第44話
雪野先輩は見事県内の最高峰である進学校に合格した。
私は
「そうだよねぇ………」
という気持ちだった。
私と雪野美月は、もう別々の道を歩むのだ。
たぶんその道はどんどん離れていくだろう。
私の人生ではもう雪野美月と近くなることは無さそうだ。
舞台を通して味わった一瞬の繋がりが如何に貴重なものだったかをつくづく思った。
もし、雪野先輩が受験に失敗していたとしても、私と雪野美月は全く違う世界を生きていくだろう。
改めてそれを実感した。
だとしたら、雪野先輩の人生倉庫に幸せが一つ追加されたことを喜ぶべきだ。
そんな感じ方しか出来なかった。
この時、雪野美月に対する私の気持ちをはっきり自覚した。
雪野美月が遠い世界に居るのでは無く、私自身が最初から雪野美月を遠くて高い場所に置いていたのだと。
そうすることで自分を守ったのだと。
他から私と雪野美月との果てしない距離を知らされる恐怖から逃げていたのだと。
私は、潜在的に自分肯定が出来ないのかもと。
「『出来過ぎ雪野』だからって退く必要は無いぜ!」
と、ピーターにはよく言われたが、私には一番難しいことだったかもしれない。
雪野先輩が入試にパスしたことを「そうだよね」と軽く捉え「予想通りじゃん」と笑うことで自ら二人の間に距離を置き私は自分を守った。
その頃の私に出来る最強の守りだった。
それから卒業式迄は、自分で固めた守りのお陰で雪野先輩との別れをナーバスに捉えることも無く、比較的ノウテンキに過ごすことが出来た。
「もうすぐ雪野先輩とお別れだね。
それにしてはアイラ淡々としてるけど、寂しく無いの?」
などとチカに言われても答えようが無かった。
今思えば、誰よりも雪野先輩と離れることを悲しんでいたと思う。
ただ私の『守り』が『諦め』を押し付けていただけだった。
昔の王様や皇帝や位の高い貴族なんかに恋する庶民のように最初から諦めていただけ。
今なら『韓流ドラマか!』と笑い飛ばせるけれど。
私は毎年その時期、酷い鼻風邪をひいており、高熱を出すことは無かったのでインフルエンザでは無いけれど、微熱とクシャミ鼻詰まりが長期に渡って続く厄介な症状の風邪だとずっと思っていたのだが、それは風邪では無く、その頃から話題になり始めた『花粉症』だと分かった。
杉花粉だ
花粉症は体質が改善されない限り毎年症状が出ると知った私は力が抜けた。
私の症状は決して軽く無いからだ。
クシャミが出だすと暫くは止まらなくなるし、鼻詰まりで鼻呼吸が出来なくなるため終始口を開けていることになるので、必ず喉がやられ気管支炎になる。
結果そのまま喘息に移行するか高熱を出すことになる。
鼻詰まりと喘息のダブルを想像してみてくれ(ب_ب)
出始めると際限無く続くオヤジのようなクシャミは、息が出来ない程止めどなくなり、途中からお腹がツッてくる。
所謂コブラガエリだ。
足のコブラガエリじゃ無いよ、お腹のコブラガエリ!
鼻詰まりで鼻水をすすることが出来なくなると、タラーンと流れるままになる。
両鼻穴にティッシュを突っ込んでいる私は、自分が年頃の少女であることもすっかり忘れている。
っつうか、覚えていてもそんなことを構っていられなくなる。
異常に目が痒くなり、思いっきり掻いてしまうと白目がプヨプヨ水膨れ状態になる。
そんなこんなで夜中は眠れないし、毎日その状態が数ヶ月続く。
1月頃から6月頃迄続く年も有った。
そんな年は杉以外の植物にもアレルギー反応が盛んに出ていたので、1年中休む暇無く喘息、鼻炎、アトピーと格闘していた。
私の花粉症は軽く無いどころか可也重症なのだと後々分かった。
つづく
挿し絵です↓
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