていたシーンがあったな。
「そうだ! 妹が裸を晒しそうになったあのシーン、際どかったな。視聴者としては惜しいシーンだったが」
「ええ、危うく配信視聴者にあられもない姿を見られるところでしたぞwwww」
嘘だろ!? 信じられないが有辺堂のやつ、あれだけの質問でもう正解にたどり着いたらしい。
マジか……どうかしてる。コイツが味方で本当に良かった。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、有辺堂は勝手に話を進める。
「拙者、ヒロインの中ではエルフちゃんが一番好きでござるよwww」
「エルフ? あのアニメにそんなキャラいたか?」
「いやいやいやいや、金髪巻き毛の激かわ美少女エルフちゃんを忘れるなんて……人としてどうかしているでござるよ!」
え~~~~? あのアニメに金髪ヒロインなんて……なんて……あれか!
あの税理士のことか――――!
少女のような見た目でも実は30代。
「確かにエルフだ。赤いロリータ服に髪飾りのキャラだよな?」
「そうでござるよ。エルフちゃんを忘れるなんてびっくりでござるwww」
「そういえば、あのエルフ32歳だったか?」
「惜しいでござるな。エルフさん14歳でござるよ」
俺はロリには興味がないがロリババアは別だ。
中身が大人のお姉さんなら何の問題ない。いや、むしろ好きだ。
「いいよな……俺はああいうキャラに母性を感じるんだ」
「エルフちゃんにバブみを感じるとは、鈴木氏はレベルが高いですなあ……」
有辺堂は少し引いているようだが、見た目がすべてのロリコン野郎には年上の魅力がわからんのだろう。
などと考えていたら、唐突に後輩の天才美少女作家の銀髪メインヒロインが思い浮かんだ。ふと前から気になっていた疑問を有辺堂に投げかけてみる。
「突然違うキャラの話をしてすまんが、年下の人気作家が創作のために全裸になる理由って何なんだろうな?」
「それ同じキャラの話でござるよwww 芸術家なら全裸ピアノくらいしても不思議はないでござろう? 拙者も別のキャラの話ですが、学校に行けなくなった銀髪メインヒロインが主人公の小説で立ち直る過去エピソードは感動的でござったな!」
「いやいや、それ同じキャラの話だろう! そういえば別のキャラで思い出したが、妹系美少女でパンツ大好きな下着フェチの絵描きキャラいたよなあ。CV:藤○茜の。あれ誰だっけ?」
「それ同じキャラの話でござる。変わってないでござるよ!!!!」
意味不明なループに陥りかけていたその時、突然誰かが話しかけてきた。
「ラノベ作家の兄妹のアニメっしょー? それ知ってる。うちアニメには結構詳しいんだ☆」
一度も話をしたことのない同じクラスの金髪ギャルだ!
まともに視線を向けられないこともあるが、俺には金髪ギャル以上に目の前の他種族を形容する言葉を持たない。
どこから現れた? というか生息域が違うだろ!
動揺が隠せない俺たちを余所に、金髪ギャルはWピースを決めながら話を続ける。
「うちねー、アヘ顔○ピース先生ちょー好き!」
「「そのアニメの話はしていない!」でござる!」
「あれ~ちがった? 邪魔してごめんね! スピー○ワゴンはクールに去るぜ☆」
金髪ギャルはそう言い残して去っていったが、お笑い芸人がどうかしたのか?
二つの大きなため息の後、放課後の教室はすぐに静寂を取り戻す。
「……興が削がれたな、今日は帰るとするか」
「そ、そうでござるな……」
薄暗い教室で帰り支度をしていると、有辺堂が嬉しい提案を持ちかけてくる。
「拙者、あのアニメの原作本なら全巻持っているでござるよ。鈴木氏も読まれるなら明日持ってきますぞ?」
「本当か!ぜひ頼む! アニメの続きが気になって仕方がなかったんだ。あの二人は無事に結婚するのかな? あ、お前の方が先に来てたら机の上に置いといてくれ」
おっと、つい早口になってしまった。
クッ……有辺堂め。嬉しそうにこっちを見てやがる。
「隠蔽工作は必要でござるか?」
「別に必要ないだろう。エロマンガじゃあるまいし」
「まあ鈴木氏がそれでいいなら……内容はいたって健全ですからな……」
そんなやり取りをして有辺堂と別れた後、俺はタイトルを聞きそびれていたことに気づく。
まあいいか、それも明日になればわかることだ。
もう外はすっかり暗くなっている。
明日が楽しみで仕方のない俺は、街灯の灯る道を軽い足取りで家路についた。
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