第4話 キバリール草原

 青空の下、草原が広がっていた。

 緑の中に道筋は伸びている。

 僕は大きな籠を背負い、歩いていた。


「ここがレベル一ダンジョン、キバリール草原か……」


 景色を眺めながら進んで行く。

 ちなみに他に身に着けている装備は先ほど買った頑丈な外套とバッグ、そして剣闘士時代から愛用している腕時計と剣帯とロングソードだ。

 さらにパンフレットを手に持ち、今はそれに目を通している最中だ。


 レベル一の魔物は一体につき一コゼニカから五十コゼニカくらいの稼ぎにしかならないらしい。

 ただし時々、ドロップする世界結晶は一コゼニカから十億コゼニカのランダム価値がある。

 言ってしまえば宝くじってことだ。

 それと低レベル帯では貴重なアイテムはドロップしないらしい。


 低レベルの魔物は遭遇しやすいが、討伐報酬も安い。

 レベル一の魔物一体、一から五十コゼニカというのも、いい素材を持ち帰れたかどうかで金額が上乗せされた上でのその報酬額なのだ。

 普通に考えたらやってられない。

 このレベル帯で働いていくなら普通に別のアルバイトをしたほうが遥かに儲かる。

 それでもアマチュア冒険者に一度はなっておこうとする人間が多いのは、就職活動とかで有利になるからだ。

 魔物討伐は世界の未来を守るための行為であり、神々の大半が喜ぶ行為でもある。

 評価されて当然だった。

 

 それにしても、レベル二の魔物が一体で五十コゼニカから百コゼニカくらいとのことだから、ここらへんのレベル帯まではボランティア感覚のようなものなのだろう。

 レベル三の魔物くらいになれば一体、最高値で千コゼニカくらいの報酬になるらしいので、この仕事をアルバイトとして頑張ろうとする人も出てきそうだ。

 いや、それでも最低値を見ると百コゼニカか。

 命の危険が常に隣り合わせとなるため、やっぱり稼ぎと仕事内容を考えれば、割に合ってなさすぎる。

 普通のアルバイトをした方が懸命というものだ。


 敵のレベルが上がれば上がるほどその分、稼ぎも増えるが、命の危険も増していく。

 いずれプロ冒険者になることを目的としていたり、高レベルの魔物を倒せるようなアマチュア冒険者として生きていこうとしていない限りは、あまり長く続けるべき職業ではない気がした。


 まあそれでも仮に冒険者がダンジョン内で亡くなったとしても名誉ある死として扱ってもらえるという嬉しさはあった。

 

 一コゼニカのために魔物と戦って亡くなったとされるよりかは、僕だって世界のために死にたいものだ。

 

 とはいえ僕は少額だろうと全力で稼ぐつもりだ。

 背負った籠の中に魔物の死骸を沢山詰めこむ予定である。



「キバリール草原は、レベル二ヤーツアイ森林やレベル四のドドロバケ砂漠なんかと隣接してて、レベル五のトコヤミ廃都が万が一遠目に見えたら要警戒と……あとレベル三ファファバ洞窟の出入り口が縦穴で落下注意と……」


 ぶつぶつと文字の羅列を読み上げながら僕は草原を歩む。

 すると草原の中に同い年くらいの少女が現れた。

 というよりは僕が彼女の前に移動してきたのだ。


「ちょ、なんでこっちきてんの!? あっち行きなさいよ! あんた!」


「なんで?」


「見たら分かるでしょ? 洞窟があんの! 私たちは今からここへ突入するとこなの! 邪魔しないで!」


 彼女が両膝をつき覗きこんでいる地面に開いた縦穴。

 僕も遠目にその大きな穴の存在を把握する。


「もしかしてそれがレベル三ファファバ洞窟の出入り口ってことでいいのかな?」


「そうよ? 零級はお呼びじゃないの! 消えなさい!」


「そうするよ。すまなかったね、邪魔して」


 僕は謝罪し、彼女から離れた。

 あの女の子が付けていたバッジには90-3と刻まれていた。

 九十番目の都市所属の三級冒険者ということだ。

 弟の闇弥も彼女と同じ三級だ。三級ともなればアマチュア冒険者のなかでの駆け出しを卒業し、並みのアマチュア冒険者くらいの評価は周囲から得られるようだった。


 とにかく彼女から距離を開くため、僕は草原の中を通る道筋を駆け抜けて行く。

 そうこうしていると、目前に魔物が飛び出してきた。


 キサールという名前の木枝の肉体を持つ猿の魔物だ。

 キサールは飛び掛かって来た。


 腰のロングソードを抜き放ち、僕は難なくと敵を斬り捨てた。

 足元に出来上がったキサールの死骸を見下ろす。

 木枝の塊だ。


「はあ……これ全部持って帰ったとしても五十コゼニカくらい貰えればいいほうなのか」


 全身が木枝でできたキサールの体。

 大して金にならない。

 だが次の階級に昇級するにはキサールと同レベルの魔物を百体も討伐する必要があった。


「後何体、籠の中に積め込めるんだ……?」


 僕はうんざりした。

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