第7話 魔術と気付き

 俺は水晶玉に手をかざす。

 さて、俺は一体どんな適正属性なのだろうか。


「おっ、出たね。あとはこうしてこうしたら、紙にスマキの適正属性が書かれるんだけど…、あれ?」


「ん?どうかしたか?」


「ちょーっと待ってねー…えーっと…?これが本当だとしたらちょっとなー…。いやでも、まぁそうだよねぇ…」


 急にグレスが渋い顔をする。どうしたのだろうか?


「すーっ…まじかぁ…」




 ~30分後~


「はい、スマキ。これがスマキの適正属性なんだけど…」


「なんだ?なにがあったんだ?」


「えっとね、回復魔術の適正が大きく出たんだよね。それと火炎魔術の適正がそこそこあったよ」


「なるほど」


「それだけ」


「…え?」


「いや、落ち込むことなんて無いんだよ!?2つの適正属性があるってだけでも、100人に1人くらいの確率なんだしさ!それにほら!バランスがいいよね!攻撃的な火炎と支援的な回復!もうすごい才能だ!うん!」


「いや大丈夫だ」


「あれ?以外とすんってしてるね?大丈夫だよ?私が異常ってだけで、普通は1つあるって人ばかりなんだから」


「いや、違うんだ」


「え?」


 そう、違うんだ。確かにそう言われるとめちゃくちゃ疎外感というか残念感があるにはあるが、そんなのはどうでもいいんだ。


「自分の適正属性を認知した事によってなのかはわからないが、俺が掴んでいた魔力が、確固とした形を持っているんだよ…!」


「魔力に形が…!そっか!基本の人は対象が1つだから比較対象が無くて形がわからない。だけど私みたいにごちゃ混ぜにになってしまっても形というものを捉えるのは曖昧になってしまう…!だからこの2つの適正属性って言うのが、魔力を理解する上で最も最適なんだ!」


「確かに。2分割されたこの感覚のおかげで、はっきりと形が見えていると言っても過言じゃない。これが魔力の本来の形…!」


「よーし!こいつは最高の逸材だぁ!早速魔術の練習に入るぞー!」


「ああ!」




「…って感じ。出来る?」


「ああ。多分な」



 《火炎魔法》 火の小玉ファイア・ボール



「おー」


「こんな感じか。結構難しいな…」


「まあでも理論を教えたら一発で出来ちゃう辺り、ほんとに天才なんだなって思うわ。ほんとにスマキは…」


「まあでも難しい事には変わりない。次も教えてくれ」


「うん!次は難しいぞー?」


「ああ。構わん」


 そして俺たちは魔法の練習に取り掛かっていた。

 グレスが丁寧に理論を教えてくれるおかげで、感覚がとても掴みやすい。流石オタクなだけはある。


「じゃあ次は妨害系かな」


「妨害系?」


「球状のものって、比較的作りやすいんだよね。でもそれが魔法陣だったり、牢屋の形だったりすると、急にコントロールが難しくなる。だからこそ、集中して、そのものの形をしっかりと頭の中で捉えるんだ」


「…こんな感じか」



 《火炎魔法》 炎の檻メラニックプリズン



「うん。いいね。若干歪だけど、温度は高いし形も保たれている。最初にしては…いやこれ最初なのほんとに信じられないんだけど…。え?転生前の世界って魔法がなかったんだよね?なんでそんなに扱えちゃうの?」


「さあ」


「…まあいいや。さ!次の魔法はどうしようかなー?」


 俺ってそんなにおかしいのだろうか?と思いつつ、俺はグレスの修行に挑むのであった…。





 ~その日の夜~


「んー…疲れたなぁ。今日はありがとな、グレス」


「いやまさかここまで吸収の早い化け物だとは思わなかったわ…」


「化け物とは失礼だな」


「当然でしょ。魔法の上位互換である魔術を使いこなしただけでなく、事故って丸焦げにしちゃった動物をピンピンに治しちゃったんだからさ」


「実践的に使用できてよかった。俺の知ってる限りではリスだと思うのだが?あの動物は」


「り…す?あれはリグマス。凶暴性の低い安全なモンスターだよ。凶暴性が低いだけあって、ペットとして人気があるんだよね」


「へぇ。この世界にもペットとかいう概念があるんだな」


「まあどっちかというと従魔っていう主従関係だったりするんだけどね」


「へえ、従魔か」


 いつか従魔というのも試してみたいな。…っていうかグレスを従魔には出来るのだろうか?魔王って従魔対象だったりするのだろうか。


「で!で!そんな事より夜ごはんだ!スマキ!今日の夜ごはんお願い!」


「夜ごはんか。夜ごはん、ごはん、ごはん…ねぇ」


 そういえば昼飯は抜いていたな。というか朝飯も食べてないし…。…ん?朝飯?


「あ」


「え?どうした?」


「あ」


「あしか言えなくなっちゃった?」


「朝飯作ったまま置きっぱなしだ」


「え」


「ダッシュ」


「え?ちょっと待って!!ってか足速すぎる!?」


 まずいまずい!寿司を無駄にするのは俺の信念が許さんぞ!!せめて少しでも美味しく頂くためには、全速力で走らなければ!!


「待ってってスマキ!!ってか速すぎるんだけど!?なんかのバフでもかかってんの!?」



 《情報魔法》 鑑定



 サトウ スマキ

 状態:火事場の馬鹿力



「え?」


「ダダダダダダダ」


「こんなところで火事場の馬鹿力発揮すんなぁぁぁぁぁぁぁあ!!」





 ~キッチン~


「良かった、弁当箱に入っているし、もしかしたら…っていうか、そういえば俺…」


「うえっ…はぁ…はぁ…足速すぎ…魔力使って加速してたし、どんだけ才能あるんだよ…ホントに…」


「すまない、急ぐ必要、全くもって無かった」


「え?」


「見てくれ、弁当用と思って作っていた寿司だ!」


「弁当用?え?私わかるよ?ただでさえお米って乾きやすいでしょ?それなのに保湿もなんもしてないそんなお弁当用の寿司なんてもの作ったらカピカピで食えたものじゃないんじゃないの?」


「そうでもないぞ?見ろこれを」


 そう。俺は笹(と思われる)の葉で1つ1つ丁寧に寿司を包み、水の蒸発を防ぐ寿司を作っていた。その名を笹弁当寿司!大将と1度本気で考えた寿司を実践していたのだ。


「味付けが途中だったのでな。実はこれは完全体じゃないんだが、それでも充分美味いはずだ。若干乾き気味かもしれないが、少し加工をすれば元に戻るさ。座って待っててくれ!」


「はぁ…はぁ…なんも聞いてなかった…ってか作業にかかるの早すぎるだろうが…」


 そして俺は少し水蒸気を戻してやるため、若干加工をするのだった。




「おいしょお待たせ致しましたぁ!こちら笹弁当寿司1人前になりまぁす!」


 さっきまで弁当にしていたので、せっかくなら形も弁当に合わせてみた。


「お、来たな?…中身は昨日とほぼ一緒に見えるけど?」


「ええ、すいやせんがネタは被ったもんしかありませんくてですねぇ…でも!昨日とはまた違った味付けの1品だぁ!是非ご堪能くだせぇ!」


「職人バージョンスマキがそこまでいうなら期待出来るな。じゃあ食べる順番は昨日と同じにしようかな…?」


 まずは1つ目、昨日の通りにいくとこれはタメイなのかな?昨日とは違うようには見えないけど…?


「!?!?」


「へっ、どうですかい?お客さん?」


「この食感、引き出された味わい…昨日のは繊細な味わいで美味しかったが、昨日のと比べて格段にはっきりとした味わいがある…!」


「ええ、そいつはタメイの昆布締め。昆布締めってのはそのまんまの意味で、昆布で巻いてやるだけでさぁ!」


「確信の持てない繊細な味わいこそ鯛の魅力だと思っていたのだけど…これは美味い!美味すぎるよ!!次をお願い!大将!!」


「何言ってんですかお客さん、今日は弁当の形ですぜ?今日のメニューは全て、そこに詰まってるんでさぁ!」


「あ、つい。えへへ…」


 そんなこんなでとろけながら寿司を食べるグレスを見つつ、キッチンの片付けをするのだった。






 ~30分後~


「はー、美味しかったぁ」


「だろ?俺の寿司はどんな状況下であっても一級品だ」


「自己評価が随分とお高いようで…。でもそのくらいの価値はあったよ!ほんとにスマキの寿司大好き!!」


「ははっ、そう言って貰えると嬉しいね」


「しかもさ!セセの葉の香りが丁度気持ちよく鼻に通って、心地いい味だったよ!」


 ふむ、前世の笹はここはセセというのか。ほぼ一緒じゃないかという疑問は置いておくか。


「お、その魅力に気がつけるとは、やはりなかなかやるね」


「へへーん」


「話は変わるが、明日も魔術の練習をしたい。だから旅の出発は明後日でいいか?」


「んー、いいね。確かにそれが丁度いいかも」


「よし。わかった。じゃあ明日はまたよろしく頼むぞ。それじゃあ俺は寝る」


「うん、私も寝るー」


「おやすみ」


「おやすみー」


 そして俺は自分の部屋の毛布にくるまって眠りにつくのだった。

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