第10話 陸鍋村
「グレス、お前何やってるんだ…」
「イラついちゃって、どうしても。不可抗力だよあれは」
「反省の色を見せなさい」
「…はい」
「全くお前は…」
俺は今、村付近の森の中でグレスを説教している。
グー
「…」
「…仕方ないお腹空いたな。ちょっと早いが昼飯とするか」
「…はい」
とりあえず今は山の中だ。適当な山菜でも採って寿司にこしらえるとするかな。
「うーん…毒草とかが怖いな…。山菜採りって意外と勇気ある行為だったんだな…」
「ん?山菜採るの?」
「ん?ああ。初めての外食だ。折角なら寿司にしようかなと思ったんだ」
「山菜の寿司って美味しいの…?」
「なかなか美味い代物だぞ。メインディッシュにするには物足りないかもしれないが、今のお前には丁度いいだろ」
「なんか…いえ、ごめんなさい。それにしても山菜寿司って美味しいんだね!分かった!私今から採ってくるから、スマキは他の準備してて!」
バビューン!
「…行ってしまった。相変わらず寿司が好きだな、アイツは」
取り敢えず俺はスキルを使って酢飯、ツケ場を創り、寿司を握る準備を済ませる。
◇◇◇
「おかえりー」
「ただいま…って逆だろこれ」
「確かに…って意図的だし!!」
「ホントか?」
「…ホントだわ!!もう、はいこれ山菜!できるだけいっぱい採ってきたよ!」
「おっ、いいね。じゃあちょっと見せてもらおうか」
「はいはーい」
俺はグレスが採ってきた山菜を見てみる。
見た感じ芋やら木の実やら花に葉っぱ、キノコと幅広く採ってきているようだ。
「まずコイツは…前世のヨモギに近い見た目をしているが、若干違うような…?小さい頃にヨモギ団子作っていたから何となく違和感を感じるな…?他にもなんか、禍々しいし…」
「見てみて、まずはこのキノコ!マタゴタケって言ってね、滅茶苦茶美味しいの!」
…なんだか信用ならないので鑑定してみる。
《鑑定》
名称:ベニテグンタケ
マタゴタケに酷似しているが、激しい吐き気等を催すキノコ。食べるには適さず、量が多いと死に至る。
「…やっぱりかぁ」
「次はね、モヨギ!デザートとして拵えると深みが出て美味しいんだよ」
「…あぁ」
《鑑定》
名称:トリトカブラ
モヨギに酷似しているが、葉1gの毒で人を殺せる植物。食べると神経伝達が困難になり、最悪死に至る。
「ぉぅ…」
「次はこれだよ!趣旨を変えて、ゴマも採ってきたよ!調味料としては最高じゃない?」
「…」
《鑑定》
名称:ウゴトマの種
植物が作り出す毒のうち、最も毒性の高い植物の種。口に入れればまず間違いなく死に至る。致死量は化学兵器であるサリンの約4200分の1。
「…」
「どれも美味しそうでしょ?私の目利きは最高なんだからね!」
「殺す気か」
「なんでぇ!?」
「当たり前だ!これ全部毒物じゃないか!!自分で鑑定しなかったのかよ!!」
「えぇ!?」
そしてグレスは急いで自分の持ってきた山菜(毒物)の鑑定をする。
「…あ」
「ほらな?よくもまぁここまでピンポイントで毒物を持ってこられたものだな」
「…まじでほとんど毒物じゃん」
「本当だ、全く。しっかりしてくれよ」
食べられるやつといったらこの…
「…なんか、私浮かれてるみたいだな」
「…え?」
「…ごめんね?」
「あ…」
グレスがうつむいてしまった。これは俺が悪い。ミス…として片付けるには大問題すぎても、流石に言い過ぎた。
「…すまん」
「…」
あのグレスが口を聞かなくなるなんて、よっぽど落ち込んでしまったのだろう。…仕方ない。
「…さぁ、嬢ちゃん、確かに食えんもんばっかかも知れねえが、コイツを見てくれや!」
「…ん?」
俺がグレスに見せたんは前世で言う
「こいつはなかなかの高級食材でございやしてねぇ、俺ァこいつを加工すんのが昔から大好きだったんすよ」
「そうなの…?」
「へい、だから期待してくれてもいいんですぜ?」
「…うん!」
さァ、グレスの元気が出たところで、いっちょやってやりやすかぁ!!
「へい、おまちどぉ!自然薯の短冊とろろ作りでさぁ!!」
「へぇ、短冊切りにした数本の白い自然薯をとろろで酢飯の上にまとめてるのかぁ…!美味しそう!」
「今回の醤油、自然薯は野菜なんで濃いめに作ろうと思ったんですが、こいつはなかなかの上物だったんでねぇ」
「敢えての薄味醤油かぁ…。いいね!流石分かってるじゃないかスマキ!」
「そう言って貰えるとォ、有難いですぜ」
「それじゃ、いただきます」
パクッ
サクッ、サクッ、サクッ
「!!」
何だこれは!!大自然を感じるこの爽快感!!醤油と酢飯に見事にマッチしたとろろの味わい!!魚じゃない寿司が、ここまで美味しくなるのか…!
「スマキ!このとろろ、すごい秘密があるよね!」
「へっ、流石ァグレスだ。それに気がついたかい!」
「とろろが若干黒のつぶつぶがあって、最初なんだろうなって思ってたけど、皮ごとすりおろしたとろろなんでしょ!」
「ええ、その通りでさぁ!!」
自然薯の鮮やかな風味を感じて欲しくて、わざと皮ごとすりおろす。こうすると、皮に豊富に含まれる栄養の香り、味わいのお陰でより一層美味しく頂けるってわけだ。
「このなんとも言えない自然の広大な香り…。シャキシャキとした自然薯の食感…。素晴らしいよ!!」
「そう言って貰えて何よりですぜぇ!!」
◇◇◇
「…よし、片付けは終わったな」
「そうだね」
俺たちは一通り寿司を堪能し、片付けを終わらせた。ちなみに一貫じゃ足りないと言うグレスが爆速で自然薯を採ってきた。流石に10貫自然薯はキツかった。グレスも流石にキツかったと述べている。
いや他の山菜採ってこいよ。
「とりあえず、村の人たちに謝らなきゃ」
「ああ。そうだな」
「…スマキも一緒に来てくれるよね?」
「まぁ今回は俺の監督不行だ。俺にも謝る義務があるだろうし、俺も一緒について行くよ」
「えへへ、決まりだね!」
そうして俺たちは村に謝りに行くことになった。
◇◇◇
「村の前まで来たはいいけど…」
「どうやって謝るべきか…」
「とりあえず村長の所に向かう…?」
「村長の姿も家も、そもそも村長がいるかどうかすら分からないのにか?」
「…確かに」
「おい、お前たち」
「ん?」
グレスと2人で相談していると、門番らしき人物に声をかけられた。
「お前たち、あの爆発音の中心にいた奴らだよな?」
「え、あ、まぁ、はい」
「(どうするのスマキ!これめちゃくちゃ怒られて出禁食らっちゃうんじゃないの!?)」
「(わからん。だが俺たちは間違ったことはしていないだろうし、ここは堂々としていればいい)」
「(そうかなぁ…)」
「ちょっと、ついてきてもらおうか」
「え?」
まじで?説教される?いやなんなら公開処刑されてしまってもありえなくないんじゃないか?
「(どうするの!?結構やばいんじゃないの!?)」
「(…グレスは詰んだかもな)」
「(なにゆえ私だけ!?)」
「(…魔法打ったのお前だけだからな)」
「(…返す言葉もございません)」
「(冗談だよ。一緒に謝ろうな)」
「(最初からそう言ってよ…心臓に悪いってば…)」
「(はいはい)」
そして俺たちは門番に村の中へと連れていかれたのであった。
◇◇◇
「この度は、誠にありがとうございました」
「へ?」
門番に連れてこられたのは、村長と呼ばれる人の家だった。
その家の2階の一室、そこに入るとそこには土下座で感謝を伝える1人の老人がいた。あまりに見事な土下座に、グレスも素っ頓狂な声を出してしまっている。
「あの店は武力で、私達を殺す予定だとこの村の者全員に伝えまわっていました。明日がその日だったのですが、たまたま、本当に偶然、あなた様方が助けてくれました。なんとお礼を言っていい事やら…」
「そっか…。大変だったんだね」
「ええ。ですが脅威は免れました。本当にあなた方のお陰です。それから、迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありません…」
「それはいいんだ。別に旅にハプニングは付き物だ」
「それは良かった…」
「だけど1つ、気になる点があってな」
「?なんの事ですかな?」
「この村の奴ら、妙な落ち着きようだった。村がこんな有様だってのに、旅人も多く訪れていた。これは一体なぜなんだ?」
「あれ、あなた達は知らずにこの村に来たのですか?」
「知らずに?それってなんの事?」
「この村の祭りですよ。今夜行われる陸鍋村伝統の大規模な祭りです。この為に旅人などの人々が多く訪れる一大イベントです」
「へぇ…。中止には出来なかったの?」
「中止…、すみませんが、そんな安いプライドでこの祭りをやってるんじゃないんでねぇ…。観光客の人達に黙ってしまったのは申し訳ありませんが、いつもなら3日間日程で行う祭りを、今夜だけにしたんですよ。そこまでしても、どうしてもやりたい祭りなんです。これは村の者たち、全会一致の意見です」
「…そっか。軽はずみに中止とか言っちゃってごめんね」
「いえいえ、それに、あなた様方のお陰で3日間日程で開催することが出来るようになりましたから…!本当にありがとうございました…!是非今夜のこの祭りにご参加ください!」
「どうする?スマキ」
「どうするって、そんなの参加するしかないだろ?」
「そうだよね!じゃあ今日から3日、お邪魔させてもらおっか!」
「ああ」
「ええ、それは良かったです。では今夜の陸鍋村伝統『
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