第10話 ピンク草原
「りゃしゃあああああしゃあああうわああああ!」
僕は叫びながら斬りつけていた。
今日もピンク草原にやってきているのだが、なんとあの青毛の魔物ことピピピリラの希少種と遭遇したのだ。
希少種とは、魔物がその身に宿している魔力の種類が特殊な個体であり、全身が虹色に輝いているのだ。
こういった魔物の素材は創造神が行っている新たな世界の創造のためにも優先して使われる。
そのため、希少種の素材には魔物のレベルに応じてボーナス報酬がふんだんに盛りこまれている。
元となってるピピピリラ自体はレベル三なので、レベル三の希少種ということになり、なんとこれ一匹で討伐報酬百万コゼニカだ。
「ふぉおおおおお!」
渾身の斬り下ろしが今、弾かれた。
剣の柄を握りしめる手のひらが痺れて仕方がない。
なんといってもこのピピピリラの虹色個体、その身に纏う魔力障壁が硬すぎる。
もしかしたら現時点の僕の魔力操作技術ではこいつを傷つけることが可能な魔力障壁を作り出すことができないのかもしれない。
そんな馬鹿な。
百万コゼニカだぞ?
絶対斬る!
その時、人の気配が背後から近づいてきた。
「私たちは四十九番都市オオバネ所属・
僕と同い年くらいの男女が五人、ピンクの草原のなかを歩み寄って来る。
「僕と同じ四十九番目の都市……それも助堂地高だって?」
毎年九月頃から年末あたりまでにかけて行われているプロ冒険者団体によるアマチュア冒険者を勧誘する期間、その際に高頻度でプロ冒険者を輩出し続けてきた名門高であり、なおかつ僕の通う上昇青葉高校と同じ上昇二葉市内にある学校。
それが助堂地高等学校である。
彼らは皆、赤色の制服姿であった。
「その魔物は俺たちの獲物だ。そっちには手を引いてもらおうか?」
リーダー格っぽい威風堂々としたたたたずまいの男子生徒が言った。
僕は眉間にしわを寄せた。
「もちろん断る。僕が先に見つけた獲物だよ、これ」
「獲物?」
男子生徒は失笑した。
「その魔物に先ほどから貴様は遊ばれているだけじゃないのか? なぜならその魔物は逃げもせず、丸まっているだけだからだ。貴様に害されることはないとそう確信しているからこそ、そういう対応を取っているんだ」
女生徒が続いた。
「そっちが先に見つけていようとね? 討伐できる見こみがない以上、私たちが手を出しても横取りにはならないわよ?」
「なん、だって?」
僕は慌てた。
「あと少しで斬れるんだ! だからもう少しだけ待ってくれ!」
「二分だ。二分の間に討伐することを誓え。それ以上は待てない」
男子生徒は腕を組んだ。
「分かった! 必ず斬ってみせる!」
僕はおたけびを上げながら、何度も虹色のピピピリラを斬りつけたが、やはり斬れない物は斬れない。
「はい、終わり―」
無情にも女子生徒が終了の合図を告げた。
助堂地高校の連中は僕を見て大笑いする。
「さー、どいたどいたー」
彼らは情けの欠片も見せずに僕をどかしてきた。
「っく」
悔しくて溜まらないが、斬れなかったのは事実だ。
「あ、逃げた! 皆、追いかけて!」
しかも虹色のピピピリラは僕が相手じゃなくなった瞬間、逃走を図った。
ピンク草原の草の根がまるで風に煽られるように騒動しくなった。
くそ、僕は無力だ。
その後、ピンク草原に生息するレベル二の魔物を狩り続けた僕は、籠の中身が満ちると、ふてくれされながら冒険者ギルドへと戻って来た。
換金を終え、一階へ向かい、更新された討伐実績の確認を行っていたのだが、ふいに受付嬢に愚痴を零してしまった。
「はあ……虹色のピピピリラを見つけたんですけど、けっきょく斬れなくて百万ふいにしました」
「その話ならもう聞きました。つい先ほど噂になってましたよ? あの剣闘士の二位之陽光郎が、ピピピリラも斬れなかったって」
受付嬢の言葉に、僕は耳を疑った。
「噂っていったい誰が?」
「さあ……?」
僕は内心、憤慨する。
あの時、あの現場にいたのは僕と助道地高の奴らだけだ。
この二位之陽光郎を、コケにしやがって。
「助道地高の奴らめ……」
そうぼやいた瞬間、受付嬢がしらっとした顔で早口を発した。
「そういえば、去年行われた全国剣闘士新人闘技大会の西オオバネ代表を決める都市大会で、プロライセンスを持つ助道地高の選手を打ち破った際にあの学校全体を対象として小馬鹿にするような態度を取っていた剣闘士がいたような気がしましたけど……それって」
瞬間、僕はばつが悪くなった。
「ぼ、僕はこれで帰ります。お疲れさまでした」
冒険者ギルドの外に出る。
夜の街並みに人工の明かりが灯っていた。
車道を通る車の走行音が唸り響いている。
帰宅するために僕はとにかく歩いた。
足は止めずにずっと否定の言葉を心の中で吐いている。
昨年の大会で助道地高の選手を倒した直後、僕は確かに助堂地高のことを小馬鹿にした。
だが違うんだ。
あれは僕じゃない。
剣闘士をやっていた頃の僕のマネージャーである春日さんからキャラクター付けのためにそう発言しろと、そう指示されてやっただけなんだ。
だから僕のせいじゃない。
悪いのは僕じゃないんだ。
なんていうのは真っ赤な嘘だ。
僕自身が選択した結果だ。
この面についた口を開いて出た発言の数々があの時の罵倒であった。
他の誰でもない僕がやったことだ。
そんなことより、クソ……虹色ピピピリラはなんで、この二位之陽光郎には斬れなかったんだ。
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