第6話 魔法の修行

 そして1時間後、俺たちは出発を遅らせ、グレスに修行をつけてもらうことにした。流石に魔物というのは怖いからな。


「えっとー、人に教えたことなんて無いからよくわかんないなぁ…?取り敢えず、基本戦闘は私に任せてね。私より強いやつはこの世でまずいないからね。…多分」


「まあ世界を滅ぼせるグレスより強いんだったら、抵抗する間もなく一瞬で殺されるだろうな」


「…一応私もトレーニング続けるわ」


「そんな渋い顔をするな。自信を持てよ。俺の師匠として、俺の相棒としてさ」


「相棒…」


「なんだ?なんか嫌だったか?これから一緒に旅に出るに当たって、形だけでも関係に名前をつけときたいと思ったんだがな。なら今まで通り、昨日会った知人でいくが…」


「いや!いいよ!全然!相棒でいいよ!ほんとに!」


「そうか?ならこれからよろしく頼むぞ」


「う、うん」


 そして俺たちはなんとなく握手を交わす。


「(えへ、えへへ、相棒、あいぼうかぁ…えへへぇ)」


 さて、何を考えているかはわからないがだらしない顔をしているグレスを現実に引き戻し、修行を始めようか。





































 ~3時間後~


「浮かれましたはい今まで友達すらいなかったので申し訳ございませんでした」


 あれから3時間が経った。ずっとふにゃふにゃになって、時々液体になっていたグレスを元通りにするのは、めちゃくちゃキツかった。2つの意味でキツかった。

 はぁ、まさか正気に戻るのに3時間もかかるとは夢にも思わなかった…。


「お詫びとして、私の最上位魔法及び最上位魔術を伝授させていただきます」


「あー硬い硬い。もういいよ」


「けろっ。あ、そう?わかったー」


 コイツ…口でけろって言いやがったぞ…?


「というか、数時間前も思ったんだが、魔法と魔術で色々使い分けているよな?あれの違いってなんなんだ?」


「ん?ああ、それはねー、実際に見てもらった方が早いかな」


「そうか?」



 ~近くの森~


「周りに草木があまりない場所、ここならいいかな?」


「なんで2つの違いを見せるためにわざわざこんな所に来たんだ?」


「ふふん、見てなよ?」



 《火炎魔法》 炎の息吹フルフレイム



「おお、なんか火炎放射って感じだな」


 今グレスは、掌から炎を出した。射程の長いガスバーナーみたいなイメージだった。


「そう。自分の掌から炎を出したでしょ?今の火力をしっかりと覚えておいて…いや、覚えるまでも無いかな…?」


「ん?それはどういう事だ?」



 《火炎魔術》 天災の爆散火炎アトミック・プロミネンス



「な、」


 目の前にとてつもなく巨大な火柱が立つ。前世の東京スカイツリーレベルだぞ…?こいつはヤバすぎる…。


「どう?これが魔術。言ってしまえばただの上位互換ってだけさ。だけど魔術という枠組み、魔術という名前の着くものは、圧倒的なんだ。これが違いさ」


「なるほど…」


「ま、魔術というのはほんとに難しい技術だから、出来るかどうかはわかんないけど、歴史に残っている回復魔術では、エリアヒールっていう魔法で、範囲が増える分効率が大きく落ちるっていう魔法のはずなのに、ちぎれた四肢をくっつけられるとかいう回復魔法の天才がいたんだとか」


「魔術の域になるとそんな事もできてしまうのか。俺もやってみたいな」


「うん、いいよ。っていうか教えるためにここに来たんだから。やってもらわないと困っちゃうよ逆に」


「どうすれば出来るんだ?」


「そうだなー、まずは自身の体の中に眠る魔力を見つける所からかな?」


「魔力?」


「そう。まずは見つける、まあ所謂瞑想をします。さっきいいカンジの木蔭見つけたし、ちょっと移動しながら話するね」


「そうか、わかった」


 そして俺はグレスについて行きながら話を聞く。


「魔力っていうのは、体内を流れるエネルギー…いやエネルギーじゃないんだよな。なんて言ったらいいかな。…こう…どっちかというとオーラに近いイメージかな…?」


「曖昧でよくわからんな」


「そう、曖昧でよくわからんの。それこそが魔力の正体…なんだと思う。そもそも瞑想とかしないと存在を感知すら出来ない代物だし、瞑想したって出来ない人だっているし…。まあいいや。その魔力っていうのは、全身に巡ってるの。これは全人類共通。キャパティシーは見た事はないけど、個人の研究結果的にはあると考察してるんだよね。っと、着いたね。とにかく、瞑想のコツを教えるからさ、一旦座ってよ」


「ああ」


 丁度いい木陰とやらに辿り着き、早速座る。


「よし、座ったね。でも座り方にもコツがあるんだよね。まずはあぐらをかいて…って、完全にその姿勢だよ…」


 前世の世界ではあぐらをかいて、両手をお釈迦様のような手にして太ももの辺りに置く。その形こそ、ザ瞑想って感じだったが、それが正しかったらしい。


「えっとじゃあ目を閉じて。私も隣でやるから」


「わかった」


 目を閉じて、深呼吸をする。


「魔力というのは全身を巡っている。体内では特に首、心臓、脳、手元に集まっている。息を4拍吸って、8拍吐く。続けていると体がリラックスした状態になる」


「スゥ-、ハァー…。スゥ-、ハァー…」


「そうすると、体内に感触を感じてくるかもしれない」


「…」


「集中が浅い。もっと深くを見るように」


「…クッ」


「息が上手く吐けていない。リラックス状態になるにはそれではダメ」


「…」


「いい感じだ。そのまま目を瞑っているんだ」


「…」


「…」


「…」


「眠くなったような感覚になってるね。成功だよ。この状態を維持してね」


「…」





 ~1時間後~


 なんだろうか、これは。とてつもなく落ち着く感覚。全身が暖かいような、それでいて冷たい流れを感じるような…、不思議な感覚。


 ポウッ


 これだ。今俺が手に掴んだ温かい何か。何故かはわからないが、これが絶対に魔力だと言い切れる。若干冷たくて、楕円で、いや楕円状の何かの上に、薄い何かが乗っていて…?その塊が手のひらに収まって、それで…。




「いや、これ寿司じゃね?」


 ふと目が覚めた。さっきの森の中。時間がどれだけ経ったかはわからないが、太陽が落ちていないので、それほど時間は経っていないだろう。

 というか、肩にグレスの頭が乗っかっている。っていうかコイツ、ぐっすり寝ていやがるぞ。


「絶対にあれが魔力だって言い切れる。何故かはわからないが、そんな気がしたんだ。今もそれが掌にある」


 掌を見てみる。何かが特別変わった訳でもないが、感じたあの、冷たくて、美味しそうな感覚は強烈だった。二度と忘れることは無いだろうな。


「ってかグレス。起きろ」


「うぇ…?ん~、スマキ、スマキ。しゅまきぃ…」


「…」


 俺は無言でグレスの頭を撫でてやる。自分では分からなかったが、多分にやけていたと思う。


「んん~…。しゅまきぃ…、おしゅ…し…」


 なんだコイツ。可愛いな。


「待って馬鹿馬鹿スマキ!なんででかい寿司の中に頭突っ込んで死んでるの!?スマキ!スマキいいいいい!!」


 なんだコイツ。引っぱたこうか。


「ん~…むにゃむにゃ…」


「起きろー。絶対にこれだというものを掴んだ。早速魔法の練習がしたい。起きろー」


「ん~…ん、あ?えっと…おはよう?」


「多分おはようだ」


「そっか。…え?今なんて言った?」


「多分おはようだ」


「違う違うその前」


「魔力というものは絶対にこれだって」


「え!?!?ちょっと待って!太陽の方向、この感覚、間違いない、1時間しか経ってないよ!!」


「1時間?結構かかったな」


「ばっか!普通丸1日かかって超絶優秀なんだからね!?私ですら15時間かかったって言うのに、なんで1時間でできちやうかなぁ!?本っ当にスマキはバカ!バカバカバカ!」


「バカバカ言うな。それよりも魔法だ」


「うぅー…魔法の王としての名が廃っちまうよ…。でも良いや。それよりもこんな逸材が使う魔法の方が気になるし!そうだなあそういえばスマキのステータスの魔力量は文字化けレベルでやばかったんだよなそれを考えると私の倍いやそんなの比べ物にならないか100倍あるかないやでも魔力量が魔術の威力を高めるなんて話は無いだろうしでもここまでの才能からして100倍も夢じゃなかったりしてっていうかこれだけの化け物すぎる能力持ちだし一応こういう魔力多すぎお化け専用の魔術とか考えたら面白いなあでも私の師匠なんかでそんな威力出せる人材に育てられるかなっていうか私の100倍だったら宇宙的に見てここら一体吹き飛ばしちゃうよなぁそう考えたら流石に100はないとしてでも5倍はゆうに超えそうだよなどうしよっかまずは火炎からいくかいやでも」


「あの?オタクモードから抜け出してもらって良いですか?」


「ん?ああごめん。ちょっと待ってね。まずは魔力適正をちょっと調べなきゃいけないんだったわ」


「魔力適正?なんだそれは?」


「まあ所謂、適正属性は威力が増すよってやつだよ。不適正が出れば威力が極端に落ちるし、適正属性ならめちゃくちゃ威力が上がるんだよね。ちなみに私は全属性適正を持っているスーパーエリートなのさ!私みたいな全属性適正は歴史を見ても2…いや3しかいないね!まあその内の1人は生まれた直後に斬首されたらしいけどね…」


「なるほど。じゃあ早速やってもらおうか?」


「うん。話してる間に水晶と紙を創っておいたから。この水晶に手をかざしてね」


「わかった」


 そして俺は手をかざす。一体、どんな属性が俺の適正なのだろうか。この時はめちゃくちゃわくわくしていたのだった。

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