第9話 旅立ち

 ~1週間後~


「さて、出発しようか」


「うん!遂にだね!いやー、この時をどれだけ待ち侘びたことかって感じだよ」


「ああ、俺も楽しみだったよ。じゃあ早速向かうか」


「うん!」


 この1週間、俺は魔術と包丁に合わせた剣術を特訓した。魔術はグレスに負けず劣らずの実力を得られたと思う。いや実際はまあまあ劣っている訳だが。そして剣(包丁)術も大分成長した。


「そうだスマキ、ここは極地きょくちと言って、世界の最果てに当たる場所なんだよね。だからこの辺りを旅したところで、見つかるのは枯れ木、枯れ草、渇いた湖に乾いた死体に群がる虫くらいだよ」


「確かにそうだったな」


「この前に行った所は私が意図的に潤してる場所だったからまあまあ豊かだったんだけど、そこだけで私たちの冒険の目的が果たせるかって問われたら到底無理だね」


「まぁ寿司にする材料はろくに見当たらなかったからな」


「そう。だからもうこの辺りは普通にスキップして、私の転移魔法で最寄りの豊かな地域に行かない?っていう提案なんだけど、どうかな?」


「ああ、いいんじゃないか?俺もこのグレスの城に来る前はもうトラウマになるほど探索させられたからな」


「あはは…私に見つかって良かったね、ほんとに…」


「そうだな。こうして仲間が出来たのだからな」


「仲間!仲間かぁ…!いいねぇ」


「で、どこに転移するんだ?」


「最寄りで豊かな地域の、ここから300kmくらいにある小さな村、陸鍋村りくなべむらだよ。じゃあ早速転移しちゃうね」


「わかった」



 《空間魔術》転移陣テレポートエフェクト



 グレスの足元から魔法陣が展開され、その魔法陣が白く光り始める。


「うおっ、地面に草が」


「うーん、私もだけど、それ以上にスマキの転移コストテレポートコストが大きいなぁ…。ねぇスマキ」


「なんだ?」


「私だけ先に転移されちゃうけど、陣から出ちゃだめだからね?」


「ああ、わかった」


 そして約2分後、グレスは転移されていった。

 そしてその更に1分後に俺も転移された。


「おっ、着いたね」


「ああ。それにしてもここは森か?村に転移すると言っていたが、これは?」


「いやいや、転移の魔術なんてこの世で私とあと空間魔術が使える数少ない人くらいしか使えないから、そんなの村の中で大々的に使ったら皆ビックリしちゃうでしょ?」


「なるほど、確かにそうだな」


「そう。だからスマキも!強いのは分かるけど!しっかりと力は制御しなきゃだめだからね!!」


「はいはい…」


 そんな強く言わなくても…と思ったが、最近魔術で森を大規模的に焼いた事を思い出したので、自重を強く言われるのは相応だと思い直した。


「じゃあ、ここからどうするかだが」


「服装を整えたいなって思うんだけど、どうかな?包丁とかスマキも買っておきたいでしょ?」


「ああ。だが包丁なんてどうすればいいんだ?料理屋とか刃物専門店とかに行けばいいのか?」


「あー確かに、包丁なんか武器屋に売ってるイメージは無いなぁ」


「グレスは武器なり包丁なりを作れないのか?」


「うーん…作れるには作れるけど、創造魔法の鋭さを出すのが苦手なんだよね…」


「そうか。だから市販の方が良いってことか」


「いや、そう言われるとなんか悔しい!私が包丁作る!!だからスマキは服だけ適当に買ってきて!!」


「えー、でも市販の方が強


「嫌だーーー!!!スマキってほんと時々めっちゃいじわるなのどうにかしてーーー!!!」


「お前も時々でるその駄々こねどうにかしなよ」


「うーーるーーさーーいーー!!!!」


 ぐるるると唸るグレスを片目に、俺は服屋に寄っていく。グレスは先に武器を見ると拗ねながら言って武器屋に寄って行った。


「大分質素なものばかりだが、今の布切れみたいなやつよりかはましだな。いい感じのやつは…」


「らっしぇー。なんかあったら言ってー」


 奥のイスに足を組んで座っている女性がいた。

 ものすごい適当な接客だな…。個人的には別にいいと思うが、不快感を感じる人だって中にはいるだろうに。まあこの町唯一の服屋だから売上が落ちることはないだろうが。


「この店で安くて丁度いいような服ってありますか?」


「人によっけどー、ま、おじさん筋力あるようには見えないしー、魔術師ローブ的なん買ってけばー?」


「魔術師ローブか…」


 なるほど、服にも性能があるのか…。


 『鑑定』


 ふむ、なるほど。ステータスの上昇は乗法ではなく加法か…。100とか200とか上がったところでほとんど誤差だし、どうしようか。


「適当でいいので適度に安価なおすすめをお願いします」


「適当でいいん?んじゃこれとこれとこれー」


 服とズボンと靴、簡易的でそこそこ質素ではあるが丈夫そうなものを選んでもらった。接客は適当だが、なかなかいい物を置いてるなと思った。


「んじゃ4000マーニねー」


「マーニ…金か。えっと…」


 ん?待てよ?俺はこの世界の金なんて持ってないぞ?

 そうじゃないか!!しまった、盲点だった!今の俺は一文無し、この服の金を払えない!


「あっ、すいません、お金が足りないので、これらを買うのはまたの機会に…」


「は?何言ってん?私が決めてやったんだろ?こんくらいケチってないで払えよ」


「ですが、払えないものは払えないんですよ!」


「チッ、なんだお前。しゃーねー、お前ら!連れてけ」


 女が誰かを呼んだかと思えば、奥からガタイの良い男5人ほどが出てきた。全員凄くムキムキで、片手でリンゴを潰せそうなやつらばかりだ。


「あーあ、あの兄ちゃん、あの店のボッタクリに会ってるよ」


「可哀想だが、冒険者の俺らでも適わねぇ実力者ばっかだから、助けることも出来ねえ」


「通称『初見殺しのボッタクリ』にこの辺りの服屋が潰されちまったし、あの店に入るのはしゃーねーしな…。あの兄ちゃんも奴隷として売り払われるのがオチだろうな…」


 なるほど、後ろの野次馬の話を聞く感じ、この店は払えない程の値段を提示し、払えないやつをボコボコにするとかいう酷い店らしい。しかもその後奴隷として売り払う。最低の集団だ。


「お前ら、やっちゃってー」


「へい姉さん!!」


 5人の男が襲いかかってくる。


「死ねやゴラァ!!」


 1人目が脳天を潰す勢いのパンチを放つが、余裕で回避。グレスに比べたら遅すぎるったらありゃしない。

 その腕を掴み、無理矢理ねじる。骨を粉砕させ、男の右腕がぐちゃぐちゃになる。


「うわぁ…、自分でやっておいてなんだが、グロいな…」


「なっ…!」


「あんま調子乗んなよクソガキ!!死ねぇ!!」


 2人目の男の蹴りが来るが、当然それも遅い。膝を逆向きに曲げる。そしてその男の腕を掴み、3人目の男へぶん投げる。

 店の壁が壊れるが、知ったこっちゃない。


「うっ、嘘だろ!?」


「ええい、2人でかかれば良いんだよ!」


「「せぇぇぇい!!」」


 2人同時に殴りかかってくる。拳、拳と来るが、全て避ける。

 2人の拳がぶつかりあったところで、片方に裏拳、もう片方に蹴りを入れる。どちらもあばら骨を折った感触がした。


「残りはお前だけだ。俺は女だからって容赦はしない」


「あっ、ああっ…」


「待て待てストーップ!!」


 背中にグレスが抱きついてくる。


「ちょ、ダメだよスマキ!こんな所で急に暴れだしちゃ!」


「いやそれが、どうやらこいつらはボッタクリ業者で、金が払えないやつを奴隷として売り払っているらしいんだ」


「へぇ…。確かに力で無理矢理屈服させようとしてきている感じはするけど、もう少し加減しなきゃ!」


「?なんでだ?」


「いやなんでだ?って、みんなボロボロすぎるし、この人達、お腹に拳の跡が深く付いてたりして、もう瀕死だよ!」


「あれ、そうなのか。しまったな」


「あんまり私を無視するんじゃないよ!!」


 そして最後の女がナイフで襲いかかってくる。


「あんたがどれだけ強かろうとね、このナイフの刃に触れば、強烈な神経毒であんたは一瞬でお陀仏だよ…!」


「へぇ、怖い怖い。でもね、女さん?」


「な、なんだよ…!」


 グレス、あれはキレてるのか?いつもの駄々こねとは違う、別格のオーラを感じる。


「スマキを騙そうとした事、私は絶対に許さないからね?」


「なんだと小娘!この毒でお前も殺してや



 《風塵魔術ふうじんまじゅつ汚濁風槍セピアズロアー



「待て待て最上位魔術をここで使うなよグレス!」


「知らない!こんなゲスを匿ってる村ごとここ一帯をぶっ飛ばす!!」


「短気すぎる!って違う!」


 とにかく結界を…!


「あっ、ああっ、」


 人々を奴隷として売り払う詐欺師の女…、こいつは死んでもいいか。



 《結界魔術》絶対アブソルート



「うわぁぁぁあ!?」


「なんだ!?爆発したぞ!?」


 魔術自体は防げたが、圧力や衝撃による爆音は防ぐことが出来なかった。


「フーッ!フーッ!」


「すいませ、ほんっとにすいません!!」


 そして俺たちは村の外の森に逃げるように駆け込んでいった。

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