第8話 ステータス

「?」


 なんだここは?真っ暗だな?


「…」


 なんの音も聞こえない。わずかに風が響く。


「ここは…一体?」


 周りを見渡すも、何も見えない。そこに見えるのは、光の届かない暗闇のみ。


「…!」


 いや、何かがある。何か、大きくて、真っ暗な何かが、そこに。


「誰だ?」


「…」


 返答はなかった…と思っていたのも束の間、


「ほう」


「!?」


 急に暗闇の中から、2つの光が現れる。いや、暗闇なのに何故か見える…といったようなところだ…。


「なんだ」


「貴様、ふむ」


「はぐらかしやがって」



 《情報魔法》鑑定



 ネームド不定


 HP:20000/999999999999

 MP:3500/999999999999

 攻撃値:9217464049

 防御値:8246184665

 俊敏値:538464575

 クリティカル率:45%

 器用値:434815737





「なんだこれ!?」


「…鑑定されたか」


「なんなんだお前、一体」


「ふむ」


「ふむしか言わないけど、本当になんのつもりなんだ?」


「なんのつもりは、私のセリフなのだがな?」


「どういうことだ?」


「わからないか。別にそれでも良い。…ふむ」



 《鑑定》



「あっ」


 しまった、鑑定されてしまった。こんな怪しくて姿も現さないやつに情報が…。


「ふむ。鑑定阻害か。…他干渉魔術か。それも高度だ」


「鑑定阻害…?」


 グレスがやってくれていたのか…?いや、そんな事は今どうでもいい。


「おい、ここはどこなんだ?」


「…貴様はもう帰れ」


「答えろよ」


「帰れ!!」



 《独亭害損どくていがいそん魔術》殺戮ゼノベーション



「なんだ!?」


 真っ暗でよく分からないが、何かが迫ってきている。


「クソっ…!」



 《火炎魔術》 不死鳥舞踏フェニックスフレター



「気持ち悪いなこれは」


 焼き払い、炎で周りが明るくなったためやつの魔術が見えた。だがそれはとてもこの世のものとは思えない造形をしていた。

 棘の生えたような太い触覚のような、赤黒くおぞましい何かがこちらに向かってきていた。


「…殺すのは諦めよう。だがここからは出ていってもらおうか」


「なんだよ…?」



 《独亭害損魔術》 郷鴑発シャットアウト



「うおっ」


 目の前の視界が炎があるはずなのに暗くなっていく。

 かと思えばその視界は明るくなった。









 俺はグレスの城のベッドで寝ていた。


「よく分からなかったが…夢で良かったのか…?」


 とりあえず起き上がり、朝飯を作る。流石に最近毎食寿司だったので、健康に気を遣いたくなった。あと単純にさっきのせいで寝覚めが悪いから握る気になれない。


「悪いなグレス、今日は目玉焼きと白米だ」


 そして米をスキルで出し、卵を焼く。

 あれ、そういえば自分のステータスをじっくりと見た時ってあまり無かったな…。


「んーっ…おはよぉ…」


 階段からグレスが降りてきた。眠い目を擦っている。


「おっ、グレス。丁度いい。今いい具合に卵に火が通ったところだ」


「んー…?今日は寿司じゃないの…?」


「まあ毎日寿司ってのも健康に良くないしな」


「そっかー、スマキは健康に気をつけなきゃいけないしね」


「ん?なんだその私は健康大丈夫と言っている様な発言は?」


「ん?私は健康とか実際大丈夫だから…」


「いや、お前も健康には気をつけろよ」


「ああ、違くて、魔王のジョブスキル《不老不死・魔力永遠供給》の影響で別に健康とかどうでもいい体になってるんだよね」


「…そうか。それよりジョブスキルとはなんだ?」


「ん?あれ、そういえばスマキが自分のステータスちゃんと見てる時ってあったっけ…?」


「いや、無いな。さっき丁度その事に気づいたところだ」


「ん、じゃあちょっと開いてみて」


「ちょっと待ってくれ。まずは目玉焼きと白米をよそわせてくれ」


「そうだったね。よろしくー」


「おう」


 そして俺たちは朝ごはんを食べてしまう。



 ~20分後~


「なんか卵焼いただけなのにめちゃくちゃ美味しかったんだけど、なんかしたの?」


「特別なことはしてないさ。火を通しすぎると美味しくない、火が通って無かったら生だ。その間の「点」を狙って焼いたんだ。余熱の関係でささっと食べてもらった訳だが」


「へぇ…焼けば焼くほど良いんじゃないんだね…」


「そりゃそうだろ」


 コイツ、料理に詳しいのか料理音痴なのかよく分かんないな…。


「よし、本題に入ろっか!ステータスを2人で分析してみよっか!」


「ああ」



 《ステータス》



 サトウ スマキ

 HP:595837/595837

 MP:〒〆+~〆|^\×€

 攻撃値:979856

 防御値:1293542

 俊敏値:10002

 クリティカル率:15.5%

 器用値:9999999999999999

 ジョブ:寿司職人

 ジョブスキル:握り匠



「こうやって自分のステータスをじっくり見たのは初めてだな…」


「うわぁ…相変わらずの化け物性能…」


「はいはい。引くな引くな」


「まあ攻撃とか俊敏とかはわかるね?」


「ああ」


「サトウ スマキ、いい名前だね」


「その辺の名前だよ」


「んーん。前世ではどうだったか知らないけど、この世界の名前って言うのはめちゃくちゃ大事なんだよね」


「へぇ?」


「ピンと来てないね?名前付与ネームドって言うのは、ホントにめちゃくちゃ大事でね?ネームドした人、その個体への相性が深く関係するんだよね」


「なるほど?」


「だからあだ名なんて以ての外なんだよ。失礼だし高貴な人にそれやったら首落とされる人も居るってよ」


「え、それだったら、グレス…ティーア、めちゃくちゃ悪いことをしたか…?」


「いや、大丈夫だよ」


「そう…なのか?でも悪いことは悪い…」


「あーだから大丈夫だって。えっと…個人的にはグレスの方が好きだからさ、これからもグレスがいいな?」


「…そうか。じゃあグレス、次を頼む」


「うん!えっとね、ネームド…はまあ相性と名付け親の魔力量によって、強さが変わるってだけ」


「なるほど、わかりやすい」


「まあそんなところかなー。そして次、ジョブ。これもめちゃくちゃ大事でねー。ジョブ固有にあるスキル、ジョブスキルって言うのがあってね。その影響でその個体の能力が変わるんだよね」


「そうか。俺はどんなジョブスキルなんだ?握り匠にぎりしょう…?前世の子供の頃は確かにそんなふうに呼ばれたが…」


「そいつは使ってみないとわかんない。私の魔王のジョブスキルなら名前からして分かりやすいしオート発動なんだけどさ、握り匠とか、見ただけじゃよく分からない。使い方もよく分かんない。そういう時は、ステータス画面をタップするんだ。それだけで概要が見れるはずだよ」


「へぇ…なるほど」


 そして俺は自分のジョブスキル欄をタップしてみる。

 すると、手前にまた1つ画面がで現れる。


「これは…?」



 ジョブスキル《握り匠》


 古代最高位スキル。魔力が無限大、器用値は最大値になる。

 握った対象にバフやデバフをかける事が出来る。また、武器『包丁』でのダメージが6000倍になる。




「うえぇ!?なんだこの壊れ性能!?」


「確かにこれは素人目線でもやばいな…」


「握り匠…これは相当恐ろしいかもしれない…。不老不死もえげつないけど、この能力上昇はやばいよ…」


「でも、これなら寿司にバフをかけられるということになるな?」


「あー確かに?じゃあなんか適当に1貫握ってみてよ」


「それ、お前が寿司を食いたいだけじゃないのか?」


「なんでバレたん…?いやでも10分の1くらいはスキル把握目的だし!」


「ダメじゃねえか」


 と、多少グレスに呆れつつ、寿司を握りに厨房へと向かう。

 そして厨房に着いたはいいものの、何を握ろうか迷っている次第だ。


「さっきまで卵焼いてたし、卵焼きにするか…」


 そして調理にかかる。

 寿司屋の卵は食感が命だ。どれだけ美味い味付けでも、固ければ寿司には馴染まない。

 だが、卵の白身をメレンゲに加工する。そうすることで卵焼きの中に無数の空気が含まれ、シャリに合うフワフワの卵焼きが出来上がる。


「じやあ、握りに入ろうか」


「うん!」


 そして俺は握りに入る。


 ~5分後~


「へい、卵焼きお待ちぃ!!」


 まあただの卵焼き1貫なのだが、手のひらに集まる魔力が形を作るようだった。上手く言えないんだけど、こう…筆舌に尽くし難い感覚であった。


「見た目は普通の卵焼きだけどな?でもめちゃくちゃふわふわしてるな…なんだこれ?」


「こちらぁ、白身に大量に空気を含ませたメレンゲになってますぜ!さぁ、1貫だけですが、是非食ってみてくだせえ!」


「ふぅん」


 パクッ


「!?これは…!?」


「どうですかぃ?」


「心地よいふわふわ具合が口の中で踊る…かと思えば滑らかな口どけ、シャリとの一体感…なんだこの凄まじいこの味は…!めちゃくちゃ美味しい!」


「ふぅ、ああ、気に入ってもらって嬉しいよ。それもそうだが、能力に何か違和感は無いか?」


「あ、そうだった。ちょっと見てみるね。


 《ステータス》


「そういえば若干力がみなぎる感じがす…る!?」


「どうだ?」


「な…なっ…!?」


「どうしたんだグレス?」


「魔力量が…私の魔力量が…5倍近くまで膨れ上がってるんだけど!?」


「なっ!?ちょっとステータス見るぞ…?」


「え?あっちょ、」



 《情報魔法》鑑定

 バチィン!!



「うわっ、目痛っ!!」


「あ、ごめん!私常に鑑定阻害魔術を展開してるから、見ようとしても普通に見れないんだった…」


「早く言ってくれよ…!普通に目痛かったわ」


「あはは…ごめんごめん…。でも!この能力凄いよほんとに!!」


「ああ。俺の予想通り、『魔力の倍加』というイメージの元で握ったんだ。この能力は凄いな!」


「うん!めちゃくちゃ凄すぎるよ!」


 こうして俺たちはこの日、スキルと魔術に没頭し続けたのだった。

 あの事は、思い出せずに。



 名称不定


ジョブ:邪神

ジョブスキル:世界呪詛

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